変わりゆく時代

第160話・(大嘘)

 これまで、秋葉家のVTuberには足りないものが多すぎた。ユエさんの独り言を僕が聞いて、それを切っ掛けに尋問したのだ。そのおかげで、秋葉家は企業系VTuberとしてのフォーマットが全然整っていないことがわかった。


 秋葉家もそのフォーマットを整えなくてはならない。


「お兄ちゃん! お姉ちゃん! 今日も来てくれてありがとう! 今日は、秋葉リンの初配信カッコ大嘘だよ!」


 そして、その初配信(大嘘)は秋葉家全員で同時に行う。そして、終了時間をきっちり合わせて、春風家に誘導するのだ。


お塩:リンちゃんは最近嘘つきだなぁ……

麻辣:12歳なのにおじさんを自称したり、ラスボスを否定したり

わー!ぐわー!?:そもそも、男の子って設定も公式HPにすら自称説あるし

Pine:リンちゃんの嘘可愛いよね!

Mike:初配信で登録者五千万は伝説だなぁ……(棒)

Alen:いや、五千万は初配信じゃなくても伝説すぎる

シルフェ:初配信……おめでとう


 今日の配信には、やっぱり他の秋葉家から僕のファンになってくれた人はいない。

 代わりに、僕が自分で獲得したファンの人達が浮き彫りになる。そういう意味でも大嘘初配信企画はよかったと思う。


 それと、今来られないファンの人は多分忙しい思いをすると思う。春風家の本当の初配信も見て、その後秋葉家の初配信(大嘘)アーカイブも巡回しなくてはならない。

 でも、できればその忙しさを楽しんでほしい。僕だって、楽しくも忙しい毎日なんだから、ファンの人も多少は同じ思いをするべきなのだ。


 ところで、僕のこの初配信(大嘘)にはちょっとした仕掛けがある。


「それじゃあ、行くよ! プロフィール!」

『お名前は?』

「秋葉リン!」

『性別は?』

「自称男性!」

『呼び方は?』

「リン君! 断固君!」

『あなたは何系VTuber?』

「弟、不死鳥、歌姫、ラスボス、魔王幼女おじさん、12歳!」


 録音の自分と、掛け合いをする形式にしたのだ。しかも……。


Alen:こいつ作曲しやがった!


 そう、プロフィール部分を歌にしたのだ。そうすれば、恥ずかしさをかなり軽減できるから。ちなみに、これは秋葉家所属の全員が使えるようにクラウドにアップロードしている。今回の初配信(大嘘)企画で使ってる人もいるかもしれない。


お塩:ちゃん派を認めないのは横暴だ

Pine:男性が自称であることを認めたぞ!

Mike:属性が渋滞してる……。

麻辣:クリエイティブすぎる件!


『それじゃあ決めるよ、ファンネーム! ここで一発、BGMのギターをどうぞ!』


 実は、このBGMギターの部分を作曲するのが一番労力が必要だった。この方式で、初配信と決めたことを後悔した。


 だけど、楽譜はちゃんと用意したから、僕はそれを演奏する。

 ちなみに、クラウド版にはBGMギターが収録されているものもアップロードした。Ryuお兄ちゃんあたりは、BGMギターがないのを使いそう……。


お塩:おい! 超絶技巧おい!

わー!ぐわー!?:決めさせる気ないだろ!?

Mike:クwwwオwwwリwwwテwwwィwww

麻辣:初配信って設定どこいった! 無双するな!

シルフェ:聞くのと考えるの……どっちをやればいい?


「決めてよ僕の、ファンネーム! 決まるまで、弾かなきゃいけないこのミュージック!」


Pine:即興で歌うなあああああああ!

お塩:無駄にうめぇ……

Alen:考えさせろよ!!


「ダメだよ決めて、ファンでしょ? 僕のBGMも、ファン盛り上がるでしょ?」

 なんか、楽しくなってきた。即興曲もいいかも。それに、ちょっとアイドルしてる気分。


麻辣:可愛さまで乗せるな! ファンをクオリティで殴るな!

フォルセ:ラスボスの称号が可愛く思えてきました……

Mike:どうしよう、推しが天才すぎる……。

シルフェ:KC……どうかな? 兄姉とかけた……


「それは、秀逸第一候補! あなたも迷わず、兄姉に立候補!」


 これ、ラップかもしれない……。


林Clio:日本のラップは……可愛い……負けた

麻辣:もうKCでいいよ……

お塩:超絶技巧のギターやりながら、いいライムかますな!

Alen:もうこれ、即興とか信じらんねぇ……

麗音:これが伝説でいいぜ全く……


「皆はKC! 僕の兄姉! だけど、絶対しない、あなたたちを軽視!」

『次は、決めるね、放送タグ! ここで一発BGMのヴァイオリン!』


 超後悔中だ……。ひとりでやるのがすごく大変だ。演奏しながら、ラップしながら、音源も操るなんてどんな離れ業だよ……。


麻辣:絶対一人でやってねぇだろ!

お塩:俺たちは、何を見せられてるんだ?

Alen:切り替えがスムーズなのがありえない……

シルフェ:ダメ……天才すぎる……


「一人虚しく歌っています……。少しでも、楽しんでもらいたくて。作った台本は、難度がめちゃくちゃなんだ。今、それを此処に懺悔したいと思います」


 あ、今度はミュージカルっぽい。

 確かに、自分でも歌うとおり大変だけど、楽しい。でも、やっぱりこれは忙しすぎる。


Pine:だめだこりゃ……どこまでも規格外の天才だわ……


 そんな感じで、初配信(大嘘)の間僕はずっと歌いながらつっこまれていた。

 きまった配信タグは、#歌姫絶唱中。きまったファンアートタグは、#絵心渋滞中だった。

 そして、この生放送は、伝説扱いをされるのであった。

 ちょっと、やりすぎた。反省している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る