第168話・秋葉ニュース

 秋葉ニュースプロジェクト。孔明お兄ちゃんの考えた、とある文化を緩和するプロジェクトだ。


「最初のニュースです。Bakerプロダクションに新たなアイドルが加入しました。公開された名前はMARI。ファンの間では、Bakerプロダクション初の女性アイドルと囁かれています。ですが本人は男性を名乗っており、容姿も相まって、当秋葉家所属の秋葉リンと同様性別不明アイドルとなることが予想されます。これについて、感想をリンちゃんから頂戴したいと思っています」


 司会は文お姉ちゃん、そして僕はコメンテーター担当だ。


「正直、僕の周りって性別が機能を放棄してるんだよね! Bakerプロダクションの社長さんは、よく放送に遊びに来てくれるし、夏マケでもアルバム買いに来てくれたんだ。だから、周りって行ってもいいのかもしれない。でも、そっかぁ……。テレビ芸能界にも性別機能放棄現象が波及しちゃったかぁ……」


 銀さん、SilverIrisさんは、テレビには出ない。雑誌やファッションショー専門だ。だから、油断していた。さすがにテレビでそんなことは起こらないと思っていた。


 だけど、パネルに映し出されたMARIさんはとっても可愛くて、とても男性とは思えない。なんというか、可愛いお姉さん系アイドルといった感じだ。


 Alenさんが、MARIさんに萌えで殺されなければいいけど。そんな風に僕は思った。


「俺、この子が男子トイレに入ってきたら、おしっこ止まっちゃうなぁ。法的には、男子トイレに入るしかないんだけどね。あぁ、法整備って難しいなぁ……。国会議員さん頑張って!」


 僕はまだ、ちょっと大丈夫な場合がある。例えば、大人の男性を伴って男子トイレに入る場合だ。幼女判定されるから、周りが察してくれる。お父さん同伴かな、と……。僕としては不名誉極まりないけど、助かっているのも事実だ。


 でも、MARIさんはやばいと思う。どこからどう見ても、可愛いお姉さんだ。カゲミツお兄ちゃんに同意な人も多いだろう。


「国会議員の方には、この性別機能放棄問題に対処してもらう必要があるかもしれません。さて、次のニュース……断罪です。当秋葉家所属のVTuber、未散ママとリンちゃんの熱愛が発覚しました。手をつなぎ、二人で仲良く買い物する様子が激写されています。本日はゲストとして当事者をお呼びしています」

「待って!? パネル消して!! これ、ガチのオフじゃん!」


 だが、放送画面ではそのパネルは加工され、VTuberとしての僕達が映し出されるのみだった。


「いやぁ、これは断罪ですね。リン君、ママとデートしたの?」


 カゲミツお兄ちゃんに追い詰められ、僕は白状するしかなかった。


「これ……一緒に、冬物の服買いに行ったとき……です」


 忙しい合間を縫って、二人で出かけた時のものが激写されていたのだ。僕が見ている映像では、僕はサングラスにマスクだけど、ママは素顔だ。


「ほぉ? ラブラブじゃん!」


 と、カゲミツお兄ちゃんが冷やかしてくる。


「こちら、インタビュー記録があります」


 そう言って、文お姉ちゃんはパネルの画面を切り替えた。そこには、銀さんが写っていた。


『俺ね、未散ママとリン君両方大好きなんだけどさ。これはただの、てぇてぇ供給だよ! 見てこの画面! リビドー感じない!?』


 次に、Alenさんが映し出された。


『いやぁ、イイですNE! KAWAII! でも、キを付けてクださい! 軽率にKAWAIIで殺しに来ますからね、彼ら!』


 他にもインタビュー記録がたくさんあった。てぇてぇ、可愛い。そんな言葉が、連発された。関係性ヲタという言葉も、登場した。


「では、法に基づき、量刑判断をしたいと思います。今回この件、非常に悪質なため執行猶予なしですね! というわけで、リン君はママによるおててないないの刑一日を求刑します!」


 いつからここは、裁判所になったのだろうか……。


「不当な量刑です! 本件は、視聴者様に対するてぇてぇ供給となっているため、その事件性は極めて低いものであり、不起訴が妥当です!!」


 僕は反撃した。裁判所の被告弁護人を真似しながら。


「主文! 被告秋葉リンを、おててないない一日に処す。量刑の理由! そんなことを言ったら、ママが悲しむため、ギルティである! また、おててないないにはてぇてぇ供給が内包されるため、視聴者に対する損害補填にもなりうる」


 だが、そう言われてしまうと、僕は言い返せないのだ。だけど……。


「おててないないはいいけど……損害って何!?」


 それをカゲミツお兄ちゃんが解説してくれた。


「視聴者さんが、デートの様子を見れなかったこは、賠償責任を伴う損害である」


 裁判風に……。

 でも、なんとなく孔明お兄ちゃんが、ニュースでやりたいことがわかった。てぇてぇという言葉を、テレビ芸能界に流出させたいのだ。そして、アイドルの恋愛をてぇてぇと言いながら受け入れるファンを作りたいのだろう。


 きっと、アイドルの恋愛禁止を緩和したいのだ。これは多分、VTuberにしかできないことだ。


「量刑を受け入れます……」


 後日、僕はママにおててないないの刑を執行される。

 その時コメントでは『異議なし!』が、渦巻いていたのだ。

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