王城モブ衛兵に転生したので姫をさらおうとする魔王軍を撃退したら勇者のハーレム要員から次々に惚れられた件。あ、姫は俺が守ってるんで俺様系自己中勇者さんはどうぞ勝手に魔王退治の旅へ
第63話 魔王討伐後のやり込み要素?→やりません!
第8章 王国と帝国
第63話 魔王討伐後のやり込み要素?→やりません!
──魔王が討伐されてから1カ月半、王国にて。
東西を分けるようにそびえる大山脈【グラン・ポルゼン】を越え、いまや
この世界の人々にとってはただそれだけの場所だ。素晴らしい自然。マイナスイオンあふれるパワースポット。年に一度は訪れたい秘境。
……実は滝の奥に隠された通路、そしてダンジョンの入口があることなど誰も知りもしない。もちろん、その先にあるダンジョンに潜む、かつてこの世界で【四神】と呼ばれ恐れられた伝説級モンスターがいることさえ──。
……まあ、俺は知ってるんだけどな。
「『
バリィッ! と電撃的な一撃が俺の槍から放たれる。
──それは戦闘開始から10分が経過したころのことだった。何度も何度も同じところへと重ねて放ち続けた攻撃が、ようやくそのモンスターの青く硬いウロコを突き破ったのだ。
〔グギャオオオオオッ!〕
大きな
「やたっ! ようやく弱点に良い一撃が入ったみたいね、グスタフ!」
「嫌がる相手に無理やり突き刺すなんて……さすがの所業ですね、グスタフさん!」
「ふたりとも! 喜ぶのはキッチリ倒した後だッ! 最後まで油断せずにいくぞっ!」
軽口を叩いていたニーニャとスペラの表情が引き締まる。青龍はまだまだ体力が残っているようで、俺たちを力強い瞳でにらみつける。
……さあ、次は何をしてくる気だ?
俺たちが身構えていると、青龍は自らの周辺に巨大な
「スペラ! 俺にシールドを!」
「はいっ!」
「ニーニャは『気配遮断・全』でスペラといっしょに退避っ!」
「ええ、わかっ……って、アンタはどうすんのよっ⁉」
「範囲攻撃をめちゃくちゃに撃たれたらかなわないからな……俺が引き付ける!」
俺はスペラのシールドが自身にかかったことを確認すると、ひとりで前方、青龍へと向かい駆け出した。
「ちょっ……! ったく、アンタってホント……気をつけなさいよねっ!」
「いつも振り回しちゃって悪いな!」
ニーニャが悪態を吐きながらも、しかし俺の言う通りにスペラとふたり、その姿を隠してくれる。すると当然、青龍の視線は唯一その目で見える俺だけに集中した。
〔グオオオオオオッ!〕
氷塊が俺にめがけて降り注ぐ。
「うらぁぁぁッ!」
俺はそれらをギリギリまで引きつけてはかわし、あるいは『
……どんなもんじゃいっ! こちとらだてに
そして俺はとうとうその青龍の懐へと飛び込むと、再び先ほど喰らわせた位置にもう一度『雷影』を放つ。
〔グギャオオオッ⁉〕
たまらず、その体をくねらせながら勢いよく俺から離れゆく青龍だったが……しかしある1点でその動きが止まり、体中に走る電流に動きが取れなくなった。
「グスタフッ! 今よッ!」
気配遮断を解いたニーニャのその姿は逃げ行く青龍の正面にあった。青龍はニーニャがひっそりと仕掛けていた『しびれ罠』に身動きを封じられたのだ。
……さすがニーニャだ、ありがたい! きっと俺の攻撃、それに青龍の先の動きも予測してのトラップだろう。
ニーニャは俺の知る中で
「──グスタフさん!」
ヒュンっ! と、テレポートを使ってスペラが隣に現れる。そして俺の手を取ると、
「行きますよ!」
「えっ?」
スペラの言葉に頷く暇もなく、再びヒュンっ! と、今度は俺を伴ってのテレポートが行われる。
「お、おぉっ⁉ ここはっ──」
俺の視界は一瞬のうちに切り替わり、体は空中へと投げ出されていた。そして今、俺とスペラの真下にいるのはしびれ罠に引っかかり動けなくなっている青龍だ。
「グスタフさん、あとは頼みましたよ」
攻撃を仕掛けるのに最高の位置に誘導してくれたスペラ。彼女は攻撃も防御も一級品のスーパー魔術師だ。エルフとしての300年の人生経験で
「……ありがとな、2人とも!」
ふたりの息ぴったりで理想的なサポートに思わず胸が熱くなる。
……ああ、やっぱチームプレイって最高だな……! 盗賊ニーニャ、魔術師スペラ。このふたりが親衛隊にいてくれて俺は本当に幸せ者だッ!
