2把 事情

「美味しかったよ!」

「それは良かった、君もうどんが好きなんだね。」自宅へ戻ると、彼はつる美が作ったうどんを平らげ幸せそうな表情をして彼女の周りを飛び跳ねる。

その様子を見たつる美も微笑ましそうにしばらく彼を眺めていたが、ふと先程のことを思い出す。


「そういえばさっき聞きそびれたけど、君は何しに山を降りてきたの?」

「それはうどんの作り方を学ぶためだよ。」

「え!き、君が!?どうしてうどん作りを?」

質問に対して、狐は一旦飛び跳ねるのをやめると当たり前のように回答した。

一方彼女は話を聞いて驚き、さらに質問を続ける。


「それは…ばぁやがいなくなったから。」

「ばぁや?」

「そう。僕達を育ててくれた人間だよ。」

つる美に聞かれると、彼は耳を伏せ悲しそうに話し始めた。


「ばぁやは両親を失った僕達の面倒を見てくれてたんだ。」

「僕達?」

「うん。山に他の仲間もいるんだけど、食べ物がないし僕達は人間に育てられたから狩りの仕方も知らなくて。」

「そっか。」

「たがらばぁやがよく食べさせてくれていたうどんを作れるようになれば、狩りをしないで皆お腹いっぱいになれると思って来たんだ。」

彼女は相槌をうちながら、話を真剣に聞いていた。

そして話が終わると、つる美は感心したのかポロポロと涙を流しているではないか。


「うぅ…大変だったんだね!」

「うぐ!く、苦しい…」

彼女は泣きながら、思いっきり狐をギュッと抱きしめた。

しかし彼は苦しかったのか、離してほしそうにバタバタと暴れている。


「あ!ごめんね、つい。」

「やっと開放された…」

彼女は彼の様子に気づくとすぐ手を離して謝った。

狐はというと、辛かったのかお座りをして一息ついているようだ。


「とりあえず事情は分かったから、私もできる限りのことは協力する!」

「本当かい?えっと…」

「そういえば自己紹介してなかったね、私は露越つる美!よろしくね!」

「うん、ありがとうつる美さん。」

彼女は涙を手で拭うと急に立ち上がり、意を決したように両手をぎゅっと握りしめ宣言した。

彼はその言葉を聞くと、目を輝かせながら彼女を見つめ嬉しそうだ。


こうして二人の新たな生活が始まったのであった。

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