第388話 東方「エピローグ」
0388_26-20_東方「エピローグ」
遺跡の内部。
最深部へ続く道を降りていく、その先の最初の広場。
先行して案内している者の指示に従い、道を逸れて1つの壁に近づく。
その壁が音も無く奥へ沈み、そして横に移動し、1つの門が開く。
奥に進む。
そこには、魔道具による機器が壁一面に収まっていた。
「どうか?」
「詳細は持ち替えって解析する必要が有ります。
ですが、現状は状況維持が続いていると考えられます」
「確定できないのか?」
「申し訳ありません、私たちもこの設備を見るのは初めてで。
文献に残されている情報も、正確に読み解ける者がおらず。
判っていることは『動作を安全に停止している状態』を示す表示がある事だけです」
「無理言っていることは判る、すまんな。
つまり、このまま封印してしまっても良いのであるな」
「はい、それは間違いありません。
隔壁が全て破られていなかったのは、良かったです」
暫く考え込む。
そして、同行者の肩を叩く、部屋にバシンと大きく。
痛みは少ないのだろうが、たたらを踏んで肩を押さえ涙目になる同行者。
「ならば良い、さて、戻って肉を食うぞ!
皆も付いてこい、いい肉を扱っている店を聞いて置いたぞ!」
豪快な笑いをすると、また周囲の同行者の肩を叩き、その部屋を出て行く。
また、静かに扉が閉まると、広場にはその痕跡が消え去った。
■■■■
領軍の隊長は、今回の件を、どのように報告するのか悩んでいた。
同行している文官には、今回の成果を被害を客観的な数値としてまとめさせている。
成果は、オーエングラム卿と魔導師の警護に成功し、遺跡の保護も無事開始した。
被害は甚大だ、遺跡の最深部での防衛戦に参加した兵士の半数以上が負傷して今もコウの町で治療中だ、死者が数名だったのだけが救いだ。
もう1つ有る。
襲ってきた探索者、その装備一式を入手することが出来た。
性能は高い、少なくても領軍の特殊部隊で使用しているものよりも、質は兎も角機能は上だ。
それは非常に脅威である事は容易に推測できる。
国の庇護の下に居ない、無法の者達が兵士や守衛よりも強力な装備で襲いかかってくる。
この事実は庶民に知られてはいけない。
遺跡の中で完結して良かった。
武器の銃。
コウシャン領では銃砲の小型化は行われている、それでも単発で精度も低い。
実用とは言えない。
威力は、鉄の鎧を貫通して肉に食い込む、鎧の無い所なら問題だが急所を防御すれば死に難い。
連発できる、数発ではあるが、その数発を複数人で行う事により面での攻撃になる。
革の鎧が中心の守衛や、通常時は部分鎧しか装備していない領軍の兵士のであれば、死傷者が出ることを容易に想像できる。
宰相様へ直接報告するしか有るまい。
領都へ戻る街道は、冬の訪れを告げる冷たい風が吹き始めていた。
■■■■
東方辺境師団の輸送部隊。
コウの町での物資の調達を済ませ、移動を開始した。
今回は畜産物を入手することだが、1つの町で入手するとしては多い。
問題は無い、以前に調達したときと同量であったし、期間も十分に設けた。
本来の目的を行う為に。
東方辺境師団の本部からの指示で、探索者に扮した兵士を送り込んだ。
商工業国家から密かに入手した兵士の装備を付けさせて。
およそ半数以上が死んだ、そして残りは全て捕虜として東方辺境師団に引き渡された。
輸送部隊の総指揮官であるオッペンハイマー大尉は、この事実を苦々しく思う。
軍隊において命令は絶対だ。
探索者役の兵士を指揮する者は、オッペンハイマー大尉の指揮下では無い、独立した部隊になる。
つまり、探索者の一団に対して輸送部隊は、全面的に協力する義務が発生している。
もう1つ、予想外の情報が入ってきた。
