第102話・プチ相談室

 僕の放送が終われば、次はママの放送。


『こんばんわー! みんな今日もお疲れ様! みんなえらいえらい』


 挨拶から、コメントまで何もかもがいつもどおり。そんな様に僕は愛おしさを感じた。


銀:ママー!

お塩:ママー!

秋葉リン:ママー!

秋葉景光:ママー!

デデデ:ママー!


 今日ここに、カゲミツお兄ちゃんが居るのは、後から都合が良かったと思うことになる。


『じゃあ、今日はギモーヴのプチ相談室ライブやっていくよー! この放送では、そこまで真剣ではないお悩みを募集しています!』


 ちなみにだが、質問として成立していなかったり、意味不明なギモーヴを、クソモーヴと言う。なにか語呂がよくて面白い。


秋葉リン:プチ相談室だー!

銀:些細な悩みを送りつけろ!

里奈@ギャル:でも、些細だとママの声聴いてるだけで忘れるよ?

わー!ぐわー!?:確かに……


 そうなのだ、ママの声は独特のおっとり感を持った癒し系ボイスだ。だから、本当に解決しなくてもいい些細な悩みは聴いてるだけで解決である。必然、集まるのは中程度の悩みになる。


『でも、ギモーヴ来てるんだよね……読んでいくよ! どれどれ……[切れ味のいい包丁が欲しいです。おすすめはありますか?]えっとね、ママが使ってる包丁はノラちゃんが作ってくれたやつだから、正直わからないんだよね。でも、ノラちゃんの包丁は本当にいいよ! 気になった人は秋葉製鉄所で検索してね!』


 びっくりした、ノラお姉ちゃんは優れた鍛冶師でもあるのだ。でも、そんな鍛冶なんてしてたら筋肉がついてしまって、女性は嫌がりそうな気がする。ちなみに秋葉製鉄所はノラお姉ちゃんの放送のタイトルだ。


ハルト:え? 秋葉家ってこんな無理難題に答えられるの!? 知らない、で終わりだと思ってた。

銀:困らせようとしたんか!?

さーや:ママを困らせるのダメだよ!

ハルト:いや、クソモーヴにしたかっただけだよ! 信じて!


 なにげにハルトさんは初コメントで、多分初見さんだ。


『じゃあ次ねー! [秋葉家の二次創作において、許可などは必要ですか?]これはね、せっかくだからカゲくんよろしくね!』


 そう言いながら、ママのモデルの手が前に出る。多分カゲミツお兄ちゃんにメッセージを送っているのだ。


 そして、数秒後、カゲミツお兄ちゃんのモデルが放送に表示された。


『みんな、六法全書は持ったか!? ということで、出張版秋葉法律相談所の秋葉カゲミツだぞー。まず、今回のケースですが、秋葉家の所属VTuberは商標登録がされていないので、無許可での二次創作が可能です! というか、既にかなりたくさんされてる! ガンガン書いてくれていいよ! でも、できたら教えてほしい! 俺が読みたいから!』


腐海の魔女:秋葉家はフリー素材だった?

銀:名前、草

里奈@ギャル:リン君派かリンちゃん派か……話はそれからだ!

腐海の魔女:男の娘ってわかっててリンちゃんって呼ぶ派! そして、照れるリンちゃんをprprする!

秋葉リン:やめて!


 背中がぞわっとした。


 それは放置して、ライブの話だ。


『ただし、切り抜きは別。しっかり許可を取って欲しい。Utubeでは原則、動画の内容に関しては著作権がクリエイターに寄与する。秋葉家の公式イラストも基本的に、許可が必要だよ。許可を取らないと刑法119条の著作権法に抵触することになる』


『へー、119条とかそこまで知らなかったよ! さすがカゲ君!』


『弁護士だからね! あ、それと法律相談は、秋葉法律相談所まで!』


 そう言い残して、カゲミツお兄ちゃんはどうやらコラボを終了したようで、モデルも消えた。


腐海の魔女:もしかして、秋葉に答えられない疑問ってない?

ハルト:マジで、それあり得るなぁ……。


 そう、いろんな分野のスペシャリストが秋葉家には揃っている。


『次ね、[先日、糖尿病が治る薬があると聞きましたが、そんな薬って存在するのでしょうか? PS、その薬は送り返しました。お金も払っていません]これに関しては、ママわからないなぁ。でも多分博くんなら知ってるよ! 気になってたら、秋葉病院で検索してね!』


 そう、お医者さんだっているのだ。多分、秋葉家に死角なんてないと思う。と言うか、自分たちだけでVTuber事務所を経営することも多分可能だ。モデルが作れて、音楽が作れて、動画編集ができて、イラストも書ける。あとは、スケジュールを管理するマネージャーが足りてないだけである。


ハルト:待って、秋葉家ってなんなの!?

腐海の魔女:謎集団すぎる……。

銀:知ってるか?

デデデ:Vの異能集団には

里奈@ギャル:スカウトでしか入れない……


 何故か、コメントが息ピッタリで僕は笑ってしまった。


『そんなことないよ。定君とか、自分からVTuberになりたいってきたし。でも、Ryu君はスカウト組かも。でも、今のところ秋葉家を増やすつもりないからなぁ……』


 そうすると、僕はいつまでたっても末弟のままだ。それでも別にかまわないけど……。


『さて、時間的に次が最後かなぁ……[秋葉家にもっとリアルトラッキングスーツを広めて欲しいです!]うん、これはそうだね……とりあえずリンちゃんにはまず持たせる!』


秋葉リン:え!?


 こうして、僕がリアルトラッキングスーツを買うことが決定したのである。


 リアルトラッキングスーツとは、ぴちっとしたスーツで、モデルから衣服等がはみ出すのを抑えつつ、モーショントラッキングもしてくれるスーツだ。体型にあわせて作る必要があって、かなり高価だ。ついでに、着るの恥ずかしいのである。


 そのあと、カゲミツお兄ちゃんの登場を嗅ぎつけて、そのファンたちが放送に来たりしたが、ママの放送は無事に成功した。


 ママだから、失敗するはずもなかろうものだけど。

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