第159話・迎春
秋葉家年末年始放送の3Dスタジオに戻る道中、それは新年までのカウントダウンの時間だった。
一緒にカウントダウンできないのは、少し残念。だけど、仕方がない。僕は紅白出場者だから。
そんなことを思って、少し気が重くなりつつも、僕はスタジオのドアを開いた。
すると……。
「「「あけましておめでとう!!!」」」
十人分のその声と一緒に、僕の頭上から紙吹雪が降り注いだ。
目の前に、巻物のようなものがストンと落ちてくる。
「わわわ、くす玉の位置間違えた!?」
その光景を見て、ママが慌てた。
近すぎて、なんて書いてあるかわからなかったのだ。
「ぷ、あははは! あけましておめでとう!」
僕はそう言いながら、秋葉家に飛び込んだ。
それを、みんな受け止めてくれたかと思ったら、次の瞬間僕は全員で担ぎ上げられてしまう。
「今年も秋葉家の躍進を祈りましてぇ!」
定国お兄ちゃんが急に大きな声を出して、僕は一体何が始まるのかと不安になった。
「秋葉家の新エースを胴上げしたいとぉ!」
それにRyuお兄ちゃんが続く。
「思いまぁす!」
そう、孔明お兄ちゃんが締めくくった。
この三人、秋葉不良組とでも言おうか……。そもそも、海賊を不良呼ばわりしてもいいのかは謎だけど。
「「「えっさ!」」」
僕の体は空中に投げ出される。
「わっ!?」
それに驚いて、僕は思わず声をあげた。
「「「ほいさ!」」」
僕をキャッチして。
「「「えっさ!」」」
また、投げ出された。
深夜テンションなのか、お祭りなのかよくわからない。だけど、とっても楽しい。
その胴上げが終わると、ママが僕にコメント欄を見せてくれた。
年末と年始に集中して赤スパの嵐が起こっていた。
「見て、お年玉いっぱい!」
それもただの赤スパではない。上限だ。それはまるで、万札が紙吹雪のようだった。
「え、怖い……」
怖いのはそれだけじゃない。同時接続人数もおかしいのだ。今、この放送を700万人が見ている。この、自由すぎる秋葉家の年末年始を。
「それとよぉ……コイツだァ……たまぁくれてやるぜ!」
そう言いながら、定国お兄ちゃんは僕に小さな封筒のようなものを渡してきた。
「なにこれ?」
僕の知らないこと、それはまだまだあったのだ。
「何って、お年玉でしょ? ママからもどうぞ!」
そう言って、ママも僕に同じようなものを渡してきた。
「え? え?」
それが何か分からず、僕は混乱する。
「あぁ、リンは初めてか? 子供はな、親戚からお年玉って言って、大きめのお小遣いをもらえるんだ。ほれ、俺からも」
孔明お兄ちゃんが、僕がお年玉を初めて貰うことを察して説明してくれた。そして、孔明お兄ちゃんからももらってしまった。
「え? 僕、子供じゃないよ? おじさんだよ?」
もうすぐ28歳。アラサーよりさらに30歳に近い、ニアサーとなるのだ。
「もらっとけ! おじさんカッコ12歳!」
そう言いながら、Ryuお兄ちゃんも押し付けてくる。
「バーチャル憲法第27条。全ての秋葉リンは、お年玉受け取りの権利を有し、義務を負ふ」
次はカゲミツお兄ちゃんだった。弁護士らしく、法律っぽい文言を添えて、僕にお年玉を押し付けてくる。
「そんな僕限定の法律ってある!?」
「ノンノン! 憲法だ!」
「あ、そうか……。って、納得しないからね! 僕だってお金稼いでるんだぞ!」
そう、もうお年玉あげる側でもおかしくないのだ。でも、そもそもあげる相手なんて涼くらいしか思いつかないけど……。
「だどもおめぇ、稼いだそばから秋葉家に投資するでねぇか!? 自分のお金も、必要だっぺ!」
手元のお年玉束がどんどん厚くなった。
「うん……受け取るべき……。姉の顔を立てるべき……」
僕には、バーチャルな兄姉がたくさんいる。その分、お年玉も多くなるのだ。
「兄の顔も……」
そう言って、博お兄ちゃんもお年玉をくれた。
「俺も渡していいかな?」
おずおずと差し出すのは和葉お兄ちゃん。
受け取らないと、拗ねるのは目に見えてたので受け取った。
「私のも、受け取ってくださいますね?」
文お姉ちゃんのお年玉は、圧と一緒にやってきた。
結局、全員からもらってしまったのだ。お年玉を。
「みんな、ありがと!」
ちょっと冷静に考えてみると、放送中だから僕は尚更受け取らなくてはいけなかったのである。秋葉家の末弟というキャラクターを遵守するために。
後に開封したのだけど、ひと袋五万円、総額五十万円だった。つまり、上限だったのだ。なんというか、こんなところにもネタが仕込まれていた。
「さて、秋葉家の今年の予定は……。みんなの初配信があるよ! それから、春風家のみんなに秋葉家のおかしいところを語ってもらうライブも予定してるよ! そして、秋葉家ニュースが始まります! テレビ芸能界の話やVTuberのゴシップを中心に試験的に始めてみるよ! それじゃあ、みんな、行くよ!」
今日の放送では台本が二言だけ用意されていた。開始の挨拶と、終わりの挨拶。
「「「今年も、よろしくお願いします!!」」」
こうして、僕たちは新年を迎えた。
今年もいい年になる。根拠や理由は、秋葉家だからで片付く。だから、断言しよう。今年も楽しいに決まってる。
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