8把 いざ、大学へ

「服装も問題ないしバッチリだね!」

「なんだか緊張してきたよ。」

次の平日、彼女はいなりと大学へ向かっていた。

今日はいなりがこの大学へ特待生として入学できるかどうか決定する日なのだ。


「失礼します。」

「よく来たよく来た。特待生として迎えてほしいというのはそこの彼かね?」

2人は大学へ着くと学長に会うために、学長室へと訪れた。

彼はつる美と同じようにお辞儀をして部屋に入るも、落ち着かない様子である。

そして相手の言葉に彼女が頷けば、いなりは慌てて挨拶をした。


「よ、よろしくお願いします。」

「では、認定証を見せてもらおうか。」

「こちらです。」

いなりが持ってきた認定証を渡すと、学長はそれを確認して間違いないと頷く。

しかし、すぐ鼻で彼の臭いを確かめると怪訝そうな表情を見せたのだ。


「ん?…お主、けものの臭いがするな。」

「えっと…」

彼は急に言い当てられ、驚いて戸惑っているようだ。

そしてどうしたものかと考えるがいい案が思い浮かばない。

その間になんと学長はたぬきの姿に早変わりした。


「え!た、たぬきさん!?」

「ほっほっほっ、驚いたか?」

つる美は一瞬で变化へんげした様子に目を丸くすると、上から下まで改めて確認をした。

まさかいなりの他にも、人間へと化けることができる生き物がいるとは思わなかったのだろう。


「学長さんもけものだったんですね。」

「あぁ、この大学には人間に化けたけものが沢山いるから気をつけるんじゃぞ。」

学長はたぬき姿のままそう語ると、つる美は息を呑んだ。

人間に危害を加える化け物がいると知っては、常に警戒をして過ごさなければならない。


「大丈夫だよ。」

「いなり…うん、そうだね!」

不安そう表情を見たいなりは、彼女を励ますように優しい口調で伝える。

すると、その言葉に安心をしたのかつる美も力強く頷いたのだ。


「お主、ちゃんと覚悟ができているようじゃな。」

「はい。師匠たちが待ってるので。」

「うむ、合格じゃ。お主らならやれるじゃろう。」

学長は彼の様子を見て問題ないと判断し、大学に入学することを認めた。


「ありがとうございます!」

2人とも合格と言われれば、目を合わせて嬉しそうに喜んだ。

試験も無しに、こんなにすぐ認めてもらえるとは思ってもみなかっただろう。

「お主も一人前のうどん職人になるのじゃぞ。」

「はい!」

しばらくして人間の姿に戻った学長がいなりへ近づけば、肩にぽんと手をおいて頷く。

彼はその仕草にまっすぐ背筋を伸ばすと、しっかり口調で返事をした。


この日から晴れて、いなりも大学へ通う日々が始まったのである。

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