第5話 逃げ場はない
サラは他人行儀な口調でミレアに声を掛けた。
「ミレアさんも大変ですね?」
「あぁ、サラか…………。今度、サシェルに何とか言ってくれないか?」
ミレアは何故か頭を抱えて倒れ込んでいるサシェルを放置して、サラと話し始めた。二人は教師と生徒の関係だけではない。サラの育ての親である人物はミレアの実の姉でもあるテレアである。そういったこともあり、本当に偶にではあるが実家で二人で過ごすこともあるのだ。どちらも互いに避けている節があるので、めったにない程度の頻度になっている。
「時々言っていてこれなんですけど…………」
「無駄だったか…………」
「まぁ、それはさておき…………。サラ。何かあったら言ってくれ。相談に乗るから…………」
「ありがとうございます…………」
互いに気持ちの問題で距離感があって生徒と教師の間柄として話すときであったとしてもぎこちなさがある。ここ数年、より詳しく言うならばサラが高等部に入学して以降から元々あった距離がより開いた。
会話も長続きせずに二人の間で微妙な雰囲気が流れ始めた頃、聞くつもりすらなかったサシェルの声がミレアの耳に入って来る。今まではサラと話していたことやどうせ碌なことを言っていないだろうと思っていたこともあって無視していたのだ。
「あの、先生?」
「ん? 何か言っていたのか? サシェル?」
「…………」
回復したサシェルは言い訳を聞いてもくれていなかったことに絶望の色を滲ませる。ミレアは少し緩んだ気を引き締め直した。これからサシェルが取ると思われる行動を阻止するために…………。
「さようなら!」
「逃がさん!」
「ひっ!」
首根っこを掴まれたことで逃げられなくなってしまう。手足をばたつかせながらなおも諦めずに逃げだそうと足掻き続ける。
「まさか、私から逃げられるとでも思っていたのか?」
「ごめんなさい~~~~!!! もう逃げませんから! だから、許してください~~~~!」
「許さん…………」
何とか許してもらおうと懇願するものの、許されることはなかった。
「えっ、あの…………先生? 何を…………?」
「お仕置きだ…………」
顔を背後のミリアへと向けながら、身に迫る危険に身を震わせることしかできない。
「あぁぁぁ!?」
サシェルから叫び声が上がる。まだ教室に残っていたクラスメイト達の視線が一斉に彼女の方へと向くが、いつものことかとすぐに気にしなくなってしまった。ほぼ週に一回の頻度で同じような光景を見せられていればなれるのも致し方ないであろう。
「やめでぐだざい~~~~! 頭が割れるぅ~~!」
「はぁ…………。取り敢えず、これから私の部屋で補習だな…………」
サシェルの頭をぐりぐりとしながら、そう呟くミレア。
お仕置きを受けているサシェルは痛みのあまりぽろぽろと涙を流しながら、手足をばたつかせていた。まぁ、いくら抗ったところで逃げることなどできない。
むしろより込められる力が強くなるだけだ。自らの首を絞め続けるサシェルであった…………。
お仕置きが終わった後のサシェルは…………。
「あっ……………………、あっ…………」
机に倒れ伏したサシェルは時折ピクリピクリと身体が細かく跳ねていた。
「ひぐっ…………。ぐすっ…………。頭痛い…………」
暫く経つとある程度痛みが引いてきたのか、言葉を吐けるほどには回復していた。抵抗する気力や体力すらも残っていない様子を確認したミレアは少し肩の力を抜く。
「またな…………。サラ…………」
「はい…………」
ミレアとサラは軽く別れの挨拶を交わす。
「さて、行くぞ…………」
「あっ、待って!」
そうして、ミレアはサシェルを右肩に乗せて教室を出ていこうとする。
「助けて、サラ…………。 お願いだから…………」
そっと手を伸ばす。震える手で助けを求めるも、苦笑いを浮かべたまま手を振るだけのサラ。他の人に視線を向けてはみるも、目を合わせてさえくれない。現実は非情である。
「助けて~~~~!」
心の底から助けを求める声が廊下に響く。数十分後、実習場から少女の泣く声が聞こえたとか。そして、週末明けその声の主が死んだ目をしていたのは言うまでもなかろう。
〈あとがき〉
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