いつか憧れた自分
第88話・憧れの先
なんの力も持たない、親にすら見放された負け犬。それは、いつかの自分で。だけど、夢に描いていた姿のその先に今の自分がいた。
「こんにちは、お兄ちゃん、お姉ちゃん! 今日も来てくれてありがとう! 僕から、大告知! この度、Utubeチャンネル登録者数が五千万人を突破しました!」
所詮、僕が描いた最強の自分なんて、ただ自分自身の足で歩ける力を持っただけの凡人。
でも、今の僕は違う。
たくさんの人が僕に励まされてくれる。一人で立っている、それは未達成かも知れない。でも、たくさんの人が寄りかかることが出来るだけの物語を、僕は歩んできた。
チャンネル登録者数五千万人。VTuberの歴史を、一歩先に進めてしまうような、そんな数字を僕は持っている。
銀:凄まじい……
デデデ:ごぉ……ごせんまん……まん……
お塩:てか、多分音楽家で、リンちゃんを知らない人いないんだよなぁ……。
ベト弁:流石にここまでは想定外……
みっちーママ:もう、桁違いになっちゃったよね……
里奈@ギャル:ウチらが育てた!
さーや:なんだかんだ言って、ファンのジャンルを選ばないのよ、リンちゃんは
Mike:国境も選ばない
Alen:性別も選んでないよな?
国内だけじゃ到底無理な数字だ。というか、非現実的な数字だと思う。そんな僕でも、Utubeのチャンネル登録者数トップ10には入っていない。本当に、世界は広いのだ。
「でもね、ここまでこれたのは、支えてくれたみんなのおかげ! 本当に僕は、みんなに心から感謝してるんだ!」
本当に、感謝ばかりを積み上げて、すべてが変わった世界を歩いてきた。
まだ、Vtuberを初めて一年も経っていない。僕のVTuber人生は、始まった瞬間から波乱万丈過ぎたのだ。海外の大手音楽プロデューサーに見つかったり、マンガマーケットに出たり。
声を失ったりもした。歌姫と呼ばれたのに歌えない期間があった。だけど、音楽は僕を裏切らなかった。それに、視聴者さんたちだってそうだ。
銀:最初からぞっこんだっただけ。支えたつもりなんてないよ。
デデデ:マジでそう。ただ、自分の欲望に正直に行動しただけだよ。
ベト弁:楽器関係だって、リンちゃんを好きになる理由には十分だからね!
お塩:マジギターだけでも、十分俺はリンちゃんが好きさ。
初bread:ピアノが弾けないのは、少し遺憾だけどね!
なんて、歌以外でも充分僕を好きでいてくれる理由がどんどん羅列される。
「ピアノは許してよ! 僕は手が小さいんだから!」
なんて、笑った。
さて、普通だったらもっと最初にやるべきだったことに着手しよう。ギモーヴだ。ツブヤイッターの拡張機能で、匿名で質問を相手に届けられる機能。疑問文とギモーヴが若干名前が似ているため、命名された。
歌ったり、喋ったりばかりで僕は今の今までこれに手をつけてこなかった。
「じゃ、今回はサービス回! ギモーヴこいこい!」
そう言いながら、僕はツブヤイッターでギモーヴを開設した。
途端に、視聴者さんたちがコメントそっちのけでギモーヴをどんどんくれる。
「じゃあ、一個目、いっただきますー! えっと、『好きな人は誰ですか?』。みんな、答えわかってるでしょ? ママが大好き!」
ギモーヴはお菓子の名前だ。だから、質問に答えるときいただきますと言うのはVTuberの間では常識だ。
里奈@ギャル:知ってた……けどてぇてぇ
銀:てか、秋葉家全員この答えだと思うわ。てぇてぇ
デデデ:まぁ、秋葉家だしな! てぇてぇ
なんて、みんな僕の答えにてぇてぇで反応するのだ。いつもの全方位攻撃で、笑っちゃう。
「さて、二個目。『Vになる前の推しは誰ですか?』。あー、答えかぶっちゃったねぇ、これもママなんだ。ちなみに、今も推しはママ。二推しがRyuお兄ちゃんかなぁ」
そう、ママは僕の推しだったんだ。今、僕は推しと一緒に生活をしているのだ。もう、全方位から嫉妬されても文句は言えない。
そもそも、僕はVTuberに詳しくない。ママばっかり見ていたから。
銀:推しが推しを推してる件……
ベト弁:推しの二推しが推しな件……
Ryu:お前、鞍替えしやがったな!?
ベト弁:仕方ないじゃん! だって、あの復活劇は誰でも心奪われるって!
Ryu:俺らが復活させた!
なんて、Ryuお兄ちゃんが誇るから、僕は笑ってしまった。
「ふふふっ。Ryuお兄ちゃんたちのおかげだもんね! さ、三つ目! 『一番好きな歌はなんですか?』。これ、思い出補正かかりまくりでMalumDivaなんだよね。歌自体も素晴らしいんだけど、この歌には僕の歴史がたくさん詰まってる! リメイク、出したいなぁ……」
そう、僕のVTuber活動をずっと見守ってくれていたような歌だ。だから、今の僕ならもっと表現できるはず。そう思うと、リメイクがしたくてたまらない。
Ryu:おう、じゃあやるか!
そして、唐突にリメイクプロジェクトは始動するのだった。
「うん! ぜひまたやろう!」
時間いっぱいまでギモーヴが途絶えることはなかった。歌のリクエストなんかもたくさん飛んできた。
やっぱり、僕は歌姫だから。
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