第175話・じょじさん

「うむ、伯爵以上の貴族の子息には卿を使うのですぞ! 英語だとロードになりますな!」


 と、伯爵は得意げに語る。伯爵位に憧れてただけあって、貴族というものにはちゃんと詳しいみたいだ。


「なるほど! 実は僕、もう少ししたらイギリスに行くんだ。そこで貴族社会と英語について、勉強しておこうって話になったの。それで、ブリテン・ゴッド・タレントに出るんだ」


 万に一つ、優勝してしまった場合は、王室の参加するイベントに出席する権利をもらえてしまう。だから、下手をすると客席に英国貴族の方が居るなんてことも無いとは言えない。


 その、皆無に等しい可能性に対する予防と、王子様風衣装のお披露目。二つを同時にできる。だから、今回のコラボがあるのだ。


「となると、王室への礼儀ですな! まず、呼び方は女王様に対しては陛下。そして、王家に属する方には殿下ですぞ! 陛と言うのは即ち天への道、その下にあるから陛下となるのですな! して、王は即ち殿の下にあるから殿下ですぞ!」


ドクダミ:この伯爵ニセモンじゃね?

カタバミ:俺らの伯爵が有能なはずがない!

さーや:陛下は階段の下から呼びかけるからだよ! 殿下も似た意味。だから、ちょっと違う?

オヒシバ:俺らの伯爵だったwww

銀:リン君に適当教えるな!

デデデ:待て、さーや氏の雑学が凄すぎる……


 普通、そんなことは知らない。だから、僕はうっかり騙されそうになった。


「な!? なんと!?」

「なんと!? じゃないよ! 今考えたでしょ?」

「いや、我、ずっとそうなのだとばかり……」


 すごく詳しいと思ったのに、やっぱり伯爵は伯爵。ポンコツだ。

 僕は、軽くため息を吐いて、話題を変える。


「じゃあ貴族のことはこれでいいや。英語教えて!」


 ソーランド王国とやり取りしたのだ。多少の英語は出来るだろう……。


「あ、えと……ハロー?」


 どうしよう、既に嫌な予感しかしない。


「伯爵って、英語できるの?」

「英語などハローとワッツディスだけ言えれば十分ですぞ! わからないことは現地で聞けばいいのですぞ!」


 だめだこりゃ……。


カヤツリグサ:雑草被害出てんねぇ……

スギナ:無能すぎて雑草すら枯れるわ……

コニシキソウ:エイヨウ……ナイヨウ……

お塩:雑草すら生えないとか塩害でも起きてんのか?

エノコログサ:逆にこの伯爵には何ができるんだろう……


 そんな、視聴者さん達の総ツッコミを受けて、伯爵はすっかり意気消沈してしまった。


「我……伯爵の才能ないのである……」

「まぁ、人望はあるから! ほら、領民さん減ってないじゃん!」


 伯爵のチャンネル登録者数は、初配信から比べて微増。独自にファンも獲得して、これからにも期待の持てるライバーだ。


ドクダミ:しゃーねーな! 肖像画寄贈するか!

スギナ:売り払われて元々よ!


 なるほど、これがファンアート収集システムとして機能しているのだ。

 ポンコツ領主を支える健気な領民に見えるが、ファンの名前が雑草だ……。


「我が領民が天使なのだあああああああああああ!」


 と、感激する伯爵だが……。


「待って! それ、マッチポンプされてるだけだから! その領民自体が雑草だから!」


 どう考えても、雑草被害の元凶はファンなのだ。そのネタを表しているのが、ファンたちが自ら雑草を名乗っているところである。


スギナ:ばれたか……

ドクダミ:君のような勘のいいガキは嫌いだよ……


「おじさんだぞ!」


 僕はこらえきれずツッコミを入れる。


銀:自称な

わー!ぐわー!?:おじさん(12)

麻辣:じょじさん


 まずい、イジりの空気が僕の方まできてしまった。じょじさんなんて、多分おじさんのイントネーションで発言してるだろう……。女児とおじさんを混ぜたものだ。


 僕はいじられ経験は比較的少ない……。だから、こういう時の対応の経験値が足りていないのだ。


「あ、うぅ……」


 だから、何を言っていいかわからなくなる。


「公爵家にそれは不敬であろう!」


 と、伯爵がそれをかばってくれる。


デデデ:実は、秋葉家特にリン君には神族説がある。公爵扱いも不敬かもしれない……。

銀:つまり実年齢はおじさんだけど、神族だから赤ちゃんってことか……

コニシキソウ:神族を公爵扱いしちゃうとか、伯爵はまたやらかしましたねぇ……

さーや:リンちゃんが赤ちゃん……育てたい……。


 だがそれも結局はイジりに帰結した。


「我々、苦労するであるな!」

「うん……。僕なんか赤ちゃん扱いされてる……」


 だから、結局おじさん同士慰めあう放送になったのである。

 英語に関して伯爵は、全く役に立たなかった。きっとそれも含めて孔明お兄ちゃんの罠だ。


 そもそも、英語を僕が学ぶ必要はないのだと後で孔明お兄ちゃん本人が言った。通訳として活躍してくれる人材は確保済みらしい。

 この放送には、とれ高以上の意味がなかったのである。

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