第3話 サボり癖
「やっと、終わった…………」
サシェルはチャイムが鳴ったと同時に、喜びの声を漏らした。両手を投げ出し、机に伏した彼女は力尽きたご様子。ただ…………。
「午前中の実習はしていないけど大丈夫?」
「気にしない、気にしない…………」
「まったく…………」
いつものことではあるが、サシェルは魔法の実習のある日はほぼ毎回サボっている。それ以外はきちんと来ているのだが…………。
授業の中でも一番大事とされている実習の授業を受けないのはかなり不味い。
だが、サラの問い掛けにサシェルは机に伏したまま手だけを振りながら能天気そうな調子で返す。もう何を言っても駄目なのだなと思いつつ、サラは帰るための準備をしていく。
手早く片付けを終わらせた彼女は帰宅するため椅子から腰を上げた。ところが、サシェルに声を掛けられてしまったのだ。
「サラ、ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「わたしはお菓子屋さんに行く予定なの!」
「へぇ~~~~。楽しんできてね」
「うんうん。ありがとう」
「それじゃあ、またね」
特に誘われるわけでもない。ただの自慢話にしか聞こえなかった。
少々機嫌を悪くしたサラはさっさと教室を去ろうとする。甘いもの好きなサラにとってお菓子屋さんに行くことを自慢されることは我慢ならなかった。一緒に行かないかと誘ってくるならまだしもだ。
「ってそうじゃなくて!」
「まだ何かあるの?」
不機嫌そうに目を細めながら、サシェルの方へと顔を向ける。
ここにきて彼女も自分が自慢話をしていただけにしか取れなかったことに気が付いた。気まずそうにしながらも本来言うつもりだった言葉を告げる。
「えっと…………、明後日なんだけど一緒にケーキ屋さん行かない?」
「…………ごめん…………。その日は後輩と勉強会をする約束をしているから…………」
予定が入っていなければ、行くことを即決していることだろう。だが、もうすでにリーシャと勉強会をすると言う予定が入っている。誘ってくれたことで不機嫌ではなくなったが、残念そうな雰囲気があふれ出ている。
「「……………………」」
逆にサシェルは捨てられた子犬のような表情をしていた。そんなに悲しそうな目を向けられたら居たたまれなくなってしまう。視線を明後日の方向に向ける。サシェルのお誘いと自身の行きたいという気持ちが合致したこともあって、自分の予定をどこかで開けることを決意するのであった。
「週明けに返事をするわ…………」
「…………お願いします…………」
サシェルは一人でならば行くつもりはなかったのかもしれない。サラと行くことを前提で考えていたのであれば、必死さが窺えたのも頷ける。
「それにしても休日に勉強だなんてよくやるね…………」
「できるだけいい成績取っておこうかと思って…………」
「わたしなら、絶対にしない…………」
サシェルは基本的に必要最小限の時間しか勉強はしない。そのため、いつも補習に駆り出されるか駆り出されないかの瀬戸際に居る。
いつも何とか回避はできているものの、あまりいい状況とは言い難い。見かねたサラは以前、サシェルに勉強を教えようかと尋ねてみたものの拒否された。理由は休みの日に勉強は絶対にしないと決めているからなのだとか。
「どうせ私たちに明るい未来なんて待っていないんだから…………。この呪いさえなければ、少しは未来に希望が持てそうなのだけどね…………」
「だとしても、わたしは諦めたくなんかないよ…………」
「まぁ、希望を捨てないと言う気持ちには尊敬の念を覚えるけれど…………。できるうちにやりたいことをしておくと言うのもいいことだと思うよ…………」
「…………」
その言葉にも一理ある。だからこそ何も言い返すことはできない。
未来に希望を持って前に進み続ける。それができればどれほど心が軽かっただろうか?
「だから実習もサボっているの…………?」
「うっ…………!」
図星のようだ。言葉に詰まるサシェルであった。
〈あとがき〉
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