第27話・告知

 今日の放送は、。これは秋葉リンとみっちーママのコラボ配信の通称である。VTuberは、自分の体を作ってくれたモデラーさんをママと呼ぶ。僕のママは満さんで、満さんもVTuberで。だから、ママと一緒に配信ができるのだ。こんな恵まれた境遇のVTuberは少ないだろう。


「こんばんわー! みんな今日もお疲れ様! みんなえらいえらい」


「お兄さん、お姉さん! 今日もたっくさん頑張ったんだね! すごいすごい!」


 この、コラボライブに関して、秋葉リンのキャラクターは随分固まった。


 みっちーママがえらいえらいと褒めて、僕がすごいすごいって褒める。僕は、視聴者さんたちの弟だから、褒めて甘えてが基本戦略だ。


 正直すごく恥ずかしい。だけど、こうすることでママのライブの雰囲気をそのままに、僕を追加することができる。僕だって甘やかし系VTuberだ。


剣崎:ママー!&リン君!

デデデ:お母さんと一緒キタ――(゚∀゚)――!!

里奈@ギャル:リン君まで……この贅沢感よ……

もう詰まっとると?:スーパーチャット10000円:リンちゃん結婚してくれぇ!

初bread:ママー!&リンちゃん!

Alen:スーパーチャット50000円:リンちゃん世界一かわいいよ!

Mike:スーパーチャット50000円:リンちゃん待ってた! あ、Alenから日本語キーボードもらったよ! これで、リンちゃんも読みやすくなると思う!


 どうしよう、挨拶しただけで十一万円も稼いじゃった……。


 僕とママのコラボは、ママにも結構得があると思う。僕のファンが来てくれるのだ。特に海外の視聴者さんたちはお金持ちで、いっぱいスーパーチャットをくれる。AlenさんとMikeさんは、チャットする度に一万円だ。


「Alen君、Mike君! あんまり一気にスーパーチャット投げると、リン君が萎縮しちゃうからね! もうちょっと手加減してあげて!」


 それは本当に、悪いことをした我が子を諌めるかのような言い方だった。


Alen2:スーパーチャット1000円:ごめんよママ……。リンちゃんと喋れるのが嬉しくて、僕ら舞い上がっちゃうんだ。

Mike2:スーパーチャット1000円:ごめんママ……。リンちゃんもごめんね!


 でも、やっぱり千円は絶対に投げてくるみたいだ。


「分かればよろしい! 二人には上限を設けます! 挨拶が10000円以内、他は1000円以内! 分かりましたか!?」


 厳しいのに、聞いてて嬉しくなるような言い方だ。僕のことを考えてというのもあるけれど、多分AlenさんやMikeさんのことも考えていっているのだろう。


Alen2:スーパーチャット1000円:ママに言われちゃ、そうするしかないね!

Mike2:スーパーチャット1000円:でも、多少投げても許してくれるんだから、ママ本当に最高!


 二人はどうやらもうダメみたいだ。完全に秋葉家の一員として取り込まれてしまった。


「ねぇ、リン君。今日は、告知があるんだよね?」


 ママの枠の視聴者さんで僕の枠に来てくれない人は少ない。それに、僕の視聴者さんもだいたい来てくれてる雰囲気だ。


 ふと、唐突だけど、忘れないうちに告知はしておいたほうがいい。


「あ、はい! 僕とママは明日僕のモデル撮影で放送ができないかもしれません!」


 モデルの撮影は初めてで、多分NGもだす。だから、多分撮影は長引くと思う。開始が午後1時だから、下手をすると夜までかかってしまう。だから、今日のうちに告知することにしたのだ。


里奈@ギャル:まって! モデル!?

デデデ:【朗報】リン君リアル美少女

銀:弟が美少女とか、それなんてエロゲ?

メシマズ:モデルって、あのモデル?


 大体はそんな反応だ。説明が不足したみたいだ。


「はい、僕、clockchildっていう子供服のブランドの専属モデルとしてデビューします! キッズMonMoにも写真が載るので、よかったら買ってください!」


 キッズMonMoはMonMoというファッション誌の子供向け版だ。子供向け雑誌のモデルが27歳のおじさんだってバレたらどうしよう。


里奈@ギャル:絶対買う! ダースで買う!

銀:三冊買おう!

デデデ:同じく

メシマズ:同じく

Mike2:スーパーチャット1000円:Alen、梱包材を送る。あとはわかるな?

Alen2:スーパーチャット1000円:わかってるぞ兄弟。俺がダースで買って、お前に六冊送る。用途も知ってるさ。布教用四冊、保存用と、観賞用だろ?


 チャットはすごい勢いで流れた。初めて知ったのだけど、Mikeさんは日本在住じゃないみたいだ。


「あれ? でも、Mikeさんって日本円でスーパーチャットくれますよね?」


 僕はそれが疑問だった。


Mike2:スーパーチャット1000円:君を知ったその日に、日本円を手に入れたのさ。君にスパチャするためにね!


「え!? あ、ごめんなさい!」


 僕は何を謝っているんだろう……。


「リン君、ここはありがとうだよ!」


 そうだ、僕は謝るんじゃなくて、お礼を言うべきなんだ。


「ありがとうございます!」


 言っている途中に、満さんから耳打ちをされた。だから、僕は言われるがまま言葉を繋ぐ。


「Mikeお兄ちゃん!」


 恥ずかしい。すごく、恥ずかしい。脳みそが沸騰しそうだ。


Mike2:スーパーチャット1000円:天使の福音が聞こえたんだけど、俺ってまだ生きてる?

銀:リン君が殺しに行ったぞ!

デデデ:ふぅ、俺じゃなくてよかった。俺だったら萌え死んでた。

里奈@ギャル:性転換して改名してくる!

Alen2:スーパーチャット1000円:安心しろ、魂は現世にある。死んでるかもしれないけどな……。つまり、リンちゃんの放送は聞ける。


「違うんです! ママが言えって……」


 僕一人の放送だったら間違いなく言わない言葉だった。


「ママのせいにするなんてひどーい!」


 ママはニヤニヤしながら思ってもないことを言う。


 今日の放送も大成功だった。というより、失敗しても成功になる土壌ができてしまっているのだ。僕は、失敗なんてしようがない。

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