第35話・ヴァイオリン

 動画を投稿して、お昼ご飯を食べた。今日はホットサンド、口の中を火傷しちゃった。でも、それは美味しかったからだ。美味しすぎて冷ますのを怠ってしまったからだ。


 午後は二回目の弾き語り枠。でも、今日は平日だから、あんまり人が集まらないかもしれないなぁと思った。


「こんにちはー! 来てくれたお兄さん、お姉さんに感謝を! 今日も僕はリクエスト受付中! でも、今日は雑談8割でやっていくよ!」


 午前中もずっと歌ってたから、少し喉を休めたくて、僕はそう宣言する。


Alen:スーパーチャット10000円:リンちゃんキタ━(゚∀゚)━!

お塩:ギターの動画見たよ。本当に、とてつもない技術だ。

Ryu:朝に駆ける、クソ良かったぜ!

みっちーママ:きゃー! リン君!!

初bread:天使のソプラノの歌枠キタ━(゚∀゚)━! あ、ちなみにクラシックはダメ?

ベト弁:この放送を文化財として指定する!

もう詰まっとると?:てかさ、視聴者の音楽家率高すぎんだよなぁ……。

チャイが好きィ!:バンドやろうぜ!

麻辣:動画から初見! 歌唱力とギターの怪物がいると聞いて!

デデデ:ギター動画ヤバイバズってるよ! おてて可愛かった!

わー!?ぐわー!!:信じられるか? あの可愛いおててがあの超絶技巧をやってるんだぜ? あ、動画から初見!


 でも、思ったよりコメントは沢山くる。Mikeさんはいないし、ママ枠の視聴者さんは少ないけど、その分初見さんが来てくれてる。それにRyuさんの視聴者さんたちもだ。


「え!? バズってる!? あ、本当だ!」


 デデデさんに言われて僕は、自分の動画を見てみた。再生数はすでに8万。アップロードしてからまだ三時間と少しなのにだ。初速が早すぎて僕もびっくり。しかもコメントもたくさん付いている。みんな、僕のギターが超絶技巧って言っている。


「えー、僕のギターって超絶技巧って言うほどかなぁ? 僕、この弾き方しか知らないし……」


お塩:※注意・リンちゃんはギターの基礎知識皆無です。音感で無理やりギターを弾いています。

Ryu:※補足・ギター歴一ヶ月。俺が育てた!

わー!?ぐわー!!:間違いなく超絶技巧。あんな弾き方する奴見たことない。

麻辣:その情報まじか!?片っ端から楽器送りつけてみたくなるんだけど!

もう詰まっとると?:SAVANAのほしい物リストにヴァイオリン入れてみ? 多分一瞬で送りつけられるから


 SAVANAは知らない人はいない大手通販サイトだ。


「えっと、僕今、僕を産んでくれたみっちーママと一緒に暮らしてるんです。だから、楽器置かせてもらっていいか聞かないと……」


Ryu:愚問だぞ?

みっちーママ:リン君、楽器欲しいならママに言わないとダメだよ! すぐ買ってあげるんだから。

Ryu:な?


 速攻で許可が下りてしまった。


「えっと、じゃあ、おすすめのヴァイオリン教えてください!」


 ヴァイオリンも格好良いの象徴だ。だから、僕は当然興味がある。そもそも、楽器ができる男性はとてもかっこいいと思う。男性ピアニストだって、なんだったらドラマーでもかっこいい。


 でも、多分ドラムは僕には無理だ。あんなに激しく動いたら、僕のスタミナは一瞬で枯渇する。


もう詰まっとると?:ストラディバリウス!

麻辣:ネリ・デル・ジェス

初bread:アンドレア・アマティ


 僕は、そのコメントを見て急いでそのヴァイオリンを検索する。


「世界三大ヴァイオリンじゃないですか!? 千万……円じゃなくてドルだこれ!」


 出てきたのはまとめサイト的なもので、そこには一千万ドルを越える値段が書かれている。一ドル100円と考えて、十億円以上するものだ。そんなものはSAVANAといえど、取り扱ってるわけがない。


バッバ:お前ら冗談が過ぎるぞ……。これにしとけ。https://www.savana.co.jp/calaro-hondel-violin

わー!?ぐわー!!:ギター歴一ヶ月でこんなことになってるんだったら、バッバのURLのヴァイオリンにもすぐふさわしくなるね。

チャイが好きィ!:お、カラーロじゃん。いいね

ベト弁:よし、これにしよう!


 僕は、そのリンクをクリックする。


「ななじゅう……まん……!?」


 またしても、とんでもない値段のものを僕に押し付けようとしている。


 僕は、ヴァイオリンをおすすめ順で検索してみる。すると、高価だと思ってたヴァイオリンも一万円以下のものがゴロゴロ転がっていた。


「一万円以下でお願いします!」


Ryu:そんなおもちゃリンに使わせられるわけねぇだろ!

みっちーママ:十万円くらいのにしよ?

初bread:買ってあげるから、十万円くらいのつかお?

ベト弁:未来のヴァイオリニストにそんなおもちゃ持たせられるかよ!?

もう詰まっとると?:一万のヴァイオリンに触ることすら世界の損失だ!

チャイが好きィ!:おい、バンドやるんだからいいヴァイオリン使えよ!

麻辣:最低額十万円からスタート!

わー!?ぐわー!!:てか、本当にカラーロダメ? 送りたい!

Alen:スーパーチャット1000円:カラーロ買ってあげるよ?


 なんでこんなに僕に高いヴァイオリンを送りたがるんだろう……。


 僕、ヴァイオリン弾いたことないのに……。


 そもそも、カラーロだ。七十万円とかいうよくわからない金額のものを僕に買ってくれようとする人が多すぎる。


「わかりました、せめて五万円で……」


 すると、チャットから却下の嵐が吹き荒れたのだった。


 結局、僕が買ってもらったヴァイオリンは十二万円もするものだった。ヴァイオリンの練習、頑張らないと……。

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