第90話・ハート・ブレイク

 父や、僕を誘拐したふたりの実行犯は、改めて裁判を行い、量刑は母と同じになった。


 これにて、一件落着と相成って、僕は日常に回帰する。


 すっかり忘れていたことがたくさんだけど、僕の日常は忙しい。銀さんとのコラボや、歌に関してもデュエットに向けた活動もしなくてはならない。


 でも、そんな多忙さが極めて幸福だ。その多忙さは、全部僕にとって楽しいことで構成されていて、要するに退屈をしないということ。


「みんなー今日も来てくれてありがとう! 今日はね、銀さんとThisCodeが繋がってるよ!」


 さしあたって、まずは銀さんとのコラボ撮影から始めることになった。それは、単純に撮影スタッフさんが決めた日程が近かったからだ。


『あ、えっと……リン君……? 俺、いいのかな?』


 銀さんの声はとても、可愛いと思う。少年的な声だ。ともすれば、女性の声にも聞こえるかもしれない。とてもボーイッシュな女性の声に。


「ふふっ、銀お兄ちゃん、緊張しすぎ! もっと肩の力抜こ?」


『はぅぁ!?』

 

デデデ:信じられるか? これ、BLなんだぜ?

里奈@ギャル:百合百合しいBL……そういうのもありか!?

さーや:どうしよう……腐ったかも!

ダン・ガン:銀が既に瀕死の件

剣崎:でもぶっちゃけ、銀も声可愛くね? 俺、全然イケる!

みぽりん:BLって、エモいね。腐女子の気持ちわかってきたわ……

みあ:これは……ヤバい! 男の子同士なんて、そんな、あぁ……


 今日はママ枠のメンバーと女性陣がすごくアクティブだ。僕のファンになってくれたちょっとギャルな人たちが、どんどん腐女子堕ちしていく。


『ダン! お前、直接お兄ちゃんとか言われてみろ! これ、死ぬほど可愛いんぞ!』


 その声は今僕にダダ漏れな訳で、僕はそれがどうしようもなく恥ずかしい。


「うぅ……。そうやって、恥ずかしいこというんだったら、もうお兄ちゃんって呼ばない!」


『ぐふ……いや、頼む。頼むからそんな可愛いこと言わないで! 俺、限界ヲタクになっちゃうから!』


 それもまた、逆効果で、さらに銀さんに萌えを提供してしまった。


 銀さんは声だけでも、確実ににやけているのが分かる。


Alen:Japanease日本人の kawaiiかわいい is so scaryってすごく怖い

デデデ:衛生兵ー!!!!

里奈@ギャル:銀、傷は浅いよ! 持ちこたえて!

Mike:いいなぁ……私もお兄ちゃんって呼ばれたい……。

お塩:最近さ、俺おかしいんだ……。リンちゃんが音楽系の活動をしてなくてもつい見ちゃうんだ……。

ベト弁:安心しろ、俺もだ。

Ryo:まぁ、俺も見てるしな!


 ちょっとコメントが関係ない方向に動いているから、僕は銀さんをいじって間を持たせることにした。


「銀お兄ちゃんってはなんでそんなに緊張してるの? モデルやってるし、人前に出ることはなれてるんじゃないの?」


 それに、これは気になっていたことでもある。


『いや、リン君って俺の推しなんだからね! 推しとお近づきになってテンパらないファンがいてたまる!?』


 納得した。僕だって、初めてママがみっちーママその人だと知ったときは、夢だと思ったから。


 あの時、夢だと思ってなかったら、僕はママの放送に出演するなんて無理だったと思う。


「あー、理解したよ。推しとお近づきになったら、緊張するよね?」


『だろ!? だから俺、今、心臓破裂しそうなんだよ!』


 銀さんのそれは、ほぼ悲鳴だった。だけど、それはさておき、今日はそもそも告知のために銀さんをライブに招待したのだ。


「まぁ、置いといて! 明日は放送できないかも! 僕、銀さんとコラボ写真撮るから!」


『がんばってー、明日の俺……』


 もう、銀さんは投げやりだった。


里奈@ギャル:きちゃあああああああああああああああ!

デデデ:絶対買う!

Mike:Alen、わかってるか?

Alen:当たり前だぞ、兄弟。今回は、シモンの分もだろ?

ベト弁:シwwwモwwwンwww

初bread:ぶっちゃけ、リンちゃんって恐ろしいよね? 音楽関係の人に、ファッション誌買わせちゃうんだから。しかも子供向けのやつ。

みっちーママ:むぅ……リン君がママ以外とイチャイチャしてる……

剣崎:嫉妬……てぇてぇ……


『あれ? 俺、結構おいしい思いしてる?』


 銀さんが呟くと、コメントは一気に『そこ変われ』に染まった。


 ファン数的な意味でも、僕が足を引っ張ることもないと思う。ちょっと緊張するけど、でも、モデルとしての僕のファンだって銀さんに負けてないと思う。


「ふふふ! 僕も、おいしい思いさせてもらうから!」


 そう、コラボなんて持ちつ持たれつだ。大体双方に得がある。


 ただ、外見的な魅力だけだと僕は銀さんに一歩及ばない気もする。だって、銀さんはアルビノだ。肌も体毛も、その全てが白銀。まるで、芸術品のように見えてしまう。


 そもそも、見た目で張り合っても仕方がない。だって、僕は歌姫だから。


 相変わらず、男で歌姫は変だと思うけど……。


 だけど、やっぱり雑談ライブは難しい。この日、僕のライブはしゃべることが尽きて、いつもより早く終わってしまうのだった。

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