第30話・モデル撮影下
次は屋外スタジオへの移動だ。この移動は、ロケ車で行う。大きなハイエーヌだ。
そういえば昔みっちーママの放送のコメント見かけた動詞が、ハイエーヌだった。確か女の子がさらわれるシチュエーションらしいけど、大人である僕には関係ない。
「ちょっとよろしいですか?」
そんな事を思っていると、お巡りさんが安田さんに話しかけた。
「あ、どうも。いつもお世話になっております。白井プロです」
「あ、白井プロの方でしたか。お引き止めして申し訳ありません」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなハプニングもありつつ、僕たちは野外スタジオに向かった。
だけどなんでお巡りさんは止めたんだろう……。
野外スタジオ……というより洋館だ。今回はこの洋館のお庭で撮影をするらしい。テーマは闇の妖精だとか……。
「はい、じゃあこれを使って木に登ってください」
いきなり高難易度だ。僕は運動がダメなのに、木に登るだなんて……。
でも、案外大丈夫だった。枝が太くて、お尻が全部乗せられる。幹にも掴まれるし、結構安定感があった。
きっと場所がしっかりと厳選されているのだろう。
「大丈夫そうですか?」
はしごを外すと、安田さんが木の上にいる僕に訪ねてくる。枝の場所はそんなに高くない。安田さんの目線より少し高いくらいだ。多分飛び降りても大丈夫だと思う。
「大丈夫です」
だから、結構余裕だ。
「はい、ポーズもらいます!」
ポーズは移動中に説明してもらっていた。太陽が沈むのを待つように、木陰に隠れるポーズだ。
僕はそのポーズを決める。
すると、安田さんがシャッターを何度も切った。
「いいね! バッチリだよ!」
どうやら僕はまた上手くやれているようだ。
それにしても、上手く出来すぎている気もする。それはきっと、ソロライブをやり遂げたから度胸がついたのだと思うと、納得ができた。
そんな感じで、野外での撮影は妖精というコンセプトもあって、ポーズが難しかった。12カットも撮ったらもうへとへとだった。
「お疲れ様、凛くん。大丈夫?」
「心配してくれてありがとうございます。僕は大丈夫……っとと」
足がもつれてよろけてしまう。なにせ四時間もかかった。時刻はもう午後九時半で、いつもだったらみっちーママの放送中の時間だ。でも、この撮影は夜の方が都合が良かったらしい。
足がもつれた僕を、満さんは抱き上げた。
「わっ!?」
いわゆるお姫様抱っこをされてしまう。
初めて会った日に、力持ちだって自分で言ってたけど、あれは気遣われたのじゃなくて、本当のことかもしれない。
だって、僕だって体重37キロはある。すごく軽いってわけじゃないのだ。
「帰りはママが運んであげるからねー!」
と、満さんは言うけど、大の男がお姫様抱っこをされるのは恥ずかしい。
「凛くん、大変だったよね? さ、早く車に! 家はどこ? 送っていくよ!」
そういえば、ロケ車の運転手は安田さんだ。
「低輪です。お願いしちゃいますね!」
満さんは、安田さんにそう答えると、僕を車のシートに座らせてくれた。
それで、満さんは僕の隣に座る。
安田さんは後部座席のドアを閉めると、運転席に飛び乗った。
「本当に助かったよ。キッズモデルで夜の撮影出来る子なんてほぼいないからさ」
そう言いながら、安田さんは車を出した。
疲れているからか、加速感がさっきより強く感じる。
「あはは。でも、体力なくてごめんなさい」
だって、撮影が終わった途端僕はもうだめだ。もう立てそうにない。
「こっちこそごめんね、ちょっとハードすぎたね!」
「本当です!」
そんな風に、怒って返す満さんに僕は笑ってしまった。
それから、40分と少し車に揺られて、満さんのマンションの前についた。
車の中での雑談は、多岐にわたった。僕の歌のことや、容姿のこと。どっちもとても褒められて、僕は少し照れた。
車を降りると、今度は満さんにおぶられて、部屋に向かう。自分で歩くと言ったけど、それは却下されてしまった。
ベッドに寝かされて、言い聞かされる。
「お風呂は朝にしようねー」
よろめくほど疲れていたのだ。お風呂に入るより、寝ることを優先したいと僕も思っていたんだ。だけど……。
「はい。あの……僕、どうでした? 上手く出来てました?」
不安で仕方が無かった。だって、モデルとして撮影されるなんて初めてだ。
「うん、すっごく!」
満さんは肯定してくれた。でも、僕が聞きたかったのはこれじゃない気がする。
一体僕は、満さんに何を聞きたいのだろう。その答えは、考えても出て来なかった。
「ねぇ、凛くん。可愛かったよ……」
不意に、そんな事を言われる。
「へ!?」
頭が、真っ白になってしまう。
「ねぇ、ちゅうしてもいい?」
沸騰した、爆発した。だって、それはかつて、僕にとっては子作りよりエッチなことだったから。
でも……。
「い、いいですよ……」
満さんがしたいって言うなら、僕はなんだってする。だって、今の僕の全ては満さんのものだ。
唇が、触れ合った。
心臓がうるさくて、顔がとてつもなく熱くて、ほかに何かを感じてる余裕なんてなかった。でも、僕のファーストキスは、満さんだ。
それで、いいと思った……。
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