第120話・考察者シルフェ

「役職カードは、当カサ・ブランコスタッフによってシャッフルされ、無作為に配られました。カードを確認してください」


 フォルセさんがいう。


 カードを確認してみると、そこには『霊媒師』と書かれていた。


 霊媒師の能力は、ゲーム内で死亡した人が人狼か、それとも人間かを知ることが出来る能力だ。


「確認が取れましたか? では、議論を開始してください」


 アイナさんのその声に、僕たちプレイヤーは議論を開始する。


「さて……11、9、7、5、3か……。霊媒師は潜伏を頼みたい。フルオープン役職を持つ人が全員名乗り出ることでグレーを狭めるのが今は主流だけど、多くの情報を一気に落とす潜伏霊媒師が俺は好きだな」


 最初に話し始めたのは、カサ・ブランコの男性VTuber。


「あなたの名前は……?」


 それにいの一番に口を挟んだのはシルフェさんだった。


「まぁ、この人数一気に覚えるのは酷だわなぁ……。俺は、赤羽隼人。覚えてくれよ!」


 隼人さんは、短髪を金に染めている。身長は、日本人男性の平均くらいだろうか。見たところ、170センチを少し超えるくらいだ。


「覚えた……でも、隼人には狂人の可能性がある……。潜伏霊媒は面白いと思う。でも、日数計算が不穏……。村人なら、最後の二人になって目覚めるまで勝敗はわからない……。でも、3人の時点で狼が二人いれば、パワープレイで村人を処刑して勝利……。今回の配役では、狼陣営は、狼2人と狂人1人の3人……。最短勝利は5人時点……。狼でも、村でもない目線……。死を覚悟した狂人の可能性がある……。いきなりの失言なのも、狂人であることを強調している……。人狼に自分が狂人だと伝えるため?」


 飼うとは、人狼陣営に所属した人を生かしておくことになる。


 冴え渡るシルフェさんの推理。経験者か、はたまた単に頭の回転が速いだけか。

 ともかくとして、僕たち村人陣営が勝つ鍵はシルフェさんが握っている気がした。


「くっそ……潜伏したかったんだけどなぁ……。狩人だ。潜伏が成功すると、3人時点、俺がCOカミングアウトして村人勝利だ」


 潜伏とは、自分の役職を隠し、自分の身を守る行為である。また、狩人とは誰か一人を指名して狼の襲撃から守ることのできる役職だ。


 と、隼人さんは弁明するが、シルフェさんはそれを許さない。


「これを信じないで欲しい……。狩人なら、潜伏のため細心の注意を払う……。だから、あの失言はない……。でも、狩人の視点は狼陣営に似ることもある……。それでも、私は狂人として見ておく……。飼って、いよいよパワープレイ寸前で、狩人日誌を見て再度判断がいい……。今は黒を探そう……」


 だが、そこに僕は一抹の違和感を感じた。


 そう、これはどちらでもいい発言だ。本物の狩人、仮に真狩としよう。隼人さんが真狩だった場合、この発言で狼から隼人さんを守れる。そう思っての発言だったと言えばいいのだ。


 逆に狂人だった場合、この発言をもって主張の一貫性を示すことができる。どっちに転んでも大丈夫な発言である。


 シルフェさんは、狂人として見ていると言うが、隼人さんが人狼初心者である可能性もちゃんと見ている。中途半端な知識で参加してしまったという可能性をだ。


 そこまで考えられるのは本当にすごい。


「我が思うに、シルフェさんは白でございますね。これだけ村利が多い発言です。考察の理論もしっかりとしているように見えます。白であればどれほどいいでしょう……。さて、我は占い師の役を担っています。占ったのはこの中で最も発言力を持ちそうな方。即ち、リンさん、白でございます」


 占い師は、議論時間と議論時間の間で、一人を指定してその人物が人間であるかどうかを知ることが出来る職業である。


 一日目に占う相手なんて、ほとんど誰でもいい。個人勢の繋がりと、登録者数の観点から、僕の発言力を重要視したのだ。そして、僕は霊媒師、つまり白だ。麗清さんを本物として考える根拠ができた。


「カウンターCO! この、麗音れいね様が占い師だ! いやぁ、一瞬待ってみてよかった! 人外二人暴けたぜ! シルフェが黒、そして麗清が偽物だ! 麗繋がりで仲良くしたかったけど、偽物じゃあ無理だわな!?」


 この人は麗音さんというらしい。少しきつい印象を受ける、黒髪のロングヘアーのかっこいいタイプの女性だ。


「私が、黒……。なぜ、私を占った……?」


 シルフェさんはそれに、冷静に言葉を返す。


「なんとなーく、シルフェは考察が伸びそうな気がした。だから、ここを白確したかったんだけどなぁ……。残念だぜ」


 少し軽薄な語り口。もし、収録前にシルフェさんのアーカイブを漁って性格を確認していたなら、納得できる理由。このタイミングでそれを言うのは、疑われやすいと思う。もう、何が真実かわからない。


「一日の猶予ありがとう……。分裂工作お疲れ様……。さて、私は黒……。明日は麗清が私を占って、麗音がリンを占うべき……。私は今日、吊られない」


 吊るとは、村人の投票で一人を処刑することである。


 それを、シルフェさんは強く言い放った。霊媒の結果と、村利益をどこまでも追求している。その姿に、死にたくないという思いはどこにもなかった。


 きっと今頃狼は悔しがっている。シルフェさんはどこまでも潔白を演出したと思うから。


 麗音さんは狼だと思う。だって、多分隼人さんは狂人だ。本物の狩人はまだ潜伏していると思う。


「グレーは六人。情報が少なすぎ、でございますね。グレランと参りましょうか」


 グレランとは情報がない人物から無作為に処刑する行為である。また、グレランはグレーランダムの略である。


「投票を開始してください」


 フォルセさんが言う。僕たちは、その言葉に従って投票を開始した。

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