第二章 D級編
第21話 まるで一週間ばかり全てを忘れてだらけてたみたいな気分だ
ちゅん。ちゅんちゅん。
小鳥達の囀りで目を醒ます。
「……んん。よく寝たな…」
全身が鉛になったような重さを感じながら、布団の中で伸びを一回。
やたらと深い眠りに入っていたようで、何か夢を見ていたような気もするが、まるで思い出せない。
安普請の天井を見上げながら、記憶を手繰り寄せる。
そうだ、昨日はD級昇格試験を受けて、無事合格したんだった。
合格の申請からD級冒険者ライセンスの発行までは何日かかかるが、ともあれこれで俺も今日からD級冒険者の仲間入りだ。
「D級……D級か、俺が。へへへ……」
D級くらいで大喜びするのも大袈裟、というか経験年数を加味すると遅すぎるくらいではあるんだが、どうあれ停滞していた状況から一歩前に進めたのが素直に嬉しいよね。
これからは
出現する魔物は多少手強くなるだろうが、回収できる魔石の質・量がグッと上がるんで、収入もだいぶ変わってくるだろう。
D級ともなると単純な戦闘力だけで冒険するのも難しいって言うけどね。
それでも今の俺の戦闘力はかなりバッファがあるから一般的なD級冒険者よりは有利な立場にあるだろう。
何しろあのオーガ・レンジャーの打倒に成功したんだ。だから、そのへんで苦労することは少なくなるんじゃないかな?D級の間は、だけど。
ああ、しかも。仲間ができたんだったな。
回復術師のシズク。”幸運”という極めて有用なスキルを持つ、白い獣人の少女。
肉体的なハンデキャップを抱えていたが、それも俺の”ミッション・コンソール”で克服したから死角もない。
過酷な試練を共に乗り越えた、心を繋いだ大事な仲間だ。
大切にしなくちゃな。
「……あぁー。寝ぼけてんな。」
寝起きってそういうとこあるけど、今の自分の状況思い出すのに手こずる時あるよね。
まるで一週間ばかり全てを忘れてだらけてたみたいな気分だ。
スン。オンボロアパート特有の据えた匂いが鼻を刺す。
まとまった金があれば、引っ越しを考えてもいいかもしれないな。
まあ、直近で稼いだ金の大半は出身の孤児院へ送る洗濯機の購入費用として試験前にギルド経由で振込済なんで、今すぐって訳には行かないが。
「さて、”ミッション・コンソール”起動っと」
布団から出ることもせずに、俺はユニークスキルを起動する。
その日一日のミッションを確認する毎朝のルーチン動作だ。
なんなら寝っ転がったままコンソールを無駄に15分くらい眺め続ける不毛動作に入ってしまうこともあるが。
「……ん?なんか微妙に見た目が変わってるな?」
昨日までとちょっと違う”ミッション・コンソール”が出現していた。
まず、今日の日付と現在時刻、そしてこの太陽のマークは……今日の天気か?
地味に便利な情報が常に見えるようになっている。
これはありがたいが、どういうことだ?
しかも、下の方にまた別のアイコンが出現している。
ええと、電卓、メモ帳、録音、カレンダー、リマインダー、カメラ、写真?
なんだか色々な機能が追加されているのかな。
「なんで急に変わったんだろ。
まさか、この能力をくれた誰かが、D級昇格を記念して追加してくれた……みたいな?
なんつってな」
訳がわからないが、まあそれより何よりミッションだ。
今日のデイリーミッションを立ち上げる。
【デイリーミッション】
(鍛錬)
・インクライン・プッシュアップをしよう (0/20回)
・ホリゾンダル・プルアップをしよう (0/20回)
・ジャックナイフ・スクワットをしよう(0/20回)
・フラット・レッグレイズをしよう(0/20回)
・ロープ・スキッピング(3分間)をしよう (0/3セット)
・倒立をしよう (0/1分)
・ブリッジをしよう (0/1分)
(回復)
・瞑想をしよう (0/30分)
・睡眠を取ろう(8/9時間)
(栄養)
・タンパク質を摂取しよう (0/120g)
・野菜を摂取しよう (0/300g)
若干内容が変わっているな。
動画を見ると、鍛錬系の種目は、今まで壁に向かって垂直にやっていた腕立てや懸垂を、腰ぐらいの高さの台に手をついて斜め方向にやる内容に変更されていた。
逆に
どれも、自重全部を負荷にするよりは簡便的だが、今までよりはハードなモノになってるな。
少しばかり俺の体力も上がったってことで、レベルが上げられてしまったかな?
まあ、肉体増強のためには目標も上げていかなきゃならんから、仕方ないっちゃ仕方ないか。
タンパク質の要求量も随分上がっている。
元々、本来は肉体強化のためにはこのくらい必要だったんだろう。体重掛ける2g必要って話も聞いたことあるし。
だがまあ、初日からそれを要求されても対応できなかっただろうから、段階踏んで習慣化させに来てんのかな。
「やりがいが出来てきたな……とりあえずやるしかないか」
寝起きの尿意を鎮めるべく共用トイレに行き、手を洗って部屋に戻る。
早速鍛錬を開始しようかと思ったが。
「……待って。運動を開始する前に水を飲んだ方がいい。
寝ている間には、思っている以上に体は水分を消費しているから」
「おお、助かるぜ。
ゴクゴク……ぷはぁ。サンキュー」
「……構わない。それと、プロテインパウダーも用意してみた。
通常の食事で栄養を確保するのが理想だけど、ミッションのために補助的に使用するのも選択肢として持っておくのもいいと思う」
「ああー。考えた方がいいかもな。あんまそういうの好きじゃないけど、使えるものは使っていかないとな」
そう言って鍛錬を開始する。
はぁ、はぁ。やっぱり前よりは負荷がきついな。
横で相棒が見様見真似でミッションに取り組んでいるが、なかなかに苦戦している。
ともあれどうにか日課をこなし、汗だくになった相棒のためにタオルを取り出そうと箪笥に手をかけたところで、
「——ってなんでシズクが俺の部屋にいるんだよっ!!!」
あまりにも今更なツッコミを俺は叫んだ。
——
【作者より】
大変お待たせしました。まずはジャブ的な。
なるたけ高頻度で更新してストーリーを進めていきますので、応援の程よろしくお願いします。
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