第14章 顛末・この世界について
第149話 ことの顛末
ここに記しているのはこの一連の騒動の
それほど劇的というような決着はなかった。
ただ結果として、俺たちは初期化騒動に関わった七戦士のうち3人を確保することができた。
主犯である槍の戦士ハヤシダマモル、その共犯の杖の戦士シンクと隠の戦士オトナシを連れて俺たちは白い巨塔を降りた。
さて、スペラの魔力も少なくなっている中で、いったいどうやって帝国まで七戦士たちを運ぼうか……と悩んでいたところ、意外にも、チャイカたちをここまで運んで来てくれたという先代杖の戦士クロスが、巨塔の1階で俺たちを待っていてくれた。
「てっきり、カッコつけて役目を果たした後はどこへともなく立ち去っているものかと思ってたんだけど」
「──ただ
アンニュイな感じで返事をした相変わらずカッコつけまくりのクロスだったが、でも俺たちのことを帝国まで運んでくれたのはありがたかった。
「レイア様、グスタフ様っ!」
帝国で俺たちのことを出迎えてくれたダンサたちは……ボロボロだった。しかし、それでも帝国を取り戻し、守り抜くことはできたようで、その表情は晴れやかだった。
「今後のことで、いろいろとご相談したいことはございます。しかし、帝国も王国も、この騒動を落ち着けるのには時間がかかるでしょう。一度それぞれの国に戻り……内政の健全化に努めることといたしましょう」
レイア姫の提案により、一度俺たちも王国に戻ることになった。捕えた七戦士の処遇についてだが……そちらは帝国に任せることにした。
「──ククク、我がノクターンの力をもってすれば、ネズミ1匹帝国から逃がさぬことも可能と知れ……!」
「はいはい、『任せろ』ってことね?」
後に元勇者アークに聞くところによると、クロスはアグラニスとなにかしらがあったようだ。そこでどんなやり取りがされたかは知らないが、先代杖の戦士クロスは帝国に再び籍を置くことにしたようだ。
……まあ、クロスがいるなら問題ないだろ。たぶん今の俺よりも強いし。
それに、クロスだけじゃない。
「グフ兄、お別れだね。ウチはダンサちゃんをしっかり支えてあげないとだから……これまで本当に楽しかったよ。ありがとうっ!」
弓の戦士ヒビキ。彼女もまた、帝国に残る決断をしたようだった(俺とはサラっとした挨拶で終わった割に、ニーニャとのお別れにはギャン泣きしてた。この扱いの差よ……)
帝国はこれからダンサをトップに、クロスとヒビキの力でもって、きっと強く国を立て直していくことだろう。
そんな確信をもって俺たちは帝国を後にし、王国への帰路に着いた。
………………で、だ。
「あの、ガイ?」
「おう、なんだよ相棒?」
「ガイは俺たちの国にくるの? お前も元々は帝国勢なんだけど」
「おうおう、ツレないこと言うんじゃねーぜ! オレたちゃもう、戦場で互いの背中を預けた、一心同体の親友だろうがよっ?」
……そういうことらしい。砲の戦士ガイはこれから王国の一員になるようだった。
「まあ、
チャイカがそういって胸を叩いた。ガイはどうやらカイニス領軍の精鋭部隊の仲間入りを果たすことが内定してるらしい。
「……え? グスタフと同じ職場じゃねーの?」
ガイは初耳のようだったけど……まあ、それは俺の預かる話じゃないな。たぶんチャイカはスパルタだろうけど頑張ってくれよ、ガイ。
カイニスに着き、チャイカとガイと別れ、そして俺、レイア姫、ニーニャ、スペラ、そして元勇者アークは再び王城へと帰ってきた。
アークは王国においては未だ罪人の身。衛兵に引き渡して、再び地下牢へと連れて行ってもらうことにした。アークは何も言わなかった。
「アーク!」
「……なんだよ」
「また今度、会いに行くから」
「……なんかちょっとキモいぜ、それ」
一瞬、今回の件でお礼を言おうかとも思ったけど……なんかそれは良くない気がした。アークの内面的な葛藤や七戦士たちの思惑など、いろいろな経緯はあったにしろ、もともとはこのアークが帝国勢にノコノコとついて行ってしまい、言われるがまま聖剣を抜いてしまったから起こった初期化騒動なんだもんな?
本人もその自覚はあるっぽいし……今はそっとしておこう。
でも今回の経験を経て、アークはたぶん、今までよりは良い方向に進めるんじゃないだろうか? なんて思うのは俺の楽観か?
さて、ともかく王城の玉座の間へと行くと、その出迎えは盛大なものだった。王もレイア姫の顔をみるやいなやとても安心した表情を見せた。……けどやっぱり、会話はどうしても淡白なまま。
いまだ、杖の戦士による王城襲撃の日、レイア姫が公衆の面前でニーニャのために王族の義務を放棄した件が尾を引いているのだ。王はまだ周囲の視線を気にしなければならないその立場上、姫を許すことができないままでいる。
……どうにかしたいよな、このふたりの関係も。
とはいえ、これからは忙しくなかなか時間も取れ無さそうだ。
いまこうしてまとめている事の
ああ、やることがたくさんだ……書くこともたくさん……。
……。
…………。
………………。
「……うがー! もうダメだぁ、これ以上座ってはいられないっ! 休憩だっ!」
「ちょっとグスタフ、今日これで何回目の休憩よ!?」
ペンを置いて立ち上がった俺の服の裾を、ニーニャがググッと強く引っ張った。
「まだこれから洗い出した経緯を時系列でまとめていく作業があるんだからねっ? そんなペースじゃ明後日までに報告書が完成しないじゃないっ!」
「か、勘弁してくれよ……俺はデスクワーク向きじゃないんだ……」
「そのためにアタシが付きっきりで手伝ってあげてるんじゃない。アタシが書けるところは全部書いたんだから、あとはアンタしか知らない部分について掘り下げないと……ほらっ、続き!」
「ふぇぇぇ……」
俺とニーニャはふたり、王城の会議室の一室で缶詰をして報告書の作成作業に取り掛かっているのだ。
それにしても、もう何時間椅子に座ってるのやら……エコノミー症候群で死んじゃうよ。そうボヤくも、ニーニャに無理やりペンを持たされ、俺は渋々また椅子に座った。
「ほら、事実の洗い出しの続きをなさい」
「うーん……他ってなんかあったけ?」
「もうちょっと先の話だけど、正式に決まりそうなことがあるじゃない」
「ああ、アレか」
そうそう、たぶん1カ月後くらいにはなるだろうけど……急ピッチで王国と帝国の終戦宣言式と和平協定が交わされることとなり、その締結式と両国交流会が行われることになったのだ。
両国の代表が顔を合わせることになり、その警護として俺たちレイア姫親衛隊も出席することになったので……またダンサやヒビキたちと会えるのだ。
「いやぁ、楽しみだなぁ……」
「グスタフっ! 現実逃避しないのっ!」
……うぅ、今は1日先が長く、遠い……。
スパルタなニーニャの指示のもと、俺はペンを動かすのだった。
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