第2話 焦りと日常と悪態と後悔
私は酷く焦っていた。それもそうだ記憶を消したはずの彼女が翌朝消したはずの記憶の話を始めるのだからそんなはずはないと信じられずにいる自分がいる。昨日の夜間違いなく記憶を抜き取りそしてこの手で握りつぶしたのだから。
ありえないと思いつつも心のどこかに安堵している自分がいた。私は彼女の「え?うんあるよ!」と言われたことが頭から離れずにフリーズしていた。自分の返答で動かなくなった私に彼女は「...ずちゃん?すーずーちゃーん」とずっと呼びかけていたみたいだった。意識が戻ってきた私は「いい?昨日のことは絶対に誰にも言っちゃだめわかった?」と聞くと「わかった!そのかわりー今後も一緒に帰ろうね!」と全くブレない返答で少し安心したそして今日も時間通り終業のチャイムが鳴るすると鼻息荒げた状態で「すずちゃん帰ろ!」と手を引かれて帰路に着いた。
帰り道彼女は相変わらず喋り続けた隣を歩く私はなぜか不思議な気持ちだった。昨日までの私では絶対に考えられない行動だからだ誰かと一緒に帰る誰かの話に耳を傾けるなんて今までの自分じゃないみたいだった。
今思えば壁作っていたのは自分だったのだと。私は彼女に伝えなければいけない事があった。それはもちろん扉管理機構のことである記憶が消せないなら消す必要のない様にとしかしそれは彼女を自分の世界に巻き込むことになる忘れもしないあの罪悪感はもはや強引に記憶を消す選択肢など取れるはずもなかった。
「ねえ、賭道さん」と言うと「はるって呼んで!」と少しふてた感じで対応してきた少し照れながら「ねえ、はるはもし昨日の扉に出会ったりしたらどうする?」と聞いた嬉しそうな顔で「うーん私は困ってる人がいれば助けちゃうかな!」と「もしそれが自分の命に危険があるとしも?」と拒絶して欲しいと願いながらも少しだけほんの少しだけ違う気持ちもあった「関係ないよ!困ってるひとは全員助けるよ!」と答える彼女は底抜けの善人なのだと感じた。
別れ際の「また明日ね!」が心地の良いものだった事を忘れない。
その夜また扉が開いた『〇〇神社境内中央に発生 発見時にいた住職等民間人には記憶処理済み 他一名が既に捜索開始』と指令が届いた正直嫌な予感がする。最近やたらと扉が開くはっきり言って異常だ以前は多くても2ヶ月に一度だったのに連日などは初めてだだがそうも言ってられない私は着替えを終え昨日の様に意識を失ったりしない様に気を引き締めて現場に向かった。
〇〇神社に到着した時に私は絶句した。扉は破壊されていたハッキリ言ってまずい世界に害をなすのは目に見えてわかるからだこれでは扉を閉じることもできないその時後ろから「やっと来たのか遅いな」と声をかけてきたのはもう一人の扉管理機構から派遣された人間だった。私は扉管理機構の人間が嫌いだ全てにおいて上から目線だからだそして鍵が使えない人間は劣っているおとり程度にしかならいと考えているからだ。協調性も皆無だ自分さえ知っていればいいと情報共有もままならない場合もある。男は姿も見せずに「今わかる情報を簡潔に伝える扉を抜けたのは人型交戦的特徴は片腕が欠損しているだ...扉の件は私が報告しておく標的は見つけ次第殺せ」そういうと男は消えた。私は一晩中街を歩き探したがこの日は痕跡すら見つけられずに終わった。
次の日学校は休もうと思ったがそうはしなかったはるは、帰る時以外はあまり近くには来ないはるなりに今までの生活を壊さないように気をつかってくれているのだろうただ帰り道は教室でも見せない笑顔で楽しそうに話すはるを見るのを楽しみにする自分がいた。するとはるが「今笑った!初めて笑顔見た!」と喜ぶ姿を見てこの生活を守らないとと強く感じた。そしていつもの「また明日ね!」と別れた後あの黒服の嫌味口が聞こえてきた「楽しい学校生活はいいかもしれないがそんなことよりも早く標的を探せ時間がないのがわからないのか?」と悪態をつかれた最悪だ気持ちが地に落ちる感覚とともに機関の一員としてその夜も捜索にあたるしかしなんの痕跡も見つからない今日も収獲なしかと日が昇りそうな時間がきた頃近くの森林で奇妙な音が聞こえるそれは間違いなく人間の出せる音ではないバキバキと音の鳴る近くに行くとそこには目をそむけたくなるような光景が広がっていた。破れた衣服赤黒い体液の様なもの間違いなく今までそこにいた。
異界からの来訪者だ。現状を機関に報告しその日の捜索は終了した。機関からは『証拠隠滅完了』とだけ報告があった。今までなら何も感じなかったはずなのに心に変化があったことが感じられたもし...もしもはるがこうなったらと考えてしまう自分がいるそのために一刻も早い解決を急ぐ気持ちが大きくなった。
二日間の捜索と悪態野郎の報告である程度の仮説が立った異界の者は夜間陽が落ちてからしか行動しないことまた森林近くでしか行動しないのではとここからは人数も増員され捜索隊が結成されるようだ
早く普段の日々に戻れる様にまた一段と気を引き締めて直した。
異界の者の捜索から四日の朝ホームルームで昨日から男子クラスメイト三人が行方不明ということが告げられた。昨日の部活以降の行方がわからないらしい学校近くの山林に自転車が3台転がっていたとそれだけが告げられた。
また時間通り終業のチャイムが鳴るはるはいつも通りとはいかず少し元気がなかった。帰り道はるは静かだった多分行方不明になった三人のことを心配しているのだろうといつもの饒舌からは信じられないほど静かな帰り道そして何かを決心したように喋りかけてきた「今日の行方不明ってやっぱりあの壊れたドアが関係してるの?」その時私は理解が追いつかなかったなんで壊れた扉を知っているのかと「なんで知ってるの?」と聞いたはるはまた少し躊躇いながら「帰り道神社にお参りしてたら急にドアが出てきて片腕のない猿?みたいなのが扉を壊してどこかに行った」と私は何故早く教えてくれなかったのかより先にはるが怪我してないかが気になった私は確実に変わってきているとそう感じたそれでも聞かずにはいられなかったその後「他にはない?」と「黒い服を着たおじさんに話しかけられたよ。気づいたら家に帰って部屋にいたけど神社のことは全部覚えてる」間違いなく黒い服は悪態野郎だとすれば記憶を消さないわけがないでも消えていないみたいだ。
はるは何故か記憶が消せないみたいだった。
空は陽が沈んで暗くなっていく心配になって「今日は家まで送って行くよ」と扉の話を聞いた後は不安が拭えたのかいつものはるに戻って色んな事を話しはじめたそして家の前で「また明日ね!」と挨拶を交わした。
はるを家まで送って油断していた私は今までの人生で一番後悔する日になる事を私はまだ知らない
第3話につづく
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