第35話 欲望
「うぅ〜、悔しすぎます……!」
がっくりとうなだれるリリィに、ジャスミンはどう声を掛ければよいのか分からなかった。
「よっしゃあ、プレミアム・ランカー撃破!」
「これでだいぶポイントも稼げたし、この調子でやっていけばランキングにも載れるんじゃないか?!」
「そうね。貴女がそこまでやる気なら、このベストパートナーズカップ、行けるところまで行ってあげてもいいかも」
「ったく素直じゃねぇなぁ……正直ヨヒラも今回のはかなり手応えあっただろ?」
「――まぁね」
勝利を掴んだ者だけが得ることのできる未来への自信。一方で敗者は過去を省みて、屈折した感情を心中で反芻することしかできない。
「あの……っ!」
リリィは唐突に顔を上げ、まっすぐな瞳でソレイユたちを見つめた。ソレイユは「なんだよ」と目を丸くしてリリィを見つめる。リリィの星を散りばめたような輝きが宿る翡翠色の瞳は、ジャスミンだけでなく誰かの視線を惹きつけてしまうようだ。
「わたしとフレンドになってくれませんか!」
リリィの表情にもう悔しさは滲んでいなかった。お互いの健闘を称え合う――そんな笑顔が浮かんでいる。
「フレンドつっても別に始めたての初心者とフレンドになってもこっちには何のメリットも――いてっ」
「なってあげなさいよ。私はいいよ」
ヨヒラに小突かれてソレイユは「しかたねーな」と頭を掻く。
「ありがとうございますっ」
「いや別にあたしは――いてっ。いやヨヒラどうして今つついた?!」
「へらへらしてるように見えたから」
「へらへらはしてねーだろ。ていうか仮にへらへらしてたとしてどうしてお前が――」
リリィの笑顔は自然と誰かを惹きつける。きっとジャスミンの――莉都の幼馴染もそうなのだろう。莉都の幼馴染は、ディープスペースと呼ばれるこの世界で、新しい一歩を踏み出そうとして――
「駄目っ!」
自身の喉から出たはずの声に、ジャスミン自身が驚いてしまった。リリィもソレイユもヨヒラも、何事かとジャスミンを見つめる。
「あの、その――何でもない」
口角を釣り上げて誤魔化しながら、ジャスミンは込み上げる衝動を必死に抑え込む。
愛佳は――お人形みたいに綺麗な幼馴染のあの子は、私だけのものなんだから。
視界がぐらぐらと揺れる。今までの人生で一度も感じたことのない、訳の分からない衝動が、心の中で跳ね回っていた。
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