モブ底辺と呼ばれた最弱冒険者、「やり直し」の試練で爆速成長中 〜俺だけのデイリーミッションボーナスで256倍速で最強へと駆け上がれ〜

ジュテーム小村

第一章 E級編

第1話 100年に1人の才能のなさとまで言われた。

「面白い。貴様に機会を与えよう」



 俺の鼻先に水晶の剣を突きつけつつ。

 そう告げるのは、魔性の美しさをきらめかせる美少女だった。



 戦少女ヴァルキュリア

 眼前にそびえ立つ、半神半人の” 死”の化身。



「機会……だって?」


「ああ、試練と言い換えてもいい」



 ここはダンジョンの一室か。

 床には、4人の男女が血溜まりに沈んでいる。

 この眼前の死神に、なす術もなく斃された、かけがえのない仲間達。



「貴様は先ほど悔しい・・・と言ったな?

 斃れゆく仲間たちを見て、恐怖でも、怒りでも、悲しみでも、絶望でもなく、と。

 おかしな話ではないか。貴様ら如きの脆弱な生き物が、どう足掻いても勝てない相手に、一体何を悔しがるというのか。

 言ってみろ。貴様は何が、悔しかったのか」



 いつでも殺せる標的をなぶるように。

 戦少女は俺に問いかける。



「——悔しいのは、俺の、今までの人生の生き方だよ!」



 やぶれかぶれか、やけっぱちか。

 俺は気付けば、自分を殺そうという相手に向かって、思いの丈をぶつけていた。


 ああ、俺は。

 負けるのが悔しいんでも、殺されるのが悔しいんでもない。



「ああ、そうさ。

 これまでの人生、いくらでも時間があったっていうのに……。

 毎日毎日、ただ時の流れに流されて!計画も目的も持つことなく!

 大した努力もせずに漂うように生きてきた、自分の人生そのものが悔しいんだ!


 もしも、何か目標を持てていたら!

 そこに向かって一日一日を懸命に生きてこれたなら!


 ——運命お前に勝てないまでも、何かを守れたかもしれない!何かを残せたかもしれない!

 もしそうでなくても——悔いだけは残さずに済んだかもしれない!俺はそれを、その可能性を、自分の手で捨てちまったんだ!

 俺は——俺は、それが悔しいんだよ!」


「ククク——ハハハハハ!

 そうか!やはりそうか!ああ、やはり人間は面白い!

