第2話 忘れ物
授業前、空いた時間を利用してサラはノートで改めて先週の授業の復習をしていた。彼女は基本的に成績が良い。だが、魔法系統以外のものに関しては彼女が努力に努力を重ねて得た結果である。寝る時間を削り過ぎないよう気にしながら、毎晩も勉学に励んでいるのだとか。
先週の範囲を見終えたサラがふと左隣に目を向けた。
そこには午前中、居なかった友人――サシェル・アポトレアの姿があった。何故かワタワタと慌てた様子で視線を色んな方向へ行ったり来たりさせている。どう考えても何かあったとしか思えない姿である。
だが、悲しいことに助けてくれる人はいなかった。
隣に座っているサラですら、とても可愛いなと思いながらぼんやりと彼女の姿を眺めている始末。サシェルに視線を向けている他の人も総じて暖かな目を向けるだけという。
「んっ…………。サシェル、どうかしたの?」
「なっ、何でもない!」
今更ながら、現実へと帰還したサラがサシェルへと声をかけた。
バッと音が聞こえるかと思うほどの速さでサラの方へと向き直ったサシェルは知られたくない何かを隠すように大き目な声を上げる。まったくもって隠せてなどいない。明らかに隠し事をしていますと言う雰囲気であふれている。
「本当に…………?」
「も、もちろん!」
サラから疑わし気な視線を向けられる。その視線を受けて気まずくなってきたサシェルは椅子ごと身体をゆっくりとサラが座っている方とは逆方向に動かしていく。だが、離れていくにつれてサラの探るような視線は強まっていく。
「サシェル……?」
「ひっ…………!」
逃げていくサシェルの手首をサラが掴む。逃がさないとばかりに視線を強くする。
流石の威圧感に肩をびくりと震わせる。
サラは何か手掛かりを見つけるために視線をサシェルから外して、彼女の前の机に向けた。そこで気が付いたのだ。自分の机の上にはあって彼女の机の上にはないものを。
「まさか…………。教科書…………?」
ぼそりと小さな声で呟く。
その言葉を聞いたサシェルは思わず肩を震わせた。
どうやら正解のようだ。固まったまま微動だしない彼女の耳はほんのりと赤く染まっている。気が付かれてしまったことへの羞恥心でいっぱいなご様子。見せて欲しいと伝えることに対しても恥ずかしさがあるのだろう。
何も言えずに俯いていると…………。
「一緒に見ましょう?」
その一言を聞いた瞬間、サシェルの顔にパッと笑顔が咲いた。
「あの…………。その…………。ありがとう…………」
「どういたしまして」
直にお礼を言うのはどうにも恥ずかしいのか、口籠ってしまう。それでも何とか小さな声で感謝の気持ちを口にした。にっこりと笑みを浮かべてサラはサシェルの言葉に答えた。
授業が始まって少し時間が経った頃、再びサラがサシェルの方を向いてみると…………。
「…………」
死んだ魚のような目でぼんやりと空を眺めていた。
「はぁ…………」
いつもの行動ではあるものの、教科書を読んでおくことぐらいはしておけば後から地獄を見なくても済むのにと思わざるをえない。サラはかけるべき言葉を失って大きな溜息を吐くしかできなかった。
〈あとがき〉
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