第126話・裸の人間性
動画としての部分が終わり、語られなかった意図の部分が語られ始める。
「今回の主役は、リンさんとシルフェさんだったんですよね~」
すっかり中の人に戻ったフォルセさんが言う。
この頃には、僕たちもすっかり落ち着きを取り戻していた。でも、勢いとは言え抱きしめ合って泣いたのだ。僕と、シルフェさんの距離は急接近をしていた。
「それより、俺としては隼人さんが気になります。あなた、ガチですか?」
「あ、俺結構ガチ。ゲイなんかなぁ……好きになった相手ってこれまで男ばっかなんだよなぁ。んで、今マジで努さんにキュンキュンしてる」
確かに、隼人さんが麗清さんの中の人たる努さんに向ける目線には熱いものがあった。頼むから、僕の見ていないところでやってほしい。恥ずかしいから……。
それに、収録が終わったというのにツカサさんと蒼さんもべったりだ。こういうことは、人の見ていないところでやるものだと思うんだけど、VTuberはそこらへんオープンだ。
「それで、僕とシルフェさんが主役ってなんですか?」
とにかく、このままでは話が進まなかった。だから、僕は思い切って話題を変える。
「それなんですけどね! リンさんとシルフェさんの共通点って、ホラーゲーム実況をやっていないVTuberかつ、かなりの人気を誇ることなんです!」
アイナさんも、中の人に戻っているようだが、そんなにキャラクター性が変わらない。明るい敬語キャラ。アイナさんはそんな印象だ。
「怖いの……嫌い……」
シルフェさんはそう言いながら、僕の腕にすがりついてくる。
悪い気はしない。でも、シルフェさんは僕より背が高いのだ。絵面的にはどうなのだろうか……。
ところで、この場においても一番背が低いのは僕だ。ひょっとしたら、VTuber業界で最も低身長なのは僕なのではないだろうか……。
そういう意味でも世界一かもしれない。全く、不名誉極まりない。
「多分、普通にホラーゲームだと参加してくれないと思ったんですよね。そこで、カサ・ブランコ演劇部のVTuberを集めてデス・ゲーム人狼を企画しました。吊り橋効果のてぇてぇが発動したら、お二人のチャンネル登録者数は激増! カサ・ブランコもおこぼれで躍進と、考えたのです!」
人狼と言うのはとても人間性と、推理力が試されるゲームだ。人間性に自信のあるVTuberにとっては人気を伸ばしやすいジャンルだと言えるだろう。
だから、ママは人狼がおいしいと言ったのではないだろうか。僕の人間性にママは自信を持っていたから。
「正直に言うと、本当はこんなに幼い外見とは思いませんでした。途中、罪悪感に押しつぶされそうになりました」
と、アイナさんはちょっと沈んだ表情に変わる。
「ちなみに、本当は二日目は私が死ぬ予定でしたよ!」
「「え!?」」
発言した人物の方をみて、僕とシルフェは驚く。そう、それは麗音さんだったのだ。一人称は麗音様、高飛車で高圧的な態度だった麗音さんと今の彼女のギャップがとてつもなく大きかったのだ。
「みんなそんな反応するんです! ひどいじゃないですか! 私だって普段から麗音様なんて自分を呼んでたらただの変な人ですよ!!」
そう言って、麗音さんは頬を膨らました。
VTuberとしての彼女とは違い、本当の彼女はとても可愛らしい人のようだ。
「まぁ、カサ・ブランコの萌えキャラは置いておきまして……。今回のドッキリ、少しハードすぎる内容でした。心からお詫びします」
確かに、ハードだった。僕とシルフェさんは化けの皮をはがされ、剥き出しの人格で挑むことを余儀なくされた。
でも、それが僕たちの今後の活動に影響を与えるとは思わない。僕はそもそもキャラクターをさほど偽っていないし、シルフェさんは重責に押しつぶされた。
シルフェさんに関しては優しさが際立ったのだ。むしろ、人気が伸びるだろう。
「はぁ、僕は大丈夫なんでしょうか……?」
ただ、僕には懸念がある。
「と、言いますと?」
フォルセさんの問に僕は懸念を吐き出す。
「僕は、人を殺す判断をいとも簡単に下しました。冷酷な人間だと、思われそうです」
それを聞いて、一同笑った。
代表して、言ったのはフォルセさんである。
「ありえませんよ! あんなに後悔に満ちた声で、冷酷な人間だと思われるわけがありません。ただ、男として嫉妬するほどかっこよかったですよ! 人を守るため後悔に塗れながらも前を見据える姿は!」
それに、一同頷く。
そして、麗清さんが言った。
「麗清としてのキャラを借りるなら、人の子の輝きを見た、ですね! リンさんは決して後ろ向きにならない人。前だけを見つめる、まるで英雄のような人です」
それに、重長さんがこう付け加えた。
「男なら誰もが憧れるヒーロー。でも、人間臭い部分もありますよね! 些細なところは、たまに心配性ですから」
そんな、重長というVTuberとはかけ離れた語り口に、僕ら一同、カサ・ブランコの人たちも含めてこういった。
「誰だお前!?」
と……。
VTuberは架空のアイドルであり、演者だ。現実に戻ってみれば、キャラクターも人となりも、VTuberとは違う。表には、少ししかはみ出さない我々の裸の人間性。きっと、今回はそれを剥きだしても問題のない僕とシルフェさんの人間性を外に出す計画だったのだろう。
きっと、本当に得のある企画だったのだ。
収録が終わって、帰り道。僕はシルフェさんから連絡先をもらった。電話番号、Line、メールアドレス、住所。ここまでもらって、大丈夫なのだろうかと思いつつ。僕は家路についたのだった……。
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