第17話・ディーヴァ
MalumDiva、それが僕のテーマソングになる歌のタイトルだった。歌としての難易度は、夜の女王アリアより上とのことだ。なぜなら、最高音は夜の女王アリアより一音高く、その部分に歌詞が入っている。だた、全体としてはテンポが遅く落ち着いた感じの雰囲気になっている。
だけど、その歌が出来上がった頃には、もうその日の練習の時間はなくなっていた。そもそも、一夜漬けでの練習なんて無理だと思う。全部ラテン語で、発音が難しい。Ryuさんが1オクターブ下で歌ってくれているけど、それでもこの歌はすごく大変そうだ。
だから、夕飯をとって、満さんと一緒に放送を始めた。
「こんばんわー! みんな今日もお疲れ様! みんなえらいえらい」
この瞬間から満さんはみっちーママで、僕は秋葉リンだ。
「お兄さん、お姉さん、今日もお疲れ様! いっぱい頑張ってるの、僕は知ってるからね?」
このセリフだけ、夕飯を作りながら何回も練習した。だから、スラスラということができた。だけど、ここからは全部アドリブだ。だからすごく緊張する。
画面に目を向けると、みっちーママとリンが動いている。ママは3Dで僕は2Dだからほんの少しだけ違和感がある。だけど、今日すでに動いているのはすごいことだ。
コメントも一気に流れ出した。
里奈@ギャル:一番乗りいいいい! てか、エモっ、リン君にお姉さんって呼ばれるのエモっ!
銀:里奈氏落ち着け……だが、お兄さんか……明日も頑張れそうな気がする……
Ryu:よぅ、邪魔するぜ!
デデデ:邪魔するならかえってやぁ
ダン・ガン:私は……兄になりました!
メシマズ:俺の弟だからな!
剣崎:バカ言え、俺の弟だ!
Ryu:ほな……って、アホか!? まぁ、少しの間俺は本当にいないけどな……
初bread:リン君、ええ声しとるのぉ……
チャイが好きィ!:バンドやろうぜ! お前ボーカルな!
バッバ:俺、ヴァイオリンな!
ベト弁:待ってくれよ、俺アルモニカ作るから!
びっくりした、Ryuさんのライブの視聴者さんたちまで、今日は見に来てくれたのだ。これは、僕の効果と思ってもいいのだろうか……。
「Ryu君は何するんだろ……」
何気なく言ったママの一言に、Ryuさんの視聴者勢が一気に返事した。
ベト弁:伴奏データ送った
初bread::伴奏データ送った
チャイが好きィ!:伴奏データ送った
バッバ:伴奏データ送った
全部、秒数まで一緒だった。
「あ、えと、COSMOSですか?」
状況を考えると、僕にはそれしか考えつかない。だけど、そう思うのはちょっと自意識過剰な気もした。
だけど、一斉に全員が肯定の返事をしてくれた。
「なるほど、てことはMIX作業だねー」
そう言いながら、ママはモデリングソフトを起動して、ポリゴンを打ち始めている。必要ないかもしれないけど、コメント返信はできるだけ僕が代わろう。
里奈@ギャル:KWSK!
銀:コスモスってなんぞ!?
初bread:Ryu氏帰ってくるまで内緒!
それからは、コメント同士のやりとりになった。みっちーママファンが詳細を求めて、Ryuファンが黙秘するといった感じだ。だけど、コメントの雰囲気は全く悪くならなかった。Ryuさんのファンはとてもお行儀がいいし、ママファンはママにかなり影響されてておっとりしている。
しばらくして、ママの通話アプリに通知が飛んできた。
「お、来た……」
一瞬、ママじゃなくて満さんの声に戻っていた。過去、結構こういうことがあったし、ファンはいまさら気にしない。
Ryu:ほとんど合わせるしかやることがねぇ……
チャイが好きィ!:まぁ、元がいいからなぁ……
バッバ:僕たちの音源もなかなかだったろ?
初bread:ま、一応ピアニストですしぃ……
そんなコメントが流れる傍ら、ママはその音源をダウンロードして容赦なく流す。ほぼ、ノータイムでだ。しかも、マイクも切った。
伴奏がついている、それもピアノやヴァイオリンもついたフルオーケストラでだ。さらに、コーラスも少し聞こえる。これはRyuさんの声だった。
僕のCOSMOSが流れている間、コメントはまた止まっていた。
それが終わって、またコメントが流れ出す。
Ryu:いい仕事したぜ……
里奈@ギャル:え? 涙腺崩壊してるんだけど……
銀:里奈氏、僕もだ
剣崎:俺も
コメントはみんな涙腺の崩壊を報告してくるものだった。それが一通り流れ終わったあとで、爆弾が飛び交った。
初bread:どうもパンです。今回伴奏を担当させてもらいました
バッバ:バイオリンを担当させてもらいました。セバスちゃんです!
チャイが好きィ!:バンドやろうぜ! あ、インドのお茶です、コントラバスやりました(`・ω・´)
ベト弁:なことだろうと思って俺はチェロとヴィオラ送っといたぜ! あ、自分、モニカって名前の方が通りがいいかな?
すると、コメントが一気に沸き立つ。全員、その道のプロとして名を売っている人たちだったのだ。特に有名なのがパンさんで、彼に関しては僕も知っている。『真っ黒譜面を何とかして弾いてみたい!』という動画シリーズを投稿している人だ。
「え!? 待ってください! 僕なんかに、そんな……もったいないですよ!」
だって、僕の歌なんて大したことはない。どこにでもいる、平凡な歌だ。
Ryuファンズ:リビドーが抑えられなかったんだから文句を言うな!
僕が言うと、Ryuさんのライブから来た人全員に総ツッコミを食らってしまう。
「うん、リン君の歌、正直プロ並だと思うよ! ちなみに、ソプラノ以外は歌える?」
「えっと、アルトならギリギリ……。でも、それより下の音域は歌えないです」
そう、僕はほとんどソプラノだけだ。だって、僕の声帯からは低い声がほとんどでないのだから。
こうして、僕は歌えるVTuberとして認知されていく。当然、J-POPを歌ってほしいというリクエストもあったけど、僕にはわからなくて断らざるを得なかった。
J-POPを歌うのは、MalumDivaを仕上げてからだ。せっかく作ってくれた歌だから、僕は完璧に歌いたい。
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