第119話・序章

「本番でーす!」


 その声を聞いて、カサ・ブランコの人たちが隣の部屋に移動する。


「どうやら、収録は隣の部屋のようですね。参りましょう」


 麗清さんが、そう言って、それをきっかけに僕たちは隣の部屋に移動した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その部屋には、明るいような仄暗いような異様な空気が流れている。


 部屋には男女一人づつの司会の人がいて、間仕切りされた空間も用意されていた。


 司会の男女は、男性がタキシードスーツ。女性が、カマーベストを着ていた。そして、二人とも目元を隠す仮面をつけている。


「さぁ、出場者の方々が登場しました! 早速始めていきましょう! 司会は、私、フォルセ・アフィグルと」


「三森アイナでお送りさせていただきます!」


 男性がフォルセさん。女性がアイナさんだ。


 二人は、不気味な笑みを浮かべたかのような声で進行を初めて行く。


「題して『ドッキリ! 人狼風デス・ゲーム!』」


 人狼とは、正式名称『汝は人狼なりや?』という推理ゲームだ。村人と人狼に分かれて、争う事になる。村人は、一日に一人処刑する人間を選び人狼をすべて処刑することで勝利となる。人狼は、夜に村人一人を殺し、村人より人狼陣営の数が上回った時に勝利となる。


「フォルセさん。プレイヤーに選ばれなくて本当に良かったですね!」

「いや、本当ですよ。なにせ、プレイヤーは命懸けですから!」


 雲行きが急に怪しくなった。


「命懸け……聞いてない……」


 隣で、シルフェさんが青い顔をしている。


「まぁまぁ、我々VTuberございますから。それに、我にとって死はひとつの状態に過ぎません。神ですゆえ、数刻もあれば蘇ります」


 そう言って、麗清さんが笑った。


 きっと、そういう設定なのだ。僕たちは、この人狼で命をかけて戦っている。実際に死亡する演出はVTuberとしての肉体に起こること。僕たち本人にはなんの影響もないのだ。でも、それなら出来るだけリアルなリアクションを心がけなくてはいけない。


 困ったことに、僕の演技力は人並みだ。


「納得……精霊だから、私もすぐ復活する……。そういう繋がりで集められた……?」


「あれ? 僕、人間だよ?」


 秋葉リンは人間である。不死鳥の歌姫の異名は持っているが、本物の不死鳥だなんて設定はない。というか、秋葉家は全員人間である。


「裏で何やら、雑談が繰り広げられていますが。聞いたところ、個人勢の方々、秋葉リン様以外は殺しても死なないようです!」


「ここで、カサ・ブランコの出場者はいつもの面子なので端折らせていただいて……。個人の方々の特徴紹介です!」


「さて、では秋葉リン様。言わずと知れた、歌姫! だけど、男性! ハイトーンボイスが美しく、歌唱力はVTuberやってていいのかこの人!? そんなレベルの、歌うまVTuberの頂点です! 意気込みを聞いてみましょう!」


 頂点はさすがに言い過ぎだと思う。確かに、歌が上手いのはもう認めなくてはならない。歌の力でここまで来たのだ。


 マイクが渡された。


「紹介してもらった、秋葉リンだよ! 人狼は初めてだけど、精一杯頑張るつもり! みんな応援してね!」


 あるときから、僕は敬語を使わなくなった。なんとなしに、今もそのキャラクターを続けている。


「いや、非常に可愛らしいですね! 妹にしたいです……」

「こらこらアイナ、彼女は男性ですよ!」


 彼女と言っている時点で、女性扱いのようだ。


「おっと、男性でしたね……。では、続きまして、コミュ障精霊な歌うま個人勢、シルフェ・ソヌスさんです!」


「はい、意気込みをどうぞ!」


 シルフェさんは、僕に憧れてきたというだけあって、主な配信コンテンツは歌みたいだ。


 マイクを手渡されたシルフェさんが自己紹介を始める。


「人間は大好き……。でも、アイナは嫌いになった……。今日は歌じゃないけど、頑張る……」


 そう言いながら、気合たっぷりのシルフェさんは、ちょっと可愛らしかった。僕より、背が高いけど……。


「嫌われてしまいました……」

「コミュ障って言っちゃったのが悪いんじゃないですか?」

「うぅ……。気を取り直して、三人目! 川の神様! 落ち着いたイケボで微睡みたい! 清水川麗清しみずがわれいせいさんです」


 最後にマイクを渡されたのは麗清さん。確かに、落ち着いていて、深く響く優しい声をしている。


「紹介に感謝致します。我の名前は麗清。人の子よ、我の活躍、しかと見ていてくださいね」


 本当に、朗らかな感じだ。


「おや、今日の麗清さん、ちょっと可愛らしいですね……」


 なんて、男性であるフォルセさんが言った。


「腐女子歓喜の発言ありがとうございます! 新刊はフォル×麗で決まりですね! あ、でも私、麗×フォルもみたいです!」

「やめなさい!」


 そう言いながら、フォルセさんはアイナさんを軽く小突いた。


「うぐ……気を取り直しまして!」

「ゲーム!」

「「開始です!!」」


 こうして、VTuber11人を集めた超大型企画がスタートしたのであった。

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