第6話 分からぬ真意



「呪い、か…………」

 廊下を歩いていたサラがふと自分の腕を見つめた。目を凝らさなければ見えないほど薄っすらと手首に模様が刻まれている。

「っ……! ご、ごめんなさい…………」

 じっと手首を眺めたまま、歩いていたため前からやって来ていた人とぶつかってしまう。少し怯えた様子で深く頭を下げるサラ。

「あら、サラさん失礼しました。お怪我はありませんでしたか?」

「う、うん。大丈夫だよ。ごめんなさい、ディエト」

 ぶつかったのはサラの親友の一人であるディエト・ノレグレットであった。普段と印象と少し違っているサラの様子に少し目を細めつつも、何事もなかったかのように会話は続ける。

「お気になさらなくて結構ですわ。(今度きっちり返して貰いますから…………)」

「? どうかした?」

 ディエトの不穏な呟きはサラの耳に届かなかった。届いていたとしても何が何だか分からなかった可能性が高いだろうが…………。

「いえ、何でもありませんわ。では、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう…………」

 ディエトに釣られるサラであった。



「自分の血を恨むのは何度目かしら…………」

 ふとサラが去って行った方向に向き直り、呟いたディエトの言葉は誰にも聞こえることはなかった。

 ノグレット家はこの街をまとめている家である。

 そして、初代の当主は魔法使いたちをこの地に縛り付けるための呪いともいうべき存在を生み出した。魔力を持つ人たちをこの地――結界の範囲内から出られなくする術式を刻む魔道具だ。街に入った瞬間に魔力の有無を感知して術式が刻まれる。抵抗できない年齢で連れてこられるため、事実上魔力持ちに逃げるという選択肢は存在していない。

 どういった思惑があって自分と同じ存在に対してそのようなものをかけたのかは今となっては誰にも分らない。

 ただ一つ言えるのは、今の魔法使いたちにとって初代ノグレット家当主は忌むべき存在だと言うことぐらいだろうか。





〈あとがき〉

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