第166話・疾走アイドル
春風家の最後を飾ったのは蒼さんであり、桜ちゃんだった。
『よ、よろしくお願いしますっ! は、春風桜です!』
だが、その桜ちゃんは、なぜかガッチガチに緊張していた。
銀:あれ? どうしたの? ティザーの時はあんまり緊張してなかったよね?
そこが疑問だった。
『あ、いえ……。今頃になって、すごいところに来ちゃったという実感が沸いてきたといいかすか……。なんか、一瞬冷静になっちゃったんです!』
それを聞いて、僕はなんとなく緊張の理由がわかった。憧れと衝動に突き動かされて麻痺していた感覚が、戻ってきてしまったのだ。
その状態で、今の同時接続人数はやばい。僕が初配信でこの状況になったら、心臓が破裂するかもしれない。
さーや:なんで緊張してんの? 失敗しても大丈夫っしょ! 前二人、盛大にやらかしてるよ!
夜告鳥:加えて、やらかしで同接増えてますからね。やらかしたほうがいい可能性まであります!
秋葉孔明:ま、俺としてはやらかさない方が嬉しいけどな! やらかしても大丈夫、美味しい方向に処理するさ!
秋葉未散:なんだか、最初のリン君の放送前思い出すなぁ。リン君も放送前すっごい緊張してたんだよ?
秋葉リン:ママ、バラさないでよ!
Mike:なにそれ、めっちゃ見たかった!
シルフェ:人間アピ……
あぁ、僕と一緒だ。失敗しても成功になる土台を作ったんだ。もしかしたら、あの時も孔明お兄ちゃんは裏で協力していてくれたのかもしれない。そう思うと、僕は確実な一言をコメントすることができた。
秋葉リン:思いっきりやろ! 失敗も、成功だよ!
本当に、懐かしくて、可笑しくて、暖かい記憶に包まれる。先輩という言葉は禁止されているけど、それでも秋葉家の先輩としてこんな世話も焼けるのが嬉しかった。
息を吸う音がマイクを通して聞こえる。魔法が、かかったのだ。孔明お兄ちゃんの計略がここに成った。
『急に頼もしくならないでください! 全人類の弟を遵守してくださいリンちゃん!』
その合図は、面接会場でも聞いたその言葉だった。緊張が解けたことを、僕は嬉しく思う。だけど……。
秋葉リン:なんでぇ!?
レゾンデートル:全人類の弟ww遵守してくださいww
たたら:こっちでも雑草被害がwwww
かえで:これは草不可避
虎太郎:秋葉家が納税の義務を毎秒怠る件
銀:お兄ちゃんぶろうとして失敗するリン君は解釈一致
僕、一応先輩なのに……。圧が通用しない。桜ちゃん怖い……。
『気を取り直していきます! 春風桜! 今から全力疾走再開です! まずは、ファンネームからですね! 桜は、アイドルなので、そこら辺ちゃんと取り入れてください!』
ハンッ!すぅ~:アイドルといえば追っかけだけど、16時間全力疾走なんだよね?
忠義:海賊団でもついていけない……
佐久夜:酒宴民も和泉ちゃん様についていけているわけではないですし、ついていけなくても大丈夫じゃないですか?
パテカトル:和泉ちゃん様の配信で最後まで呑める人がいたら、そりゃ化物だ。
大山さんちの酒飲み:パテカトルは酒神の名前冠してるんだから、最後まで飲めよ
ミサカドノ:お前だってオオヤマツカミが元ネタじゃねーかwww
そんな感じで、追っかけに対する意見は肯定的だった。放送主が失敗してもいいように、ファンも途中脱落してもいいのだ。
『じゃあ、今日からファンの皆さんは#追っかけさん、です! 一緒に全力疾走しちゃいましょう!』
でも、それは死刑宣告に近いと思う。
ちくわ大明神:ひええ……16時間全力疾走は無理……
ナイト・スプリングウィンド辺境伯:末妹の全力疾走とあらば、伴しよう!
秋葉孔明:お前名前長すぎ。縮めろ!
なんだかんだ言って、伯爵は長男適性も持っている気がした。半分お父さんな長男、なんだかそんなイメージである。
『途中脱落してもいいんですよ! スタミナが残ってる間だけ、伴走してください! では、次に、放送タグです! 何か、ありますか!?』
レゾンデートル:#アイドル疾走中! 全力疾走が桜ちゃんの存在意義になってく気がして!
武吉:いいですね! なんだか、成長し続けるアイドルというイメージが湧きます!
夜告鳥:医療スタッフ一同、その疾走をサポートします。
虎太郎:法務スタッフ一同、走る場所の許可を取り付けます。
初bread:そういえばRyuってアイドル系の作曲できたっけ?
秋葉Ryu:無理だ。だからリバプロに土下座する
『放送タグは#アイドル疾走中、に決定! それより、楽曲作ってもらえるんですか!? 桜、歌もまだまだかもしれませんけど、頑張ります! 16時間まで!』
レゾンデートル:八時間睡眠も
秋葉Ryu:絶対作ってもらうから、安心しろ。練習は……リンか唄だな!
初bread:コーチが大物すぎるwwww
ちくわ大明神:ひええ、秋葉あったけぇ……
秋葉孔明:桜、お前めっちゃ頑張ってるな! 後一つ決めたらご褒美だ!
婆ショック:桜ちゃんに甘い俺の推し……
『ほんと、秋葉家にこれて良かった! じゃあ、孔明お従兄さんからのご褒美貰うため、ファンアートタグを決めましょう!』
視聴者さんから見ても、僕から見ても、桜ちゃんは頑張ってると思う。
かえで:アイドルといえば、チェキだよなぁ……
銀:#桜チェキ、でドヤ?
春風ママ:たくさん書いてください#桜チェキ
『マネージャーさんもいいと思ったんですか!? 桜もです! ファンアートタグ、決定ですよ! ファンのみんな、桜といーっぱいチェキしちゃいましょう!』
正統派アイドルが、ここに爆誕した瞬間だった。そんな桜ちゃんだから、マネージャーさんと呼んだほうがなぜかてぇてぇになる。
秋葉孔明:よし、よく出来ました! はなまるだ!
秋葉未散:可愛かったよ!
『もう! 照れちゃうっていったじゃないですか!? もう!』
なんと、桜ちゃんの2Dモデルには頬を膨らませる差分が用意されていた。それがもう、可愛らしくて可愛らしくて。
銀:ぐはっ
レゾンデートル:可愛いヤッター!
さーや:ギャルだけど、ドルヲタになってもいい?
そんなコメントで溢れるのだった。
『みんなして、可愛いって! 桜を照れさせて遊んでるんですね!? 意地悪な#追っかけさんには構ってあげません! 放送終了です!』
なんと、その言葉が時間ぴったりだったのだ。
思い返してみれば、桜ちゃんの放送が一番VTuberとして理想的だった。
春風桜、登録者数83万人。
そして、放送終了時ツブヤイッターのトレンドは#大丈夫か、春風家!? だった。でも、その中で桜ちゃんはしっかりしていると褒められているのだった。
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