第33話・おててないない下

 練習が終わり、昼食をとる。といっても、僕は自分でスプーンやフォークすら握れない。だから、全部満さんに食べさせてもらった。


 間違って満さんって読んでしまったり、敬語を使ったりもしてしまった。でも、もうかなり慣れてきたと思う。恥ずかしいのは変わらないけど、敬語は結構なおってきたと思う。


 それからさらに時間が経ち、今日はお母さんと一緒だ。パソコンデスクには、ストロー付きのコップが二つ。僕が今日は自分で飲めないから、ストロー付きだ。


「こんばんわー! みんな今日もお疲れ様! みんなえらいえらい」


「お兄さん、お姉さん! 今日もたっくさん頑張ったんだね! すごいすごい!」


 いつもの挨拶で放送は始まった。


銀:お母さんと一緒キタ━(゚∀゚)━!

剣崎:ママと弟の両方に甘やかされて幸せすぎる件!

里奈@ギャル:それな!

Alen:スーパーチャット10000円:リンちゃん、撮影お疲れ様! りんちゃんも頑張ってるよおおおお!

Mike:スーパーチャット10000円:IMOUTO is MOE! ふふふ、何を言ってるかわかるまい!

デデデ:弟な?

Mike:スーパーチャット1000円:のおおおおおおおおおおお! おぅ・まい・ごっど!!

Alen:スーパーチャット1000円:当たり前だろ、ほとんど日本語だ


 チャットもいつもどおり大盛況だ。それにAlenさんとMikeさんの富豪コンビも健在で今日もチャットの度に僕は千円もらっちゃう。


「ありがと! 昨日は本当に疲れたんだ。いろんなポーズさせられて、足が棒だったよ……」


 そういえば、放送の前にママに言われていたのだ。視聴者さん相手でも、僕のキャラクターだとタメ口のほうがいいって。だから、僕は思い切ってみた。


「でも、昨日のリン君本当に可愛かったんだよー! お化粧もして、本当にお姫様みたいだった!」


「ママ、お姫様は恥ずかしいよ……」


 だって、僕だって一応男なわけだし。お姫様扱いなんて初めてされた。だいたい、僕はおじさんなんだ。お姫様なんて変だ。


銀:なんで俺、撮影現場にいなかったんだろう……。

剣崎:弟がお姫様……うん、当然だな!

Mike:スーパーチャット1000円:銀、日本にいるってだけで羨ましいよ!

Alen:スーパーチャット1000円:あ、そうだ。今度うちにも遊びに来てほしいな。DMダイレクトメールで詳細送っておくから。きっと、うちの子も喜ぶしさ。

デデデ:あ、そういえば、この前のファンスレで流石にギターは別人って言われてる。演奏動画とか上げたほうがいいかも。まぁ、俺がリン君のおててをみたいっていうのもある。 http://www.7ch.thred.id=1919810


 なんで、こんなタイムリーなことをいうのだろうか……。


「あ、そういえば、今リン君はおてて使えないんだよー!」


 そう、そんな事を言ったら、ママが黙っているはずがない。


お塩:スーパーチャット50000円:手怪我した!? ギタリストなんだから、だいじにしないと。あ、これ治療費ね!


 挨拶なんてしなかったのに、真っ先に反応したのはお塩さんだった。この人はもう、何も言わなくてもいると思ったほうがいいかも知れない。


「あ、違うの! ママがリン君のおててに鍵をかけちゃっただけだから!」


 なんでママは全部言っちゃうんだろう……。


 ちょっとエッチなことな気もするし黙っていたほうがいいと僕は思うけど……。


里奈@ギャル:あ、ママの変態面が漏れてる

デデデ:リン君がおててに鍵……閃いた!

銀:通報した

メシマズ:通報した

ダン・ガン:ママの変態面って?

剣崎:ママは人を甘やかすと、興奮する……。

Mike:スーパーチャット1000円:HENTAIエロアニメを指す海外のスラング? どこ? リン君のHENTAI?

Alen:スーパーチャット1000円:Mike、日本で変態は、abnormalって意味だ。

Mike:スーパーチャット1000円:よかった、リン君のHENTAIダメ絶対!


 MikeさんとAlenさんの言っていることは僕にはよくわからない。でも、今のこの状況がえっちなことは分かってしまった。


「ママ! これ、えっちなやつなの!?」


 僕はそう言いながら、満さんに手にはめられた革袋を突きつけた。


「えっと……あはは……」


 完全に言葉を濁された。これ、絶対えっちなやつだ……。


デデデ:マジレスするとボンテージグローブって言うSMグッズ

銀:てかママなんで持ってるの!?

里奈@ギャル:ちょっとだけ引いた。SMグッズは流石にないっしょ……。


 気が付けば、ママがチャットのみんなからドン引きされている。でも、ドン引きしながらもいなくならないあたりがママのファンだなって思った。


「違うの! リン君がずっと敬語だから、ママ寂しかっただけだもん!」


 ママの駄々っ子は貴重だ。普段は甘やかす側だけに、こんな姿は滅多に見せない。


ダン・ガン:代用しなさい! サランラップとかでいいでしょうが!

銀:パッと代用物思いつくあたり、ダン・ガンって……。

デデデ:でもさ、拘束されて抵抗できないリン君って……

剣崎:デデデ、センシティブ警察としてお前を逮捕する!

里奈@ギャル:リン君、ママは多分しないと思うけど……一応嫌な事されてない?


 その後、ダンさんはSM愛好家であることがあっさりバレるのはまた別の話だ。


「全然されてないよ! すっごく甘えさせてくれるから、僕一生これでもいいかも!」


「リン君……」


 実は、ちょっとだけそう思っているのだ。全部やってもらうのは、心苦しさもあるけど嬉しさもある。


「あ、やっぱなし! お風呂入れないもん!」


「洗ってあげるよー!」


「やだ! 恥ずかしいもん!」


 僕にとっては、少し前まで裸を見られることは子作りよりエッチなことだったのだ。耐えられるわけもない。


お塩:リン君がギターを弾かないのは世界の損失だからそれはダメ。


 僕は、どこまでもギター一筋のお塩さんに救われるのだった。


 この日、決まったことは、僕がギターを弾いているところの録画だ。曲は朝に駆けるにしようと思う。だって、この前の弾き語り放送の時に答えられなかったリクエストだから。

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