第167話・あらまし

 春風家の人たちと、反省会を行うのはわかる。そのために、孔明お兄ちゃんと文お姉ちゃんがいるのも。だがその、ThisCode会議にはなぜか僕も呼ばれた。


「なんでぇ!?」

『ぶっちゃけると、桜のご褒美だ。俺がどういう判断の元に今回の一連の初配信をやらせたのか知ってほしいらしい』


 それを知ることが出来るのは、非常にありがたい。だけど、情報漏洩には気をつけなくてはいけない。あまり、中の人の性格の話をすると、営業妨害になってしまう。


「なるほどね! いや、桜ちゃんはすっごい頑張ったと思ったよ! アイドルVTuberとして理想的な初配信だったと思う! 歌の練習も楽しみにしてるよ!」


 とりあえず、まずはその桜ちゃんを褒める。本当に、完璧だったと思うのだ。いくら褒めても、褒めたりないと思うほどだ。


『リンちゃん、そうじゃないんです! 放送が終わってから気づいたんですけど、桜がちゃんとやれたのは、ユエさんと和泉さんのおかげなんです!』


 それはおそらく、孔明お兄ちゃんの計略だ。


『実は、初配信の得点王が和泉で、サポート王がユエってところか?』

『二人は、台本を忠実に守って配信をしていただきました。私が、嘆くことも含めて台本通りです』


 孔明お兄ちゃんと文お姉ちゃんが、初配信の真実を明かしていく。


『営業妨害ですよ! ポンコツブチかませるの美味しいから、やっただけなんですけど! これからも、ポンコツドスケベモンスターのつもりなんですけど!』


 ユエさんはやっぱりシズクさんだ。計算尽くのポンコツを、狙いすましてやってのける。


『まぁ、表では言わないようにしてもらえばいいじゃないですかー? でも、ごめんなさい。前世がバレバレになっちゃいましたー』


 と、和泉さんが謝った。でも、孔明お兄ちゃんは別に怒っていない。


『いや、正直どこかのタイミングでどうせバレる。自分から積極的に情報を発信したのではない以上、身バレは美味しいだけだ。それに加え、強烈なポンコツを酒でかましたな? ポンコツかますのは比較的苦手のはずなのによくやった! 春風ママというキャラクターが非常に出しやすかった。まぁ、ボトルを開ける音を聞いたときは、焦ったけどな』


 そう、結果的に孔明お兄ちゃんの策略通りに物事が進んだのだ。だから、満足ではあっても、責める部分などどこにもない。


『とても、出やすかったです。お酒を取り上げると言う、大義名分がありましたから』


 春風ママこと葛城さんも、放送とは言っていることが違う。それに和泉さんは霰さん時代から生来の酒好きである。自分の素をうまく利用したのだ。


『台本には、ある程度自由を持ってもらうため、盛大にやらかすとしか書きませんでした。やはり、細部は本人に任せる方がうまくいきますね』


 あれをうまくいったと評していいのだろうか……。確かに結果を見ると、それはとてもいいものだった。うまく、行っちゃったのである。


『立ち会いから強くあたって、あとは流れでやりましたよー!』


 和泉さんは、おっとりしてる風でありながらとても親しみやすかった。


『後半三人、よくやった! 前半三人! まず、辺騎! 一発目をお前にした俺の目に狂いがないことを証明したな?』

『軍師殿の慧眼は見事であると言わざるを得ませんな! 後、ナイト卿とお呼び下さい』


 放送中じゃないというのに、伯爵は伯爵だった。


『ナイト卿も素晴らしいものでした。本家が流し込んだファンを、次に見事につなげてくれました。雑草被害と言う新語が生まれたのも、ナイト卿の偉業と言って差し支えないでしょう』


 確かに、VTuberが原因で新語が生まれたとあれば、そのVTuberの将来的な人気は約束されたも同然だ。元ネタの検索から、露出が確保できる。


『我が領民は、非常に優秀なのです!』


 それで、天狗にならないことを将来の資質と思って差し支えないと思った。


『ほんと、お前を最初にしてよかったよ。ナイト卿! さて、次は唄だな。お前はしっかり台本無視芸をカマしてくれた。ナイスだ!』

『やりたいことを、やりたい放題できるのって最高です! ご褒美に師匠とのコラボ歌を要求します!』

『お、おう……。やりすぎだけは、注意しとくぞ。今回は本当に、ギリギリだった。初配信で、歌を解析するなんて前代未聞だ。だが、セーフだし結果も残した。秋葉家に来てくれてありがとう!』

『こちらこそ、採用を本当に感謝してます! してくれなかったら、師匠とはもう一生会えませんでした!』


 やっぱり唄さんには、完全にロックオンされている。たぶんいつかコラボすることになるのだと思う。


『最後に、創介! よく最後まで放送やりきったよ! あえて台本を穴だらけにしたのに、よくできたな? 配信なんて初めてだろ?』

『一般人として、愚直に放送の基礎を学びました。主に参考にさせてもらったのは、フォルセ・アフィグルーと言うVTuberの方です。褒めていただき、恐縮です』


 フォルセさんは、三森さんと二人で、カサ・ブランコ不動の司会だ。あの司会力にも納得がいった。


『これから、司会をお願いする場面が増えそうですね!』


 文お姉ちゃんの言うとおりだと思った。


『さて、春風家は収益化申請だが……。一週間もあれば、申請できるようになるだろ。それまでは、ちょっと下積みと思っててくれ!』

『一週間!? あ、そっか、登録者数が78万いるんだった……』


 元々VTuberだった人の方が、この情報に驚く。だって、普通はそんな早く通らないのだ。そもそも、明日には条件を満たす人もいるだろう。


『秋葉家って、ヤバイですよねー。普通、半年とかかかりますし……』


 初配信でありえないチャンネル登録者数を手に入れているのだ。VTuber経験がある方が、この状況に焦るはずだ。


『普通はもっとゆっくりなんですか?』


 逆に、経験が無いと驚かない。桜ちゃんなんて、基準が僕だ。僕はおかしい方所属だから、桜ちゃんに常識を求めるのは酷である。だが……。


『僕も最初はもうちょいゆっくりだったかなぁ……』


 初配信は僕でもここまでじゃなかった。非常識所属から見て、春風家はさらに非常識だ。


『じゃあ、桜の方がお姉ちゃんですね!』

「それとこれとは、関係ないよ!」


 という、予行演習にもなりそうなプチ喧嘩が起きた。それを、孔明お兄ちゃんが止める。


『後にしろぉ? 明日は、文とリンとカゲミツで秋葉ニュースの初配信だ。リンの予定はみっちり詰まってるからな!』

「はぁい!」


 どうせ楽しい活動だ。どれだけ忙しくても、構いやしない。

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