第93話・撮影後放送
撮影が終わり、次の日のことである。
午前中は、全力の表現で歌える歌のレパートリーを増やし、午後になって配信を始めた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! こんにちは! 今日も、銀お兄ちゃんを呼んでいこう! コラボ撮影の感想戦、始めるよ!」
今日はそれを本題に、雑談を中心としたライブをしていこうと思う。
最近は、雑談ライブをする機会が増えてきた。もっと、トーク力を鍛えなければいけない。
銀:ひえっ!? かかってくるの!?
デデデ:銀、お前のV化……期待してるぜ!
里奈@ギャル:なんだかんだ、銀も半分秋葉Vよね?
どんどんとコメントが流れていく。銀さんがVTuberになることを心待ちにしている声も多い。だって、銀さんの声はとても魅力的だ。
「銀お兄ちゃん、覚悟ー!」
そう言いながら、僕は通話ボタンを押した。
『もしもし……』
ほどなくして、銀さんは電話に出てくれた。
「こんにちは! 銀お兄ちゃん! 昨日の撮影楽しかったね!」
『俺はもう恥ずかしゅうて……』
正直に言うならば、昨日の撮影は過去一番大変だった。銀さんの表情が全然柔らかくなってくれなかったのだ。
だけど、途中からようやく僕に慣れてくれたようで、表情は柔らかくなった。でも、代わりに銀さんの目線は終始熱いものがあったのである。
「でももう、緊張しないでしょ?」
『ま、まぁそりゃね……』
「抱きしめてくれた仲だしね?」
僕は爆弾を投下する。そもそも、そういう写真があると言う情報を視聴者さんに共有したかったのだ。だから、銀さんには犠牲になってもらうことにした。
『ふぁ!?』
銀さんからは情けない奇声が帰ってきた。
デデデ:銀そこかわれ!
剣崎:感想レポートを提出するように。
さーや:信じられる? これ、BLなんだよ?
里奈@ギャル:ゆりゆりしい……
みっちーママ:ちょっと羨ましかったなぁ……
「ママも後でぎゅってする?」
そんな銀さんはほうっておいて、僕はママを優先する。積極的になればなるほど、営業だと思ってくれる人が多そうだ。
VTuberとガチ恋は切っても切れない。だからこそ、僕たちは、恋人が居ようとも、それに気づかせてはいけないのだ。
みっちーママ:する!
でも、ママ本人にまで営業だと思われたら僕は悲しい。
「えへへ! じゃあ、後でね!」
『てぇてぇ過剰摂取注意報が発令されました!』
僕たちのやり取りを聞いて、銀さんが意味のわからないことを言った。
「ところでさ、銀お兄ちゃんはVデビューしないの?」
それを望む声は結構多い。そして、銀さんが秋葉家からVTuberデビューをするとものすごく話がややこしいのだ。
僕は弟キャラであるわけで。だが、銀さんは僕の弟という設定になってしまう。
これをどう処理すべきかが僕にはわからない。
『いや、しないよ! 俺、ぶっちゃけ見た目だけだから!』
だから、ちょっとだけその言葉に安心はした。だけど、それとこれとは別の話である。
「別に見た目だけじゃないと思うんだけどなぁ……」
声だって魅力的だ。ただ、それがVTuberとしてやっていける力になるかどうか僕にはわからない。
誰が見ても一目ですごいとなる部分が、VTuberにはひとつじゃ足りない気がするのだ。
もしかしたら、銀さんはVTuberには向いていないのかもしれない。だって、もし向いていたらママがもう産んでるはずだ。
『まぁ、俺はモデル一本で行くって決めてるからさ!』
銀さんが、そう定めている以上、僕がこれ以上言うのは野暮かも知れない。
その時、僕の次の目標が、目標の側から寄ってくるようなコメントが飛んできた。
Necoro:銀さん羨ましいじゃん。んで、アタシとはいつコラボしてくれるの?
正直、これが誘い辛かったのだ。だって……。
「僕、歌決めると、一ヶ月は練習するけど、それでもコラボしてくれる?」
そう、僕の練習は巻き込むにはあまりに期間が長い。
Necoro:オッケー、んじゃ二人でみっちりやろっか!
それをNecoroさんは、快く引き受けてくれたのである。
「いいの!?」
これでコラボは決まったかのようなもの。コメントでNecoroさんから快答をもらい、実際の日程はThisCodeで詰めることになった。
『てか、リン君って、歌そこまで練習するんだ?』
「うん! 元々僕は合唱をやってたから! ほら、合唱ってクラス全員で数ヶ月練習するじゃん? だから、僕にとっては今でも短いくらい!」
『通りで上手いわけだ!』
銀さんは、僕に感心するのだった。
トントン拍子、そんな言葉がちょうどいいほどに話が進んでいく。やっぱり僕の日常は、楽しいことばかりで忙しい。
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