第4話『2016年〜2019年』

 じゃあ、そろそろ話しておこうか。

 俺とミカが最初に出会った日。あるいは、ミカの誕生秘話。

 なんていうか、ある日突然生まれたっていうわけでも、前からこの日に生まれるってわかってたわけでもなくて、『そんな人がいたら』を毎日考えているうちに定着した、が正しいと思う。

 いじめられてた。

 別に、それ自体は珍しくないだろう?

 ただ俺には、いじめっ子に歯向かう勇気も、助けてくれる先生もなくて、ただいじめられる日々を過ごしていた。

 そんなある日、俺は考えたんだ。

 俺をいじめから救ってくれるスーパーヒーローみたいな存在を。


***


 いじめが辛い。今日も鉛筆を折られた。

 昨日は上履きがゴミ箱から見つかった。

 死にたい、あるいは死んでほしい。

 そんなことを考えていた。

 自分一人じゃあいつらには敵わない。

 でも、大人は助けてくれない。

 死にたい、あるいは助けてほしい。

 誰でもいいから助けてほしい。

 昔、ドラマで見た。いじめられていた主人公が、いじめっ子に立ち向かう話。

 彼は一人じゃ立ち向かえなかった。でも、彼は一人じゃなかった。

 彼に協力したのは、幼馴染の女の子だった。いじめの相談に乗って、いつも主人公の味方だった。

 俺にも、あんな味方が欲しかった。

 俺には、幼馴染はいないけど、

 やっぱり、あんな見方が欲しい。

 誰でもいいから、助けてほしい。


 初めは声だけだった。

(くよくよしない。ほら圭吾、明日も学校はあるんだから、とりあえず宿題やっちゃいな。休むのはわたしが許さないよ? もしまたいじめられても、わたしが相談に乗るから)

 今までにない経験。幻聴、空耳。

 しかし、すぐに適応できた。きっと俺自身が望んでいたことだからだろう。

「うん、わかった」

 翌日、ノートに落書きがしてあったけど、俺はあまり辛く感じなかった。きっと『声』が俺を励ましてくれたからだと思う。


 それからしばらくして、彼女に名前がついた。

「ねぇ、名前あるの? 何もないと呼びにくいな」

(名前か。うーん、特にないなぁ。良かったら圭吾が決めてよ)

 前から考えていたわけではないが、すぐに思いついた。

「ミカ」

 例のドラマの幼馴染の名前がたしかそんなだった気がする。

(うん、いいね。ミカ。気に入ったよ)


 それから一年くらい後。

 もういじめはなくなった。

 しかし、ミカはまだ俺の元にいる。

 ついに、姿が見えるようになった。

 幻覚、錯視。そうは思えない。

 俺の思い描いたミカがそこにいた。

 触れないけど、見える。

 その優しそうな相貌を見て確信した。

 俺にはミカが必要だ。

 たとえいじめがなくたって、ミカがいないと生きていけない。そう気づいた。


 それから二年後。俺はミカに告白して、俺らは付き合うことになる。

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