第165話・身バレRTA

 それが、一体どんな戦略なのかはわからない。だけど、孔明お兄ちゃんの予想外とは考えにくかった。あるいはあの脅すようなコメントは、茶番だったのかもしれない。そう思わせる根拠は、同時接続人数の減少率だ。これが余りにも少ない。


『皆さんこんにちはー! ユエの双子の妹、春風和泉です! 本当にポンコツな姉でごめんなさい! まさかファンネームしか決められないって思ってませんでしたー! ダメダメお姉さんですね! 後で叱っておきますよー!』


 和泉さんの放送が始まった。それは、しっかりした妹を思わせる、快調な出だしだった。


銀:これは安心だな……ちゃんと自己紹介から入ってくれる。

夜告鳥:休憩所でしょうか? 急性キャラクター性中毒に効きますね

婆ショック:待て、孔明の罠かもしれん!


『大丈夫ですよー! 罠じゃないです! 今度こそちゃんとしたメインヒロイン枠ですから安心してくださいねー!』


 だが、それは化けの皮だったのだ。それは、徐々に剥がれていくことになる。


秋葉定国:さすがになぁ……孔明もそんなに性悪じゃないだろ!


 と、定国お兄ちゃんが孔明お兄ちゃんを弁解したがゆえに。


『あ、定国お従兄さん! また、飲み比べしましょうねー!』


 それは、コメントしてくれた先輩への配慮。つまり、和泉さんの気遣いが裏目に出てしまったのだ。


秋葉定国:いやもうゴメンだ。って、それ言って良かったのか?

武吉:ドンが断ってる……まさか、負けた?

義忠:ドワーフの噂もあるあのドンが?

隆勝:秋葉三大酒豪だ……


 そもそも、和泉さんの前世は霜月霰さん。酒豪情報から、前世がバレた。


酒ロス:メインヒロイン(九割肝臓)

ディオニソス:定国さんも相当酒強くなかったっけ?

武吉:うちのドンもめちゃくちゃ強いですよ?

デデデ:おい、非公式プロフできてるぞ! 我らの酒神ってどういう意味だ? http://wakiwaki/haruzkaze/izumi


 春風家で最初の非公式プロフィールが作られたのが、この和泉さんだった。


『すぅー。いや、ちょっとわからないですねー! 私、新人ですからねー! あの、人違いだと思うんですよー?』


大山さんちの酒飲み:身バレRTA世界記録と聞いて!

佐久夜:私、推します! 愛してます!

パテカトル:和泉さまあああああああああああああ!

秋葉孔明:あ、和泉。言っとくけど、秋葉家は飲酒配信禁止してないからな


『ッ! しゃあああああああああああ!』


 その瞬間鳴り響く、ボトルを開ける音。


秋葉孔明:待て、お前用意してたのか?


 孔明お兄ちゃんは困惑した。


『だって、水分補給は大事ですよー? 配信部屋に飲み物があるのは普通ですよねー?』


銀:飲み物=酒←こんなメインヒロインやだ

婆ショック:やっぱり罠じゃないですかやだー!

秋葉定国:ママ以上の化物だ……

佐久夜:飲みましょう! 私もボトルあけました!

パテカトル:春風家始まったな!

ミサカドノ:ウレシイ……ウレシイ……


『えーちなみにですね、本日用意したのは、ちょっと遠慮してワインにしました! つまり、ぶどうジュースですねー!』


 もうこの人嫌だ。アルコール度数二桁をジュース扱いし始めた。しかも、初配信で。


佐久夜:放送タグは#酒宴で決まりですね!

銀:株式会社秋葉家はVTuber企業で一番酒を消費するんじゃないかな?

秋葉未散:ママはこんなにひどくないよ! お酒はたまに飲むからいいの!

秋葉定国:たまに、樽単位でな……

ちくわ大明神:ひええ、秋葉こええ


『#酒宴いいですねー! 採用です!』


 とりあえず、放送タグが決まって安心だ。


秋葉孔明:やべぇ……俺の計画が……

秋葉文:私の台本が……


 だが、運営側はこんなふうに破天荒なことをされたらたまったものではない。


春風ママ:和泉ちゃん……?


 ちなみに、この春風ママは葛城さんのことである。


『あ、ママも一緒に飲みますかー? 美味しいですよー?』


銀:おい、なんか出てきたぞ!

さーや:やっばぁ……おもしろ……

春風ママ:ちょっと、お酒取り上げに行ってもいいですか?

秋葉孔明:こうなっちまったら仕方ねぇ。行ってきてください!


 たぶん、春風家で一番ひどいのは和泉さんだろう。


『あ、ちょっと! ジュース取らないでくださいー!』


 その声のあと、放送画面には見たことのないモデルが表示された。


『皆様、うちの和泉が大変ご迷惑おかけしました。一応自己紹介しておきますね。私は春風ママです。基本的には春風家のマネージャーですが、体も作っていただいたのでたまに放送にお邪魔します!』


 このため……そう思った。だって、これなら確かに自然と葛城さんを放送に出すことが出来る。たぶん仕掛けだったのだ。


『あ、あー……』

『はいはい。放送後に飲みましょうね……』

『わかりましたー』


 そう言いながら、和泉さんのモデルがしょぼくれた。


秋葉孔明:あ、今度は放送タグしか決まってねぇ……


 放送終了時間が目前まで迫ってから、そのことに気づいた。なんで、クロノ・ワールの人達の方が初配信を完遂できないのだろうか……。

 春風和泉、チャンネル登録者数77万人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る