 いいだろう!ならばお前を試してやろう!」 



 哄笑を上げる眼前の戦少女。


 突然俺の顔を——、まるで母親が赤子にするように優しく両手で包み。

 コツン、と額を合わせてくる。


 目の前の、透き通るように白い肌。

 額は陶器のように冷たいが、鼻にかかる静かな吐息が、じわりと温かい。

 お互いの睫毛まつげがこそばゆく触れ合い、俺は場違いにもドキリとする。





 再度そのセリフを言った戦少女が——


 瞬間、視界が眩いばかりの光で埋め尽くされる。



【本日、貴方の死因が確定しました。貴方は一年後に死ぬ事になります】

【しかし貴方は、運命に立ち向かう”試練”を与えられました】

【ユニークスキル、”ミッション・コンソール“が発動します】



。それが貴様に与えた猶予だ。

 その悔恨。それが本物の情念か、それともその場凌ぎの誤魔化しか。試してやろう。

 もしもそれが似非エセならば……。フフ、今度こそ本物のが貴様を待つだろう。

 超えてみせるか?避けられぬ死の定めを。

 なあ、私の可愛い英霊戦士エインヘリヤルよ」



 そんな言葉を聞きながら。

 俺の意識は闇に沈んでいった。


 ——



「……なんつー夢だ」



 安普請の一室。

 全身に倦怠感を得ながら、俺は布団から体を起こす。



 外から聞こえる、小鳥達の囀り。

 静かで暖かな春の朝。

 迷宮都市タチカワは今日も快晴だ。



 頭を振って夢心地の意識を覚醒させる。

 今日は西暦3806年の4月8日。

 ここは俺の安アパート。築87年のワンルーム。



「……てゆうか、どんな夢だっけ?」



 夢って大概そうだけど、起きた瞬間全部忘れるとこあるよね。

 なんか死ぬ系の夢だったような気がするけど。


 しかし、悪夢か。

 夢よりよっぽど悪夢みてえな現実を送っているのに、まだ悪夢を見る余裕があったんだな。



「……サポーターとして入った上級ダンジョンで、高レベルモンスターとの戦いに巻き込まれた、みたいなシチュエーションかね」



 ありそうな話でガックリくる。


 俺の職業は冒険者だが、副業で—半ばこっちが本業になっているが、他の冒険者のサポーターなんかもやってる。




 1000年前の世界同時ダンジョン発生事件で一度人類の文明は終わった。

 その後長い時間をかけて人類は新しい社会構造を作り上げたが、化学やら技術やらは失われたものが多く、現代では崩壊前の文明と中世以前の技術が混じり合ったような独特の世界観が形成されている……って孤児院の先生に教わった


 俺自身、この時代でしか生きたことがないから、1000年前のこととかわかんないけどね。


 いま普通にその辺にいる、エルフやドワーフ、獣人なんかもその際に一部の人類の遺伝子があれして産まれたっていうけど、ほんとかね?

 彼等が存在しなかった時代があるって信じられないけど。


 ていうか昔は「魔法」や「スキル」が存在しなかったって噂もあるけど、それは普通にデマだと思ってる。

 ないわけないじゃん。みんなどうやって生活してたんだってーの。



 で、俺のやってる「冒険者」って仕事。

 各地に存在するダンジョンに潜って、魔物を倒して魔石を取ってくるって仕事だ。

 収入にはピンキリあるが、高レベル連中はかなり羽振りが良い。

 12歳で孤児院を出てから7年。俺も成り上がろうと必死でやってきたが——。



「……やっぱ今のままじゃキツイよな。

 自分自身を強化しないと。それはわかっちゃいるんだ……でも」



 7年間。

 俺のレベルが上がることはなかった。


 レベルだけじゃない。スキルだって得られなかった。

 いくらモンスターを倒しても。鍛錬を積んでも。


 ギルドの職員に聞いても、こんな事例は過去ないそうだ。

 100年に1人の才能のなさとまで言われた。



 レベル1の稼ぎじゃ生活できない。

 身寄りのない俺を育ててくれた孤児院に、少ないながらも毎月仕送りをしているからなおさらだ。



 それで小遣い稼ぎに始めたのが、副業のサポーターだ。

 これは、他の冒険者の探索に同行して、道案内や荷物持ちをやってギャラを貰うアルバイトだ。


 これでもキャリアだけは長いからね。

 ダンジョンの浅い階層なら、効率的な立ち回りを助言できるってんで、新人を中心にある程度の需要があり、ギリギリ生活できる程度の収入を得ている。



 まあ、みんな数ヶ月もすると教えることも無くなって卒業されちゃうんだけどね。

 冒険者界の踏み台なんて陰でバカにされていることも知ってる。

 中堅にさしかかる冒険者達の間じゃ、「お前まだマサキの世話になってんのかよー笑」ってのが定番のいじりだからね……。



 見かねたギルド職員が、ギルド雇用の正式なトレーナーにならないかと誘ってくれたこともあった。

 薄給の契約社員扱いだが、多少は手当がつくし、業績次第では正職員雇用も狙える。簡単な事務仕事も担当すれば収入も社会保障も今よりはマシになるだろうってな。



 正直、グラつく提案だった。

 それでも俺は断ってしまった。

 冒険者としてサクセスする夢をあきらめられなかった。



 いや、それも所詮現実逃避かもしれない。

 何せ7年だ。特に決着がついている。

 俺はただ、諦めていないふりをして、このジリ貧の日々を無為に過ごしていたいだけなのではないか。




「……そろそろ潮時かな」



 例の死の夢。

 あれは啓示かもしれない。

 いつまでも終わった夢にしがみついていないで、大人になる時がきたのだと、俺に伝えるための。



「……ギルドの件。まだ生きてっかな。

 今更でカッコつかないけど、相談してみるか」



 自分の進路を考え直そうと思ったところで。

 夢の最後で、妙な声が頭に響いたことを思い出す。

 真面目に聞いてなかったから内容はよく覚えてないが。



「ユニークスキル、とか言ってたか?

 ええと、”ミッション・……コンソール”だっけ?」



 ポンっ!



 聴き慣れない効果音と共に、不思議な板が俺の目の前に現れた。

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