第87話・讃えよ不死鳥の歌姫

 次の日……。


 YeaHuuニュース、ツブヤイッターのトレンド、Utubeの急上昇キーワード、その全部が不死鳥の歌姫だった。つまり、僕のことだ。


 朝の情報チェックをしようにも、僕には僕自身の情報しか入ってこない。もう、こまってしまった。視聴者さんたちとの大事な話題作りのための情報が、自分の情報で埋まっているのだ。


 意図せず、それはエゴサーチになってしまう。


 どうせだから、このまま7ちゃんねるも覗いてみることにした。


【讃えよ】秋葉リンファンスレ123【不死鳥の歌姫】


1:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

ここは、我らの希望、失声症に負けずに舞い戻ってきた歌姫、秋葉リンのファンスレです。

アンチは居るもんなら出てこいや!

その他、秋葉家のVTuber及び、林クレイオー、SilverIrisの話題は許容します。

みんな楽しく、お兄ちゃんライフを満喫しましょう。


2:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

>>1 乙

俺も昔はお前らみたいなアンチだった。だが、心にあの復活劇を受けてしまってな


3:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

リンちゃんマジで希望やで。あんなん普通へこたれるやん。人生諦めるやん。

それを……帰ってきたからなぁ……。

あの、復活ライブはマジで泣いた。水分摂取したそばから、涙になった。


4:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

な、マジで感動したよな。てか、あそこまで努力と根性のリンちゃんをアンチできるもんならしてみろって感じだわ。


5:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

おい、どうしてくれるんだよ!? 煽られたからアンチするつもりできたら、ファンになっちまったじゃねぇかよ! なんだよあの復活劇! あれ、マジで創作じゃないんだよな?


6:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

>>5 創作じゃない。でも、創作だったら名作だよな?


7:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

間違いない。てか、劇場版秋葉リンだわ。タイトルは……『不死鳥の歌姫』でいいよな?


8:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

>>1 が秀逸すぎるんだよなぁ。心の底から讃えたい、不死鳥の歌姫を!


9:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

ふしちょうのうたひめ.jpeg

描いた……


10:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

>>9 くそうめぇ! リンちゃんに投げつけてこいよ! 多分、喜ぶぞ!


11:以下名無しにかわりましてお兄ちゃんがお送りします

そんな度胸はない……。


 なんて、言ってるけど、僕見ちゃってるんだよね。


 でも、アンチになるつもりが、ファンになっちゃうなんて、僕も強くなれたんだ。


「ねぇ、リン君。Illsiv見てごらん」


 不意に、ママが言った。


 Illsivは主に絵などを投稿するサイトだ。


「うん!」


 僕は、そう言ってIllsivを開いた。


 別に、僕の名前で検索したわけではない。それなのに、ズラッと僕の絵が並んでいる。漫画や、うごイラ短いアニメーションまである。


「うわ、僕ばっかり」


 だから、思わず声を上げた。


「凛くんは世界一のVTuberだからねー! あんな復活劇を見せたら、こうもなるよ!」


 時折忘れちゃうけど、僕はVTuberチャンネル登録者数世界一なのだ。でも、その数を獲得できたのも、歌のおかげ、そしてママのおかげだ。


「ママが支えてくれたからだよ?」


 全部全部、ママのおかげ。そう言っても僕は過言だと思わない。


「凛くんには才能があったんだよ!」


 だけど、ママはそれを僕の力だという。でも……。


「その才能を見つけてくれたのって、ママだから!」


 それも全部、ママのおかげだと思う。


 あの日、ママが僕を見つけてくれたのは運命だったんだと思う。そうじゃなかったら、神様はどこまでも僕に残酷だ。


 MalumDiva、悪魔の歌姫。不死鳥より、僕にはそっちがふさわしいと思う。


「ねぇ、ママ。大好きだよ!」


 これは、恋愛の好きだ。ママに恋をするなんておかしいかも知れない。でも、そもそも前提からおかしいんだ。僕と、ママは血が繋がっていない。僕とママは、嬉しくも悲しくも他人だ。結婚だってできる。


「うん! ママも凛くん大好き!」


 それに、ママはママの好きを返してきた。


 今はまだ、それでもいい。僕を好きでいてくれる、それだけで僕には十分すぎる幸せなんだ。


 でも、いつか、いつか叶うなら、ママに恋愛の好きを抱かせたい。


 突破口は見えてる。だって、ママは僕にキスをしたことがあるんだ。僕はもっと、狡くなる。そんな事を決めた、朝だった……。

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