第1話
僕はエル。ローランド王国の王都ローランドのスラム街で暮らす10歳だ。
物心ついた時から僕の世界は灰色だった。家族にこのことを伝えたら、殴られ、蹴られ、家を追い出された。
その時父親に、
「お前なんて息子ではない。さっさと出ていけ!二度と俺の前に現れるな
!」
と言われた。
母親は何も言わなかった。
二人いた兄弟の長男、ハスには、
「やっと出来の悪い馬鹿が居なくなる。お前なんて生きる価値なんてないんだよ!」
と言われ、次男のコウには、
「なんでお前は生まれてきたんだ?出来損ないで今まで迷惑しかかけてこなかったくせに。お前はスラムで生きていくのがお似合いだよ!」
と言われた。
僕は悲しかった。そしてどうしてだろうと思った。 僕が望んで生まれてきたわけではない。
好んでこの色の無い世界を見ているわけではない。しかし、言い返せない。なぜなら言い返せば殴られるから。蹴られるから。
いわれた通り、家を出ていかなければならない。
これからは一人で生きていかなければならない。
スラムで生きていかなければならない。
この国では、15歳で成人となる。成人にならなければ仕事に就けない。そのため、あと五年間は何かしらの手段でお金を稼がなければならない。
スラムに住んでいる人たちは基本、盗みを働いている。王都警備兵に見つからないように、相手にばれないように。
中にはもともとの運動神経や才能を使って働いている人もいる。しかし、働けても賃金は低く、まともに暮らせる余裕はない。その日暮らしで精いっぱいである。そのため、未成年の僕が働くには無理がある。
この世界にも冒険者ギルドがある。未成年でも登録はできるが見習い扱いになり、街中のおつかい依頼しか受けることができない。さらに報酬が少ないため、3つほどこなさないと一日の生活費にならない。
僕が追い出された時、僕は何も持ち出せなかった。なので必然的にスラム街に行くしかなかった。
僕の暮らしていた家はスラムから遠かった。僕の家は貴族と言われていた。僕は跡取りにはなれないため、貴族作法については学ばなかった。いや、学べなかった。
僕が家を追い出されたのは10歳になってからだ。それまでは家の屋根裏で過ごしていた。
世界が灰色だと伝えた日から屋根裏部屋に閉じ込められた。最低限の食事はできた。お手洗いに行くときは家族の目を盗んでいかなければならなかった。お風呂には入れなかった。お湯をもらうこともできず、外にある井戸から水を汲んできて汚れたタオルで体をふくしかなかった。
勉強は必要ないと言われ、学ぶべき学問を学べなかった。本を読むこともできなかった。
身体を鍛えようとしても殴られ、蹴られた部位が痛み、満足に鍛えられなかった。当然治療はしてもらえない。
こんなにひどい扱いをされても僕はしょうがないのかなとしか思えなかった。両親のあの怒り方、兄弟の罵り方。それを見ればわかった。
死のうとは思わなかった。いや、思えなかった。ここで死んだら負けた気がするから。いつか見返したいと思えたから。
だから僕は生きることをあきらめなかった。
15歳まではスラムで生きよう。そして、冒険者になって見返してやろう。そう思った。
だから今は、耐えるときだ。
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