第25話・Ryuの誘い
大好きだなんて、面と向かって言ってしまったせいで、夜と朝が地獄だった。恥ずかしいのに、ベッドはひとつしかない。ソファーで寝ようとすると、すごく強く反発されしまったのだ。
そうして、朝……。
僕も、満さんも、朝は夜の間にあった出来事のチェックから始まる。VTuberという仕事は、情報も立派な武器だ。僕はパソコン、満さんはスマートフォンで確認する。
僕もちょっとだけ、スマートフォンは欲しい。でも、それは収入が安定してから考えよう。
パソコンを立ち上げると同時に、ツブヤイッターでファンの人たちに向けておはようとつぶやく。すると、その時ダイレクトメールの通知に気づいた。
ツブヤイッターには、僕の知らないうちに追加された、通知のホワイトリスト設定がある。今のところホワイトリストはRyuさんだけだ。
つまり、そのダイレクトメールはRyuさんからだった。
『よぉリン! モノは相談なんだがな、夏マケで組まねぇか? 音楽サークルをやりてぇんだ。ちなみに、COSMOSの伴奏データを送ってきやがった奴は全員誘ってる。まぁ、リンさえいれば天下は約束されてるがな』
それが、ダイレクトメールの内容だった。夏マケというのは、年に二回東京トライアングルサイトで行われる、マンガマーケットという同人即売会のことだ。いつか行ってみたいなって思ってたけど、サークル参加のお誘いが来るなんて予想外だ。
今は四月中旬、夏マケは八月中旬だ。ちょうど四ヶ月ある。頑張れば四曲くらいは仕上げられると思う。MalumDivaも含めて五曲。それなら、一つのアルバムとして及第点だと思う。
「あの、ママ……」
僕は、そのダイレクトメールを早速満さんに見せた。
「なになに?」
満さんは、興味津々でパソコンの画面を覗き込む。
「僕、夏マケに出たいです!」
そう宣言して、ダイレクトメールを読む満さんを不安いっぱいで待った。
「売り子は……外注かなぁ? ママも応募していい?」
言外だけど、出ていいって言っていることは僕にだってわかる。
「え!? 一緒に来てくれるんですか!?」
それより、満さんが一緒だということが嬉しかった。
「もちろん! ママは凛くんが活躍するところを一番近くで見たいの!」
気恥ずかしい。それじゃあまるで、夏マケのサークル参加が成功するって言っているみたいだ。
いや、多分成功するんだと思う。満さんが成功するって言った時に、失敗したことなんて一度もない。
「えへへ……ありがとうございます。ところで、売り子さんは外注なんですか?」
「うん、立花ちゃんってちょっと人付き合いが苦手だからね……」
リアルで会った時、確かにそんな感じがした。立花さんとRyuさんは正反対だと思う。
「そうですね……となると、夏マケ本番は立花さんは来ないですよね……」
「うん。立花ちゃんって胸がおっきいでしょ? あれがコンプレックスなんだって」
立花さんの胸の大きさは、ちょっとありえないレベルだ。男性っていうのは、胸が好きだと一般的に言われている。きっと、それもあって大変な思いをしたんじゃないだろうか……。
「なんで、胸が好きなんだろう……?」
「え?」
ふと呟いた声が、漏れてしまっていることに気がつかず、僕は慌てて誤魔化した。
「あ! いえ! 何でもないです!」
それから、僕はついでにダイレクトメールの整理も行った。ほとんどのダイレクトメールは、音楽系の企業から来ている。つまり、いつものやつだ。
だけど、ファンからのものもあった。送信元はデデデさん。内容はこうだ。
『リン君へ。満月が切り抜かれた動画と、耳コピやカバー動画がたくさんあるので、まとめました。https://www.utube.com/playlist?list=manngetulist』
満月はもうどうでもいいんだ。満さんへの歌だから、もう役割を終えている。僕は、満さんが望めば歌うけど、ほかの人のために歌うつもりはない。だから、切り抜は権利者削除とかはせずに放置しようと思う。
それから、耳コピは大体が多重録音だった。お塩さんが難しいって言ってたし、ギターソロでやることじゃなかったみたいだ。
「そろそろ時間だね! ご飯にしよ!」
このニュースのチェックは時間を決めてやっている。僕と満さんが起きるのが、午前7時、朝食は午前8時から。そうじゃないと、いくらでも時間を取られちゃうから。
「はい!」
朝食は、エッグベネディクトっていう料理だった。作れることがビックリな料理で、それととても美味しかった。
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