第4話 静止間に合わず地獄へ
視線が泳いでいるサシェル。
勉強のことは置いておくとしても、実習は逃げてもいい問題ではない。未来に希望がないからと言っておろそかにしていいものでもないのだ。補習をしたくないのであれば、せめて授業ぐらいは真面目に受ければいいものを…………。
こんな調子だから、サシェルは実習関連でも授業関連でも後になってから地獄を見るのだ。
「やりたくないのだから、仕方がないじゃない…………」
苦手だと言う理由とは別にもう一つ嫌いな理由はある。ただ、それは自分自身が招いたことなので理由にはなりえないのだが…………。
「はぁ…………。それにしても、あの頭の固い先生は…………!」
「(あの、サシェル? 後ろに…………)」
橙色の髪を靡かせ、ゆっくりとサシェルの背後に迫る誰か。
そのことにいち早く気が付いたサラはこれからサシェルの口から吐かれる愚痴の数々を止めるため彼女の口を閉じようと動いた。背後の誰かに聞こえない程度の小さな声でサシェルに迫る危機を伝えようと努力する。
「補習に続く補習で私を虐めて! なんてひどい人なのよ…………!」
間に合わなかった。サシェルが一つでも先生の愚痴を言った時点で、その努力は水の泡に帰してしまったのである。
「ほぉ…………。そうか、そうか…………。お前は私の好意をそういう風に取っていたんだな…………」
「ミ、ミレア先生!」
バッと勢いよく背後に振り返ったサシェルの目に先程まで零していた愚痴の矛先たる人物――ミレアの姿が映る。わずかな殺意の入り混じった冷ややかな視線を先生から受けるサシェル。
「あぁ、お前の大嫌いなミレア先生だよ…………」
悲しげな表情の裏には激しい怒りが窺える。
「いえ、あの、その、先程の言葉は…………。何と言いますか…………。言葉の綾と言うものでして…………」
サシェルは何とか誤魔化そうと言い訳を並べていく。
だが、その言い訳を認めるかどうかはさて置き、聞く側であるミレアは彼女の弁明に耳を貸すつもりがない。何を言おうと手遅れであることを気が付いているのか気が付いていないのか涙目でアワアワと慌てながら無駄な足掻きをし続けるサシェル。
可哀そうではあるが、自分が招いた危機なので同情はできない。
「はぁ…………。まったくこいつは…………。」
ミレアはこめかみを抑える。かなり悩んでいる様子だ。
〈あとがき〉
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