ふたりが作ってくれたこのチャンスを決して逃しはしない。俺は青龍の背中に着地すると、槍の底でしたたかにその肉を打つ。
「『
直後、青龍の体内に超強力な雷がほとばしった──。
* * *
戦闘開始から20分が経ち、青龍の体がズシンと大きな音を立てて地面へと沈んだ。
──『レベルアップ。グスタフLv56→Lv58』
頭の中に流れるその音声に長丁場の戦いがようやく終わったことを悟って、俺は思わず深いため息を吐いた。
……いやぁ、レベル60の難敵だってことは分かっていたが、まさかここまで苦戦するとは思わなかった。
「はぁ~~~! 終わったぁ~~~!」
「なんとも……ものすごいモンスターがこの世にはいるものですね……」
ニーニャとスペラはぐったりとした様子でお互いに背中を預け合い座り込んでいる。
「お疲れ様、ふたりとも」
俺はふたりにポーションを渡すと、それからぐったりと倒れる青龍のその死骸の元へと歩み寄る。
……さて。確か【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】という名のクソゲー仕様そのままなら、この青龍から素材みたいなのは取れないんだよな。しばらくすると死骸が消えて──おっと。
やはり、その仕様はゲームと同じだった。青龍の死骸は突如として淡い光に包まれたかと思うと、上昇気流に乗る細かい灰のように上へと消えていった。
──ガチャリ。
「なに? いまの音……」
「ああ、カギが開いたんだよ」
ニーニャの疑問に答えつつ、俺は青龍のいたこの部屋の奥にひっそりと佇むひとつのドアへと向かう。ノブを捻ると、ギィと音を立ててドアは開いた。
「……よし。ゲームと同じだ」
そこにあったのは前世の記憶通り、赤い木材に金の縁取りがされた宝箱だった。俺は
「グスタフ……? なにそれ?」
いつの間にか俺の後をついてきていたニーニャとスペラが、手元を覗き込んでいた。
「これは……ちょっとした【キーアイテム】ってところかな」
「【きーあいてむ】?」
聞き慣れない単語に首を傾げるふたりに俺は答えず、微笑むだけに留めた。答えたところで、この世界がクソゲーそのままの仕様で成り立っているということが分からなければチンプンカンプンだろうからだ。
……この白い羽毛の正式名称は確か──【片割れの白羽毛】とかそんな感じだったハズだ。ちなみに他の四神モンスターである【白虎、朱雀、玄武】のモンスターを倒すことでさらに3つのキーアイテムを手に入れることができるのだが、それらすべてを集めることにより、太古の昔に王国のどこかで深い眠りに就いた【裏ボス】が目覚めるんだよな。
──で、俺がいったいなんで裏ボスを目覚めさせるためのキーアイテムを手に入れたか。それはズバリ、【ぜったいに裏ボスを目覚めさせないため】だ。
この世界は例のクソゲーの仕様に9割がた
……だとしたら、いつかめちゃくちゃ強い誰かがこの世界に生まれることがあるかもしれない、ってことなんだよな。もしそうなったら、その誰かが何かの間違いで四神すべてを探し出して倒してしまう、なんてこともあり得る。
そしたらどうなるか──おそらく、目覚めた裏ボスによってこの王国は滅んでしまうだろう。
……ホントにクソゲーだなって思う点だよ、これは。四神のレベルは一律60程度なのに、裏ボスの【片割れの雌白竜】のレベルは90なんだもん。強さのバランスが全然取れてないんだよなぁ……。さすがに俺も攻略を諦めたわ。
というわけで俺はそんな事態が引き起こされる前に四神の
「ねえってば、グスタフ。きーあいてむってなに? 教えなさいよ」
「そうだなぁ。キーアイテムっていうのは……まあつまりは目的達成って意味の言葉かな?」
「はぁ? なんだか噓っぽいわねぇ。ぜったいなにか誤魔化してるでしょ……」
ニーニャは俺にジト目を向けて呆れたようなため息を吐く。
「というか目的達成ってどういうことよ? もともとここのダンジョンに来る予定はなかったはずでしょ?」
「あはは、まあな」
ニーニャの疑問に、俺はまたあいまいに返答するしかない。確かにニーニャの言う通りだったからだ……建前としては、だけど。
