5把 その姿は!?

「皆元気そうで良かった。」

狐は仲間達と別れるとほっとしたように呟いた。

そして麓へ戻るためゆっくりと山を下りていく。


2時間ほどして麓の集落へ辿り着くと、彼は何かを思いついたのか自宅とは違う方向へ歩いていった。


一体どこへ向かっているのだろうか。


しばらくして狐が足を止めた先は、つる美が通う

うどん大学の前だった。

彼は校舎から出てくる彼女を待ち伏せして、何かを企んでいる様子だ。


「つる美さん、おかえり。」

「えっ」

「あれ、つる美ちゃんの知り合い?」

「あ、えーと…し、親戚の人で!」

人々が出てくるのを発見すると、狐は人間の姿でつる美達の前に現れた。

彼女は初め驚いて固まるも、もしかしたらあの時の狐かもしれないと友人へ誤魔化すように話す。


「そうなんだ、お名前は?それにその狐の耳としっぽはコスプレなのかな?」

「な、名前はえっと…そう!いなり!あとこれは驚かそうとしてコスプレしたんだよね!」

「いなり?珍しい名前だね、でも変な人じゃないなら良かった。」

友人は彼を不思議そうに見つめると、つる美へいくつか質問を投げかけた。

彼女はそれに対し知恵を絞りながら回答をしながら、いなりに目配せをする。

そして擬人化した彼の腕を引っ張りながら、友人へ別れを告げた。


「ねぇ君は昨日あった狐さんだよね?人間になることもできたんだ。」

「うん、ごめんね驚かせて。実は僕化けることができて。」

「ううん。でもこのままだと怪しまれちゃうから、耳を隠せる帽子と新しい服を用意しないと。」

2人は他の人々へ怪しまれないよう急いで自宅付近まで帰ってきた。

そしてつる美はまだ確証がもてていなかったのか、人間の姿の彼に本物かどうかを確認する。

いなりは罰が悪そうに謝ると、彼女はほっとした表情で現在の彼の容姿について話す。


「よし、じゃあ週末服を買いに行こう!」

「うん、ありがとうつる美さん。ところでさっきのというのは…」

つる美は鍵を開けいなりと家の中へ入ると、元気よくそう告げた。

それに対し、彼は先程自身のことをいなりと呼んだのが気になっている様子だ。


「あー名前を聞いてなかったから、それっぽく名付けたんだけど。君の名前はある?」

「なまえ?」

「そう、君を呼ぶときの固有名詞!って言って分からないか。」

「僕たちは声でお互いを認識するからね。つる美さんが必要ならそう呼んでくれて構わないよ。」

「じゃあ今日から君はいなりで!」

彼女はいなりに聞かれ渋々回答すると、実際名前はないのかと質問を投げかける。

しかしいなりは不思議そうに首を傾げると、人間の間で必要であればそうしてほしいと答えた。


2人がそんな話をしているうちに、外はもう夕日が落ちて暗くなってしまったようだ。

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