第6話・さよなら世界

 配信が終わったのは夜11時だ。それは、いつもみっちーママが配信を終える時間より少し遅かった。


「満さんって、みっちーママだったんですね?」

「うん、そうだよ!」


 本当に都合のいい夢だと思う。人生最後の夢が、幸せなもので本当に良かった。


「僕、ずっとファンでした!」


 だってそうだ、あんなに優しい人が、こんなに綺麗だなんて、余りにも出来すぎている。ありえない。


「ありがと! でも、こんなに可愛い子がファンだなんて嬉しいなぁ」


 そんなことを言われて、顔がカッと熱くなるのを感じた。


「そ、そんなこと……」


 でも、一応顔は整っていると言われる。もちろん、僕の年齢や性別に似合ったものじゃないけど。


「照れないの! それより、今日は遅くなっちゃったから、お風呂は朝にしよっか」


 だけど、僕はまだ眠りたくなかった。この幸せな夢から覚めてしまうのが怖かった。


「あの、僕、先にお風呂がいいです」


 夢の中だけど、それはさすがに欲張り過ぎかなと思った。

 だけど、満さんは少しだけ考えてから言う。


「ばんざーい!」


 きっと、僕にそれをやってほしいのだ。

 僕は、満さんの言うとおり手を挙げた。

 すると、満さんがいきなり服を脱がす。


「ふむふむ……アザはない……身体的暴力はなしね?」

「な!? なんで、こんなえっちなことするんですか!?」


 女の人が、男である僕の服を脱がすだなんてエッチすぎる。

 僕は恥ずかしくって、胸を隠してうずくまった。


「あ、ごめんね。体にアザがあるかはちゃんと確認しなきゃだから。でも、このくらいエッチじゃないよ? 男の子の水着って上半身裸じゃん?」


 小学校の頃、そういえばそんな水着だった気がする。今思えば、なんであの時は恥ずかしくなかったんだろう。

 中学に入ってからは、水泳の授業がなかったおかげで、恥ずかしい思いをせずに済んだ。なんでみんな、を平然とできるのか僕にはわからない。


「服……返してくれませんか?」


 恥ずかしくてたまらなくて、僕はそう言った。


「うん、ごめんすぐ着せてあげるから」


 そう言って、満さんは僕に服を着せてくれた。


「ごめんね、そんなにエッチなことだって私わからなくて」


 満さんはそう言いながら、困ったように笑っていた。

 ほかにもブツブツとつぶやいていたことがある。


「どういうことかな……」

 とか……。

「子供の作り方わかってるのかな……」

 とかだ。


 僕だって、子供のつくり方は知っている。大人になった男女が一緒に寝ていると、子供を授かるのだ。

 学校で教わったことは大間違いだ。僕の……その……アレが、おっきくなることなんてなかったんだから。


 それから、僕はお風呂に入った。ついでに、その後には満さんが入る。一緒に入ろうって言われたけど、そんなエッチなことはできない。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その後、僕には試練が訪れた。


「ごめんね、うち、ベッドが一つしかないんだ」

「僕、ソファーで寝ます! ソファー貸してください!」


 僕の体格なら、ソファーでも立派なベッドだ。こんな時、小さなこの体が便利だなと思った。


「だめ、私と寝るの!」

「子供が……」

「拒否権はないんだよ! ここは私の家、私がルールなんだから!」


 言葉を遮られてしまって、僕は諦めた。だってここは夢の中だ。だったら、夢の中くらい子持ちになってもいいじゃないか。


「おねんねしようねー」


 そう言いながら、満さんは僕をベッドに連れて行く。

 なんて、エッチなんだろう。僕は恥ずかしくて何も言えない。

 ベッドに入ると、満さんは僕を抱きしめた。


「あう……」


 心臓が、破れてしまいそうなくらいドクドク言っている。

 満さんの暖かさが伝わってきて、今にも何もかもが壊れちゃいそうだ。


「凛くん、ミルクみたいな匂いするー」


 跳ねるような、歌うような、上機嫌な語尾に僕は受け入れられているんだと感じた。

 まさか、ここまで幸せな夢が見られるだなんて思ってもみなかった。僕の初めての人がみっちーママの中の人で、こんなに美人だなんて。

 こんなの、僕の妄想としか考えられない。


「凛くん……」


 急に名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。


「ひゃい!?」


 咄嗟に返事しようとして、変な声が出た。


「ふふふ、緊張してる?」


 当たり前だ。だって、こんなエッチなこと体験するのは初めてだ。だから、すごく緊張している。


「はい」


 吐息が熱い、顔が熱い、もうおかしくなっちゃいそうだ。


「そっか……。ねぇ、子供がどこからくるのか、知ってる?」


 それに関しては、学校で教わったことが正しいのだと僕は思っている。だけど、学校は嘘をつくから信用できない。


「はい。女の人の、おなかの中です」


 僕が言うと、満さんは考え込んだ。


「知らないわけじゃないんだね。学校で教わったの?」

「はい……」


 それを教わったのは、確か中学の時だ。女性の体の構造や、男性の体の構造を教わった。性教育というものだ。だけど、間違ってたことも沢山あったと思う。


「そっか、じゃあ学校はちゃんと行かせてもらえたんだね?」

「はい……」


 正直、あの頃は、家にいるより学校にいるほうが良かった。友達もいなかったけど、罵声を浴びせられることはなかったから。それに、先生には可愛がってもらったりもした。だから、勉強は楽しかった。


「そっか、良かった……」


 その言葉を最後に、満さんは眠りに落ちてしまう。

 僕は、しばらくは眠れなかったけど、そのうち気絶するように眠ってしまった。


 さよなら……世界……。

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