……そう、そもそも俺が城下町から離れたこんな場所までやってきているのは、王や姫に、『グラン・ポルゼンを越えた先の町や村で、魔王軍による被害の爪痕や、その他の二次被害に苦しんでいるところはないか調査に向かいたい』なんて建前を進言したからなのだ。
四神、なんていうモンスターの存在をいちモブ衛兵が知っているなんておかしなことだし、裏ボスがどうのこうのなんて説明をしたらきっと頭のおかしいヤツだと思われてしまうだろうから、苦肉の策だった。
……まあでも、こうして計画通りキーアイテムもゲットできたことだし、ニーニャとスペラまで巻き込んで1カ月近くもここまで旅をしてきた甲斐はあった。
さて、と。
「なぁスペラさん。さっそくなんだけど、この羽毛を燃やすことはできるかな?」
「はい? 燃やす? ……いいんですか? 貴重そうな素材に見えますが」
「いいんだ。やってほしい」
俺がキーアイテムのその羽毛を地面に置くと、スペラの指先から炎の魔術が飛ぶ。それは羽毛に着弾し、ボゥ! と燃え上がった──が、しかし。
「……灰になりませんね。火がついてるように見えますが……その実、強力な障壁に阻まれているようです」
「ダメだったか……」
「もっと強力な魔術を試してみますか?」
「いや、いいんだ。たぶん結果は同じだろうし。疲れてるところをありがとう」
……やはりキーアイテムだからか、それは消し去ることのできないもののようだな。となれば仕方ない。
「スペラさん、帰ったらちょっと俺の部屋に寄ってくれるか?」
「え? はい、構いませんが……? もしかして溜まってるのですか? 私でよければこの場でいくらでも抜きますが……」
「適当な箱にこの羽毛を仕舞って封印魔術をかけたいんだ。誰にも解けないような強力なヤツを頼むよ」
「あいかわらずの全スルー……私、ちょっと自分に自信を無くしてしまいそう……」
「よろしく頼むな」
およよ、と泣きマネをするスペラの肩を叩く。こいつは構えば構うほど下ネタを振りまいてくるのだ。対策はスペラの文脈に沿った返しをしないこと。あくまで自分主導で話を進めていくことにある。
「それで、この後はどうするの?」
ポーションを飲み、すっかり疲労を回復させたニーニャが訊いてくる。
「とりあえずグスタフが最初に陛下に進言した通り、グラン・ポルゼンを越えてきた先の町や村の様子はぜんぶ見終わったわよね? 深刻な被害の出ているところは無かったし、モンスターの発生率もかなり下がってるみたいだったし……他にやらなきゃいけないこととかってあるの?」
「んーいや、もう無いかな」
建前として使った進言ではあったが、それでもちゃんと俺たちは進言通りに町村を見回ってはきたのだ。結論としてはニーニャが言ったように被害はほとんどなかったし、今ではどうやら魔王が討伐されたことにより、モンスターの発生率が大幅に下がっているようだった。
……であれば、俺たちの旅の目的は本当に全て完了したことになる。
「よし、任務完了だ。帰ろうか、城下町へ」
そう提案するとニーニャの表情はパーっと明るくなった。城下町から旅経ってはや1カ月とちょっと。その期間はニーニャが保護して養っている元スラムの子供たちと過ごす時間もあまり取れていなかったから……ニーニャがそうなるのも当然と頷けた(いちおう、スペラのテレポートで数日に1回は城下町に帰ってはいた)。
「私はこういった旅も楽しかったですが……まあ、久々に魔術の研究に精を出すのもいいですね。ついでに自分の性的魅力の見直しも行うことにします」
スペラも賛成してくれたようなので、俺たちはスペラの元に集まりテレポートでダンジョンを抜ける。
……さて、俺もようやくレイア姫親衛隊として護衛の任務に戻れる。魔王戦以前のような穏やかな日々を姫とともに過ごすことができるだろう。
ここしばらくはすれ違いばかりでまともに姫に会えていなかったから、そんなことを考えるだけで俺の胸の内は【(ドキドキ×ワクワク×ソワソワ)÷3】みたいな、複雑ではあるがやはり幸せな心持ちになるのだった。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
ちょっと長かったかもですが、キリのいいところまで書いてしまいました。
次の更新は7/24(日) です。
それでは~!
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