第123話・狼の所在

「まずー私から行きますねー! 私は、ツカサちゃんに投票しましたー。ツカサちゃん、雑談をしていたのですよー。村人としては利益のない雑談は御法度なのですよー。だから、生かしておく理由がないんですよー」


 明日羽さんの、その判断は正しい。でも、同期が死ぬ判断をして平然としている。そこに、サイコパスな印象を受けた。


 全く私情のない、合理的な判断。おそらく、別の理由も隠されているのだろう。


 残る役職は……狩人。おっとりとした印象をうけ、外見の印象はママに近い。だが、その判断理由はこうの可能性がある。“ツカサさんを護衛対象に選びたくないから”。


 僕は隼人さんを狂人だと思っている。だが、様々な可能性は考えなくてはいけない。隼人さんが本物の狩人で、明日羽さんが今になって狂人アピールをし始めた狂人であるという可能性だ。


 最短の勝利は初日から二日連続で人狼のみを吊ること。だけど、一日目は人間を吊ってしまった。村人陣営は6人。人狼陣営は3人だ。人狼二人、ここから連続で吊ることができれば、生存者は5人。勝利者陣営の人数は4人で終えることが出来る。


 まだ、村人陣営の勝利の方が生存者が多い。それと、僕はシルフェさんを死なせたくない。だから、僕は勝利を目指す。


「次は拙者でござるな! 申し遅れたが、拙者、柿崎重長かきざきしげながと申す。拙者の投票先は、明日羽殿……。寡黙吊りにござる」


 スーツに身を包んだ、どこまでも真面目そうな人が武士口調で喋る。こんな時に、本当にカサ・ブランコの人たちはマイペースだ。


 寡黙吊りとは、黙っている人間をとりあえず処刑しておく行為だ。


 だが、この発言が一番臭い。雑談をして、議論に参加しなかったツカサさんや蒼さんの方がよっぽど村に利益がないのだ。


 寡黙になる理由。それは主に話を聞くためだと思う。初日に話を聞いて、考察を裏で伸ばし続ける人だっているかもしれない。


 僕が考える明日羽さんの寡黙理由は、護衛対象を選別するためだ。黙って、話を聞いて、どのタイミングで誰を守るかを考えていたと今は考えている。


「次は、私か……。一応名乗っとくけど、私は不知火烈しらぬいれつ。投票先は蒼。理由は二つ。嫌いだから、この場で二番目に嫌いな人と喋ってたから。以上」


 烈さんは、先ほど僕が怒鳴った相手だ。


 そして、彼女は村人の可能性が高い。狼で、この発言をするなんて余りにも馬鹿だ。蒼さんを殺す殺害動機があると喧伝しているようなものである。


 だが、あるいは、僕のこの思考すら予定調和なのかもしれない。その場合は烈さんは人狼だ。


「最後は……ボクか……。名前は玉梓緑たまずさみどり。投票先は、ツカサ。ツカサはね、あの子可愛いだけ人気集めてるからムカつくんだ。ほら、雑談してたし、わかるでしょ? あの子が努力しない子だってことは」


 緑さんも少しボーイッシュ系だ。蒼さんよりは女の子っぽいかも知れない。小柄で、クリッとした目が印象的だった。


 私怨だけど、一番ストレートに白と見れる。と言うより、緑さんは、村とって毒にもならなければ薬にもならない人だと思った。


 全員の意見が出揃った。それと同時に僕は全員の名前も知ってしまった。


 余計に殺しづらくなる。知れば知るほど、犠牲になって欲しいなんて言えない。


 大をとるか小を取るか。その小をとってしまったら僕は死ぬ。そして、シルフェさんも。だから、僕には大を取る選択肢しかなかった。


 なんで、こんな残酷な判断をしなくてはならないのだろう。今にも心が潰れそうだ。


「我の視点、麗音さんを除けば、最も怪しいのは重長さんでございます。確かに寡黙は情報を落とさない。雑談の方がまだボロを出しやすいのは納得が参ります。ですが、それは役職の方が出揃ったフルオープンの盤面であればの話です」


 怪しいと見ている相手は同じだ。ただ、僕にはフルオープンの概念がなかった。


 僕は人狼はこれが初めてだ。


「僕もその意見に賛同します」


 でもおかしい、この場面シルフェさんの昨日の動きから考えると、一番動くはずだ。


 ふと、シルフェさんを見ると、膝を抱えて親指の爪を噛み締めて、震えていた。


 無理もない。このゲームが始まって、二人も死んでいる。


 でも、出来なくてもいい。もう、守るって決めたから。


「待つでござる、寡黙吊りは定石でござるよ! グレランの局面なら、理由としてはありでござろう!?」


 確かに、なしではないとは言える。僕だって、投票されてもおかしくないほど寡黙だった。


「投票を開始してください!」


 だが、無情にもその言い訳は時間制限によって遮られた。


 投票結果、シルフェさんを除く満場一致の重長さん吊り。重長さんは昨日のツカサさんよろしく全員の前で銃殺された。


 そして、僕の部屋には霊媒の結果の紙が置かれていた。


『柿崎重長は人狼でした』


 勝利が目の前にある。それも大勝利だ。間違った処刑は初日の一度きり。今日、あと一人死ぬ。


 そして、明日は麗音さんを吊って、この狂ったゲームも終わりだ。終わったら、警察へ行こう。僕もきっと捕まるだろう。でも、カサ・ブランコを許すわけには行かなかった。


 ごめんなさい。殺して、ごめんなさい。


 僕は、霊媒の結果が書かれた紙を握り締めて、静かに涙を流した。

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