第一章 「いつもの日常」
第1話 先輩と後輩
お昼休み。
高等部四年生のサラ・カーバインは学校の中庭にてぼんやりと空を眺めていた。時折、波打つ膜が空を歪める。一人の少女がサラの元へとやって来た。
「先輩、何しているんですか? こんなところで」
「リーシャ…………」
少女の名はリーシャ・ウォルター。高等部二年生でサラが親しく接しているただ一人の後輩だ。話しかけることが出来たのは彼女ただ一人だったのが原因なのだが…………。
そもそもサラは異名が付くほどの魔法の才だけでなく勉学にも秀でている点から高嶺の花という認識を持たれている。そのような認識を持たれていることを知らないのは本人ぐらいかもしれない。他人のこととなると察しが良いにもかかわらず、自分のことになると途端に駄目になってしまうのはどういうわけなのか。
「空を眺めていただけ…………」
「綺麗ですか?」
「えぇ…………。心が落ち着くわよ?」
視線をリーシャへ向けながら、自分の座るベンチの左隣をポンポンと叩く。それを見てここに座るように言われているのだと察し、サラの左隣へと腰かけた。
風が空を掛ける。葉桜の揺れる音が響く。
「…………」
目を閉じ、自然が奏でる音に聞き入っていたサラ。左肩に何かの感触を覚えてそっと瞼を上げた。チラリと視線だけを動かすと、サラのすぐ左には目を瞑り心地よさそうな表情をしたリーシャの顔があった。どうやら眠ってしまったリーシャが凭れ掛かって来ていたらしい。
「まったく…………」
苦笑いを浮かべながらも、優しげな眼でリーシャを見る。肩に乗っていた頭を膝に乗せた。柔らかな手つきでリーシャの髪を撫でる。
サラは微笑んでいた。二人は実の姉妹のようだ。ここにあったのはただ姉に甘える妹、ただ妹を甘やかす姉の姿だけだった。
温もりが二人を包み込む。
少しだけ続いた二人だけの時間に校内に鳴り響いた鐘の音が終わりを告げた。
リーシャの肩をゆすって優しく起こしてあげる。まだ眠たげにしている彼女の背筋を伸ばしてやりつつ、ベンチから立ち上がるサラ。学年が違う二人はここでお別れだ。
「それじゃあ、またね。リーシャ」
「ふわぁ…………。は……い…………、しゃら先輩…………」
サラが欠伸をしながら目を擦っていたリーシャへと軽く手を振ってその場を後にした。
〈あとがき〉
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