第43話・一等星

 放送が終わり、自分の動画をちょっと確認してみると、目に見えて再生数が増えていた。全体的に再生数が百万くらい増えているんだけど、MalumDivaは三千万増えていた。


 チャンネル登録者数も爆増、一気に一千万人を突破した。


「な、何が……」


 僕が混乱していると、満さんが防音室に入ってくる。


「凛くん! あのシモンが凛くんの動画拡散してる!」


 それが、この再生数爆増の原因な気はする。だけど……。


「すみません、えっと……シモン?」


 僕にはその人がわからない。でも、満さんの言動から、それがすごい人だっていうことだけはわかった。


「あのね、すごく有名な、スター発掘の番組の審査員長! ママもまさか本物だって思ってなかった! でも、本物だった!」


 納得した。そんな人が僕の動画を拡散したら、一気に世界中に拡散される。


 でも、そうだとしたら僕のチャンネル登録者はほとんどが海外の人なんじゃないかと思った。日本人より、海外の登録者のほうが多いVTuberってなんだろう。


 それより、これって本当にやばいんじゃないかな……。あまりに、登録者が一気に増えすぎた。


 秋葉家とはいえ、一応個人勢だ。個人勢でチャンネル登録者数一千万ってなんだろう……。


 何もかもが、僕の予想外だ。


「え? これ、凛くんのチャンネル登録者?」


 僕は自分のUtubeチャンネルを開いていた。


「あ、はい!」


 きっと、それを見て満さんは言っているんだろう。


「更新してるよ……VTuberチャンネル登録者数世界一位を!」


 そう、僕はこの日、世界一になった。僕がこんなことになった原因は、歌のおかげだと思う。だってMalumDivaの再生数がチャンネル登録者数より多いのだ。


 だから、Ryuさんのおかげだ。


 そんな事を思っていると、そのRyuさんからThisCodeの着信が来た。


「あ!? えと!?」


 一瞬僕が戸惑うと、満さんが通話ボタンを押した。


『よぉリン! お前、すっげぇじゃねぇか! VTuber世界一位を更新しちまいやがった! 一千万だぞ! 一千万! いやぁうっはうはだぜ! 俺の名前も、世界に売れるってもンだ!』


 Ryuさんはハイテンションに言った。


「Ryuさんのおかげです! ラテン語の歌だから、海外の人でも聞ける! だから、こうなれたんです!」


 そう、僕にとってはRyuさんのおかげ。そして、僕を見つけてくれた満さんのおかげだ。全部、自分の力なんかじゃない。


 そもそも僕は、灰色の日常に溺れて過ごしてきたのだ。息が詰まるような、死んだような日々。その灰を吹き飛ばしてくれたのは満さんとRyuさんだ。


「リン君には才能があった。それを見えるようにしただけだよ」


『おう、おふくろの言うとおりだ! テメェの才能は世界一だと思った! だから、勝手に歌が頭ン中に湧いてきやがった! テメェのせいだからな! 俺がこんなに楽しいのはよ!』


 それなのに、二人は僕の才能だという。僕には何もないと思っていた。だって、まともに仕事だってできなくて、希望も夢も消えていった。そんな時代がずっと続いていたんだ。


「見つけてくれたのは、満さんです……。輝かせてくれたのは二人じゃないですか!?」


 僕は知らなかったんだ、僕に才能が有るだなんて。でももう認めざるを得ない。だって世界一位なんだ。僕は世界一のVTuberになったのだ。これで、自分の才能を疑うなんてありえない。


『一等星に感じたんだよ……。テメェのCOSMOS聞いたときによォ、世界が変わっちまうのを感じた。銀河の中で、いっちばんの輝きを放ちやがる一等星、それがテメェだって感じた。それが地上にあるんだぜ? これを放っておける奴なんていねぇんだ! 誇れ! テメェの歌は銀河一だ! 世界を感動の渦で飲み込んじまおうぜ!』


 Ryuさんはそう言った、自信に満ち溢れた声で。でも、僕にとってはRyuさんの作る歌も十分一等星だ。


 満さんはさしづめ望遠鏡だろう。満さんは多くの才能を見つけて、秋葉家の一員として輝かせてきた。なんでも見つける望遠鏡だ。


「はい! 二人が協力してくれるなら、僕はなんでもできます!」


 そう、本当になんだって出来る気がする。Ryuさんの作る歌を世界に響かせることだって。


『ったりめぇだ! テメェは一番星! いや、太陽だからよォ!』


 なんて、Ryuさんは僕の背中を乱暴に押してくれる。


「当たり前だよ、ママの子はみんな才能に溢れてるんだから」


 満さんのそれはふわりとしていた。包み込むように支えてくれてるようだった。


『あーあーあーあー! てかよォ、まぁたてめぇの曲つくりてぇんだ。歌ってくれるか?』


 それに答えるのは、僕にとって息をするより簡単だった。


「当然です!」


 だって、僕はRyuさんの大ファンだ。だから、Ryuさんが僕に歌をくれるなら、僕は全力以上で歌う。


『んじゃ、俺また作曲するわ。じゃあな!』


 そう言って、Ryuさんは通話を切った。これは、夏マケに出す歌も、その先のこともずっと含んでるんだって、僕でもわかった。


「じゃあ、夕飯にしましょう!」


 そう言って、手をパンと叩く満さん。その姿には安心感があって、止まり木のようにも思えた。

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