第108話・尊敬すべき汚れ役

『さて、一枚目でかなり語れちゃったけど、トークデッキ二枚目行ってみよう! えーっと[コラボする前と、今の印象を教えてください]かぁ。ぶっちゃけるとさ、私リン君のファンでさ。コラボする前って、本当に音の怪物ってイメージだったんだよね』


「怪物ってなに!?」


『いやだって、あの歌唱力もギターもヴァイオリンも異常だよ!? アイドルのレベルじゃないよ! それぞれ一本で食ってけるやーつ!』


 確かに、僕は外見に足を引っ張られていなかったIFの人生があるなら、歌手をやっていたかもしれない。


 そう思えるほどに、今僕のファンは多い。


「まぁ、それ思って今シズクお姉ちゃんにとっては僕って何なの?」


『それねー。正直さ、もっととっつきづらいと思ってたんだよ。なんというか、ミュージシャン一辺倒と思ってたんだ。だけど、実際喋ってみるとすっごい可愛くて、もうメロメロ。お姉ちゃんって呼ばれるたび、マジ胸キュンキュンするから! リスナーも言われてみ!? マジで尊死するから!』


「死なないで!」


 でも、とっつきづらいイメージを払拭できたなら良かった。いろんな人と僕は気安い関係を作りたいと思っているから。


『じゃ、リン君は私のことどう思ってたの?』


 それに関しては、どう語るべきか……。


「コラボする前って僕は、シズクお姉ちゃんのこと半分芸人って聞いてて、ちょっと心配してたんだよね。僕なんかがコラボ相手でしっかり視聴者さんを笑わせられるのかって……」


 そう、僕はシズクさんをほとんど知らなかったのだ。だって、僕の中でVTuberといえばみっちーママだけだ。それがデビューしてから秋葉家を徐々に知って行く途中。その途中の今、僕はさらに外の世界、クロノ・ワールのシズクさんとコラボしている。


 飛躍だ。準備も出来ていないのに、世界の方は待ってはくれない。そんなものなのはわかっている。


『芸人って言ったの、マネさんでしょ!?』


「あ、うん!」


『あいつめー! まぁ、続き聞かせて!』


「うん! えっとね、実際コラボしてみると正直すっごい勉強になるって思ってる! 話の繋ぎ方とか、すっごい上手で、さすがとしか言いようがないんだよね!」


 僕だと苦労する雑談のライブ。それを盛り上げるのが、シズクさんは本当にうまい。それも、ママとは全然違うやり方で盛り上げているのだ。


 勢いと、笑い。多分それはきっと秋葉家には無いものな気がした。


『私から学んじゃダメだから! 私はあくまで芸人! リン君は清楚系アイドルの道を行くべきだから!』


「芸人?」


『あ、やべ。自分で芸人って言っちゃった……』


 こういう些細なポンコツ面もきっとシズクさんは意識して、計算した上でやっている。そんなところが本当にすごいと思っている。


 実際、それでコメントが盛り上がっているのだ。


 勉強という観点でみると、どうしても分析的な目線になってしまって笑えない。でも、きっと何も考えずに聞いていたら、シズクさんのライブは笑わずにいられない気がする。


『てかさ、リン君結構ツッコんでくれるよね?』


「あ、うん。ボケがすごいわかりやすいから!」


『いやね、多分ボケはスルーされると思って来てたんだ。でもさ、意外な程ツッコミ入れてくれてもう大満足だよ! 芸に……あ、アイドルとしてさ、やっぱりツッコミがないと辛いわけじゃん?』


「辛いんですか?」


 僕は多分本当に芸人路線は無理なのだろう。何が辛いのかがよくわからない。


『辛いんだよ! でもリン君ツッコんでくれるし、可愛いし最高なんだよ。だから結婚しよう!』


「嫌です!」


 誰に言われようと、ママ以外に僕の恋心は向かないのである。


『フラれましたァ! もう即答だよね! 嫌ですノータイムだもん!』


「だって、アイドルですよ! 恋愛禁止ですっ!」


 とりあえず、僕はそれで誤魔化すことにしている。この部分の本心は永遠に隠しておかなくてはいけない。


『知ってるリン君、女の子同士はセーフなんだよ?』


「でも僕男ですよ?」


 これは、正直来ると思っていた。クロノ・ワールは結構女性ライバー同士がイチャイチャする展開を用意する。


 これを一部では百合営業と呼ぶ。


 中には、営業ではなくガチなのではないかと思われるものもある。だが、それも含めて女性同士だと何故か炎上しないのだ。


『あ、そうだったわー。いやね、声も女の子だし、性格も結構女の子してると思うんだよね私。だから、つい女の子なんじゃないかって思っちゃうんだよね……』


 この発言が僕の本当は女の子疑惑を助長する。


 それに関して、不利益はない。むしろ、女性ライバーとコラボしやすくなるため有利だ。僕は男ライバーなのに、女性と恋愛的な営業をしてもしても炎上しない不思議な立場を確立していく。


 それは、シズクさんから僕への贈り物だ。僕とママが絡んでいるところを見て、これから獲得していく国内ファンが火種になることを防いでくれたのだ。


「もう、そうやってみんなすぐ女の子扱いするんですから!」


『そういうところがね、女心わかってんなぁってなるんだよ!』


 どうやっても、秋葉リンの中で生きる僕が女の子として認識されるように……。


『はい、じゃあ最後のトークデッキ。[パンツの色は?]……えーっとね、今私ね……』


「わー! アイドルゥゥゥゥゥゥゥゥ! 僕たちアイドルゥゥゥゥゥゥゥ!」


 最後までしっかりとオチをつける尊敬すべき先輩だ……。

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