第11話・ママ
子供を作るにはもっとすごいことが必要とわかって、僕はほんの少しだけ安心して満さんと一緒に寝ることができるようになった。でも、やっぱりちょっとだけ恥ずかしい。
次の日、僕がVTuberとしてデビューする練習が始まった。
「お、おはようございます……」
目が覚めて、あまりに近い満さんとの距離に、僕はどうしたって頭が沸騰してしまう。
「凛くん、秋葉家のVTuberなんだから、ほら!」
満さんは僕の次の発言に期待しているみたいだ。
満さんが僕に何を言わせたいのかはわかっている。だけど、恥ずかしくて咄嗟には出てこなかっただけだ。
「うぅ……お、おはよう……ママ……」
秋葉家では、みっちーママに対して敬語を使うことは禁止。それに、ちゃんとママと呼ばなくてはいけない。
ママだなんて、実の母親相手にすら言ってたのは、もう随分昔だ。実年齢と外見年齢が相応だった頃以来だ。
「んー! 不慣れなのもすっごい可愛い!」
そう言いながら、満さんは僕を抱きしめた。女の人に抱きしめられるのは、エッチなことだって思ってた。だけど、それも僕の勘違いみたいだからなれなきゃいけない。
だけど、やっぱりすごく恥ずかしい。だって、女の人の体は柔らかいし、いい匂いがする。
「み、ママ……恥ずかしい……」
多分、満さんなんて呼んだら絶対やめてくれない。それが分かっているから、僕は言葉を一回引っ込めて、ちゃんと呼びなおした。
「ごめん、凛くん。それ、めちゃくちゃ可愛い……」
満さんは真顔だった。
満さんの性格は、普段からみっちーママとあまり変わらない。違うのは、声の出し方だけ。みっちーママの方が半音くらい低い声を出しているという感じだ。だから、普段の満さんはママというよりお姉さんみたいな感じだ。
「ママ、僕、もう恥ずかしいよ……」
もう、頭が沸騰してしまいそうだ。だって、こんなふうに甘えるのは、それこそ小学校までの子供だ。
まぁ、僕の外見はその小学校までの子供のものだけど……。
「ごめんね。でも、凛くんが可愛すぎるのがいけないんだよ」
もう、朝から可愛いの嵐だった。確かに、客観的に見てみると僕の容姿は恵まれているかもしれない。だけど、こんなふうに言われたのは初めてだ。
「うぅ……」
だから僕は、恥ずかしくなりすぎて、布団で顔を覆った。
「え……可愛い……」
それは、逆効果で、むしろ満さんを興奮させてしまった。
それから、三十分くらい僕は満さんに抱きしめられっぱなしだった。こんなのが毎日だと、身が持たない気がする。
ようやく落ち着いたところで、今は朝食を食べている。今日の朝食は、満さんと一緒に作った卵サンドだ。
「美味しい……」
やっぱり満さんは料理上手だ。お嫁さんとして、これ以上ないほど素敵な女性な気がする。
「ふふふ、ありがとう」
満さんは僕に包丁を握らせてはくれない。ちょっとだけ、子供扱いな気もする。
「さて、今日なんだけど、凛くんのお洋服を買いに行きます」
洋服を買うには、それなりにお金がかかる。一着数千円は覚悟しないといけない。
「えっと、でも僕、まだお金稼げてません……」
だから、買ってもらうことになってしまうし、それは悪い気がする。
「それは気にしないで? 代わりに、私の趣味で凛くんの服選ぶから」
それでも、買ってもらうのは僕の服だ。僕と満さんでは、服を共有できない。僕の服は完全に子供服のサイズだし、満さんは女性にしては少し背が高めだ。
「でも……これ以上お金をたくさん使わせてしまうのは……」
「秋葉家家訓その一!」
僕の言葉を遮って、満さんは少し大きな声で言った。
秋葉家家訓その一は、『ママには甘えること、遠慮は許されない』である。これは、みっちーママ視聴者の掟だ。
だから、僕は満さんには甘えなくてはいけないのだ。
「わかりました……」
だから、僕は何も言えなかった。
「正直ね、凛くんはアイドルクラスに可愛いんだよ! そんな子に、自分の趣味で服を着せられるなんて得しかない!」
「そこまで……ですか?」
さすがにアイドルは言い過ぎだと思う。だけど、このあとそれは実証されてしまうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます