第27話 決闘・開幕

 メーンキャッスル・舞踏広間――そこがリリィたちの行う決闘デュエルの開催場所だった。


 白百合家の玄関とよく似た観音開きの扉を開くと、そこは吹き抜けの広間となっている。リリィたちが射撃訓練をした大広間は天井の梁まで見える数十メートルの広大な吹き抜けだったが、それと比べるとこの舞踏広間は二階を貫く程度の高さしかないので、幾分かこじんまりしているだろう。こじんまり――というのはあくまで白百合家に住まうリリィの感覚でしかなく、きっと莉都が見たら腰を抜かしてしまうくらいには華やかではあるのだけれど。


 シャンデリアが燦然と輝き、金銀の装飾が施された広間を照らす。大広間が静粛で荘厳な気配に包まれていた一方、この舞踏広場は華美で豪奢といった印象だ。真っ白なテーブルクロスが敷かれた円卓がいくつも並び、その上には瑞々しい果物たちが飾られている。リリィが立つ一階からは吹き抜けの二階の様子は窺えないものの、一階に太くて大きな柱が数本聳えていることから鑑みるに、二階もなかなかの広さになっていることは間違いない。


「周辺の廊下と小部屋も含めて、マップは中規模設定。接敵には時間が掛かるけど、照準エイム以外の立ち回りが勝敗に絡んだ方が、私たちにとっては有利なはず」

「さっすがヨヒラ! ウチの参謀なだけのことはあるぜ」

「私、参謀になった覚えはないんだけど」

「今決めた。あたしが突撃役で、ヨヒラが参謀役」

「突撃役を自称できるくらい突撃癖を自覚してるなら、前回の試合マッチといいもうちょっと考えて立ち回ってほしいわね」


 にかにか微笑むソレイユと、そんなソレイユに大して冷静に応答するヨヒラ。なるほどああいった会話の不思議な噛み合い方も、パートナーと呼ばれるには大事な要素なのかもしれない。


「頑張りましょうね、ジャスミンさん!」


 わたしもジャスミンさんと息ピッタリになりたい――なんて気持ちで、ガッツポーズをしてみる。


「中規模マップはこちらとしても妥当かな。速攻で崩されるリスクはきっと私たちの方が大きい。あくまで初心者へのティーチングであることも踏まえて、索敵から会敵、そこからの展開まで順序立てて体験できる方が、学べることは多いはず」


 しかしジャスミンは冷静に今の状況を分析するばかりで、リリィのガッツポーズには応じてくれなかった――もしかしてこれがパートナーかそうじゃないかの差?


「廊下まで含めるとデュオ・ルールにしては広めのマップだし、会敵するまでは必ず二人一組で行動しましょう。長く組んでるだろう相手チームと違って、知り合ったばかりの私たちは通信だけじゃ正確な連携が取れない。だから固まって行動することよる挟撃のリスクよりも、各個撃破のリスクを重く見たほうがいいはず」

「よく分からないけど――分かりました!」


 こうなったらもう自棄だ――リリィはとにかく頷くしかない。やってみなくちゃずっとできないというのなら、ひたすらやってみるだけ。


「それじゃあ開始は今から五分後。それまでに所定の開始位置に着くこと。初期の資金マネーエナジーは三百」


 ソレイユはそう告げて、ヨヒラと共に舞踏広場を去っていった。


 デュエル・ルールでは、お互いに所定の位置に着いた後、戦闘開始の合図と共にそれぞれ行動を始める。先に敵を見つけてチーム全員を倒した方が勝ち――バトルロイヤル・ルールよりもずっと狭い空間で戦うぶん、敵も一チームだけであるし、ルールとしてはだいぶ分かりやすい。


 リリィとジャスミンは、舞踏広場から少し離れた開始地点の小部屋に移動。さらにその場でワンドなどの装備を選定する。


「バトルロイヤル・ルールでは着陸した場所を中心にフィールド内でワンドなどのアイテムを収集するけど、デュエル・ルールでは手持ちの資金マネーエナジーを元手に好きな装備を選べるの」


 初期の資金マネーエナジーは三百――というのはソレイユが告げたとおり。序盤は簡単な装備しか購入できないものの、決闘デュエルが進行する度に資金マネーエナジーは増え、それによってより強い装備を購入できるという仕組みだ。


「わたしはこのワンドにします!」


 リリィが選んだのは、拾弐番型短機式輝石杖『エレメール』――先程の射撃訓練で使用したワンドだ。銃身約六十センチメートル、赤銅の角張った芯に、先端に輝く紅の宝石。ジャスミンが言うには「拡張性や単体の攻撃性能は控えめなものの、序盤から安定して使用できる良武器」とのこと。反動制御リコイル・コントロールも練習したばかりなので、他のワンドを使うよりはずっと活躍できるだろう。


「私はこれ」


 ジャスミンが選んだワンドは、二拾壱番型単式輝石杖『ミリアム』――銃身は三十センチメートルもないであろう細身のワンドは、拳銃ハンドガンに相当する性能であり、攻撃性能は短機関銃サブマシンガンに相当する『エレメール』よりも遥かに低いという。しかしジャスミンによれば「連射式フルオートだから最低限の火力は保証されてるし、限られた資金マネーエナジーで強いワンドを使うよりも、安く買ったミリアムに余った資金マネーエナジーで拡張した方が場合によっては強い」とのことだ。


 リリィがまごつきながらもどうにか装備の購入を完了したとき、決闘デュエルの開始までは残り十秒を切っていた。


決闘デュエル開始まで、五、四、三――』


 電子音声のカウントダウンに、リリィは慌ててワンドを構える。正面の扉からこの小部屋を出たら、そこは既に戦場だ。どこから撃たれるか分からない――そんな緊張感の中、リリィは射撃訓練とは違う実戦ならではの経験をすることになる。


「行くよ」


 リリィの隣で、ジャスミンが小さく呟いた。リリィは緊張のあまり部屋の扉に視線が釘づけになっており、ジャスミンへ視線を向ける余裕はなく、ジャスミンの言葉に頷くこともできない。


『――決闘デュエル開始』


 電子音声が開幕を告げると同時に、部屋の扉が自動で大きく開け放たれる。

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