第150話・無邪気な太陽
次で最後の一人。長かった面接も、ようやく終わる。
「ぶっちゃけると、俺は最後の一人を一番推してる。PRがやばかった……」
そう言って孔明お兄ちゃんが取り出したPR文は、裏面にも文字がびっしりと書かれていた。PR文の提出が遅くなった原因は、多分その文字数だ。
「それは気になるね! 早く呼んで!」
ママは孔明お兄ちゃんの言葉で興味津々になった。それはもちろん僕も同じだ。だって、孔明お兄ちゃんだ。感情で動く人じゃない印象なのに、感情を顕にしている。
「では、呼びますね」
そう言って、葛城さんは面接室の外にいる、最後の候補者を招き入れた。
入ってきたのは、太陽と形容したくなるような少女だった。栗色の髪のツーサイドアップ。身長は低く、ほぼ僕と同じくらいだろう。
「よろしくお願いします! 双葉蒼です! アピールポイントは無限の体力! 一日十六時間くらいなら、全力疾走どんと来いです! でも八時間は眠らせてください」
それは、どんな超人だろうか……。きっと、多少誇張しているのだろう。
「外見も完璧か……。呼んで良かった……。さて、彼女を紹介するよ。謙虚で、元気な、子供だ!」
「ひどいですよ! 孔明さん! 蒼は、これでも18歳ですよ! 立派なレディなんですからね!」
そう言って、蒼さんは頬を膨らます。これは……子供だ。まごう事なき子供だ。
僕は、彼女が現役小学生と言われてもきっと信じてしまう。
「あはは、ごめんごめん。じゃあレディ、なんで秋葉家に来たいのか教えてもらっていいかい?」
孔明お兄ちゃんが完全に兄の顔をしている。いや、仕方がないのだ。彼女を見ていたら、誰だってそうなる。斯く言う僕も、顔がほころんでいるのだから。
「はい! 蒼は、アイドルになりたいんです! リンさんに、理想のアイドル像を見ました! だから、蒼がアイドルになるなら秋葉家がいいってずっと思ってました! 歌もダンスも全然だけど、これから覚えます! 他にも、秋葉家には憧れの人がたくさんです! ママも蒼、大好きです。優しくって……」
語りだしたら止まらない気がしたところで、孔明お兄ちゃんがそれを止めた。
「うんありがとう。たくさんって言うか、全員だよね? 後で、みんなに読ませるよ」
きっと、その言葉をどんな目をして語るのかを見たかったのだと思う。紙に書く言葉はいくらでも嘘をつける。だけど、表情は少し誤魔化しにくい。
蒼さんは、ものすごくキラキラとした目でそれを語ったのだ。夢見る少女そのものだった。
止められた蒼さんは不満そうだった。だけど口には出さないで、我慢をしている。これがまた、非常に可愛らしいのだ。こんな妹だったら、僕は大歓迎だ。
「孔明君が推すのもわかるなぁ……。可愛い!」
「あわわわ、そんな! 照れ……ちゃい……ます……」
蒼さんは、りんごのように顔を真っ赤にしながら、顔を背けた。
「隠しておきましょうか……」
ふと、葛城さんが言った。
「外に出して、悪い奴に捕まりでもしたら大変だな……」
「うん、僕達で隠しておこう……」
もう、可愛いが過ぎた。嫁に出したくない、みたいな気分である。
「ダメです! 蒼はアイドルになるんです! 絶対VTuberになるんです!」
断固、そんな感じが本当に可愛い。いつの間にか、僕が兄堕ちしている。
「ダメだ! お前は絶対嫁にやらん!」
「孔明さんは、蒼のなんなんですか!!??」
「お兄ちゃんだ!!!」
「お兄ちゃんってことは蒼、秋葉家ですよね! っていうことは、蒼VTuberですよね!?」
「う、ぐ……」
すごい……。勢いで孔明お兄ちゃんを説得しそうだ。
おねだりでも説得できそうだったが、真正面から説得する感じがより幼さを強調している。つまり、それもそれでとても可愛い。
「蒼、聞き分けて……。お兄ちゃん達、蒼が変な人に襲われるのが嫌なんだ」
「リンさんはお兄ちゃんじゃありません! 全人類の弟属性を遵守してください!」
「お兄ちゃんじゃ……ない……!?」
涙が出てきた……。やっと僕よりも歳下設定の秋葉家メンバーが出来たと思ったのに……。
実際に、年下なのだけど。
「シナジーありますね。ここ……」
そう言いながら、葛城さんは葛藤を抱えた表情をしている。多分、デビューさせた際の利益と、デビューさせたくない気持ちがせめぎ合っているのだ。
「うぅ……二人が可愛い……。リン君、この子とユニット組まない?」
「うえ!?」
確かに、それはいいかもしれない。でも、僕は心に傷を負いそうだ。
僕は蒼さんのお兄ちゃんになりたいのに、蒼さんはそれを絶対許してくれない。
「涙を飲んで、デビューを許そう! ただし! 秋葉家は全力で蒼を守る!」
孔明お兄ちゃんが少し我に帰った。
そうだ、よく考えたら、蒼さんがデビューしてくれないと僕達は他人のままだ。ママの作ったモデルでデビューすることで、僕たちはやっと仮想の血縁を得られるんじゃないか……。
「うぅ……デビューに賛成するよ……」
メロメロになったら負けなのだ。僕は全面降伏。
「分かりました……デビューを許可します」
秋葉家はこの日敗北した。ただ、ひとりの少女に。
「合格ですか!?」
「うん、明日から私をママって呼んでね!」
ただ、ママだけはそもそも戦ってなかったのだ。
「やったぁ!」
なぜなら、ママはこう思っていた。
「蒼ちゃんとっても可愛いから、世界をメロメロにしちゃおう! 危ない人からは、ママたちが守ればいいんだから!」
後からわかったことだが、蒼さんは本当に体力オバケだった。あの小さな体のどこにそんなエネルギーがあるのだろうか……。
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