第26話・打ち合わせ
その後、僕と満さんは、百円ショップに行ってスケッチブックを買った。行きがけの道では、僕は喋れなくて、スケッチブックを買ってから筆談ができるようになった。ついでということで、電気屋さんにも寄ってヘッドセットを買ってもらってしまった。早く自分のお金でできるようになりたい……。
外で喋れないのは不便だ。だけど、出発前にチャンネル登録者数を見たら、また500人増えていた。対策は必要だなって僕も思う。だって、僕はVTuberをやってる時も地声だから。
家に帰ると今度は、立花さんと夏マケの話を詰める必要があった。
少しして、チャンネルに立花さんがRyuさんの名前入ってくる。
『よぉリン! まず、てめぇの初ライブさいっこぉだったぜ! どうだ? 疲れっちまったりしてねぇか?』
相変わらずだ。乱暴な言葉使いなのに、すごく僕を気遣ってくれる。不良っぽいのに、根がすごくいい人だ。
「ありがとうございます! 大丈夫ですよ! それで、夏マケの話なのですが……」
『おう、それなんだが……。わりぃ、定にぃにバレっちまった。定にぃも、一枚噛ませろって言ってやがる』
「えっと……定にぃって?」
それから、僕はその定にぃなる人物について知る事になる。
定にぃ……
それで、その定国さんは、日本の海賊風の名前をしておりながらアイリッシュやケルトの海賊風の歌を作る人だ。定国さんは僕のことを秋葉海賊団の歌姫にしたいらしい。
その、秋葉海賊団だけど、定国さんのファンや、作曲に協力してくれた人のことらしい。
『ちなみに、定にぃがVTuberになったのは、海賊風の外見が欲しかったからだそうだ。と、定にぃに関してはそんなところか?』
「うん、多分そんなところだと思う。定君は女性ボーカルの歌は作らないと思ってたんだけどなぁ」
僕が知っているVTuberは、みっちーママだけだ。Ryuさんに関しても名前しか知らなかった。だからこれからは、秋葉家ことくらいは把握したいと思った。
僕を入れて全部で十一人。そんなに、覚えられるか不安だ。
「でも、秋葉家って作曲家さんが多いんですね?」
僕が言うと、満さんは一瞬考えて手を叩いた。
「秋葉家の作曲家は定君とRyu君、あとリン君だけだよ! 凛くんが歌上手だから、作曲家がほっとかないだけ」
いつの間にか、秋葉家の作曲家に僕も含められてしまっている。僕なんて、まだたいしたことないのに。
『でも、多才な奴が多いよな? 医者弁護士に、野生の人間……実況やってる奴なんて一人だけだ』
「実況?」
僕はVTuberの常識に余りにも疎いみたいだ。
『VTuberってやつは大抵ゲーム実況とか、雑談枠とかがメインだ。秋葉家みたいに、別の芸ばっか売ってるのは異色だな!』
後から知ったけど、本当に秋葉家のVTuberは異色なのだ。秋葉家のVTuberはヲタクとかけ離れた芸に秀でる人が多い。ただ、容姿にコンプレックスがあったり、現実の自分とは違う容姿が欲しかったりするからVTuberになってるだけ。そんな集団である。
僕もそうかもしれない。僕は年齢とかけ離れた容姿に足を引っ張られてVTuberになった。でも、それがなかったら……僕が女性として生まれていて、もう少し大人の見た目をしていたら……。多分、僕は歌手や調律師の道に進んでいた気がする。
だから、もしかしたら僕は秋葉家にふさわしいのかもしれない。
「それより、夏マケ! Ryu君は来ないでしょ? 顔出ししてないもんね?」
そういえば、今は夏マケについてだ。話がすっかり脱線しちゃった。でも、こうやって満さんが軌道修正してくれるのはありがたい。
『あーそうだな。俺は行けねぇ。ほら、俺リアルだと根暗だから……。というわけで、売り子は外注とリンに頼みてぇんだ。いいか?』
「ママも行っていい?」
『そりゃ、構わねぇし。おふくろが来るなら百人力だ。リンのこと頼むな!』
話は一気にまとまっていく。コミケ初参加の話は、手を伸ばせば掴めてしまいそうなところまで来ていた。
「売り子、頑張ります!」
でも、僕は失念している。秋葉リンとしての僕は、男の娘。つまり、秋葉リンとして売り子をするということは、女装をするということだ。
それに、夏マケに出るときには僕はモデルとして活動している時期だ。雑誌に僕の写真が載っている。
更には、秋葉リンのコスプレをするコスプレイヤーだって出る可能性があるし、秋葉リンの同人誌だってありえないとは言えない。とにかく、バズりがすごい。
『リンは看板娘だ。ブースにいるだけでもいい。それに、メインは歌だからな! お前の魅力、存分に引き出す歌を俺と定にぃで作ってやるぜ!』
こうして、夏マケの打ち合わせが終わる。
次は放送だ。今日は絶対やらなくてはいけない。なにせ、明日は放送ができるかわからないから。
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