コウシャン領に生まれた、最も若い魔導師。
対して興味をもっておらず、今回の作戦を開始するにあたり、情報を精査した。
マイだ。
直感でそう判断した、俺たちが教えた事を実践している、と。
有り得ない、年齢が9才であることから、まず別人のはずだ。
時空魔術を高度に行使し、魔物との実践でも躊躇せず対応し、指揮行動能力も高い。
そして、面会した。
確かに幼い、見た目だけなら似ているが年齢が全く会わないのは情報通りだった。
だか、間違いないマイだ。
心の中を色々な思いが駆け巡った。
2度、死なせてしまった。
1度目は、本当に単純なミスだ。 何時も通りの小競り合いだと気を抜いたために、マイを焼落させる砦の中に閉じ込めてしまった。
2度目は、見殺しだ。 コウの町に退場の上位種の魔物が発生することが判っていて、派兵の許可を取り付けられなかった。
総指揮官とはいえ管轄は輜重部隊に限られる、作戦立案と兵士の分配への意見は限定的にならざるえない。
何方も言い訳に過ぎない。
3度目はさせない。
独断で、オーエングラム卿と魔導師マイに面会し、今回の調達行為の裏にある、探索者の襲撃について伝えた。
輸送部隊で入手している、商工業国家の最新装備も見せることが出来た。
そして、辺境師団で使用している武装の供与も実現できた。
出来る事はやった。
そして、守れた。
森の中、密会を伝えた。
来るとは思えなかった、魔導師という立場もある、自分の秘密を隠す必要も有る、今更何を言う立場に自分が居無いことも判っている。
だが、マイは来てくれた。
怒った、それは一般兵を巻き込んだことに対してだ。
自分を危険に晒してしまった事には何の恨みも持っていない、相変わらずだ。
結局、輸送部隊の部隊長としての挨拶をするまで顔を見ることが出来なかった。
これでいい。
東方辺境師団の中枢が何を考えているのかは、判らない。
ただ、大きな動乱が起きる可能性は高い。
輸送部隊に命令されている物資の調達内容を見れば一目だ。
マイが巻き込まれる可能性は有る、魔導師だ、その影響力は旨く使えば大きい。
コウシャン領の貴族だけでは無い、王都の王族も注目しているはずだ、だからこそ、オーエングラム卿が此処まで来ている。
次は敵になるかも知れない、それは判らない、が当てには出来ないということを、助けに行けないと言うことを伝えるには十分だろう。
輸送部隊の行動は何時も通りだ。
その中に、独立部隊が居たが、東の町まで来たところで、別れる。
結局、最後まで探索者に扮した兵士達とその指揮官とは話す機会を得られなかった。
■■■■
何時ぶりだろうか?
時空魔術研究所へ私たちは戻ってきた。
魔導師専用に作られた最新式の馬車を先頭に、幾つかの荷物を積んだ荷馬車が2台。
馬車には、私とシーテさん、フォスさん。
ナカオさんは、後ろの荷馬車に居る、一緒に乗ってくれなかった。
研究所の門では、何時ものように守衛さんが出迎えてくれる。
研究所は、外観が大きく変わった。
研究所と庭園を囲う壁は高くしっかりとした物になり、人の侵入も簡単では無くなった。
研究所も、破損し板を代わりに嵌めていた窓が全て新品のガラスに入れ替えられている。
執務室に入ると、窓からの明かりが室内をほどよく暖められていた。
その窓から見下ろせる庭園は、以前と変わらない。
手前側は花壇だけど、その向こう側は自給自足用の畑が広がっている。
耕した土だけの所も多いけど、しっかりと整備されている。
シーテさんに促されて、椅子に座る。
その私をシーテさん、フォスさん、ナカオさんがにっこりと笑いながら見つめてくれている。
私は、一度やってみたかった事をする。
上官が重大な話を切り出すときの癖だ。
膝を机に付き、両指を絡めて、その指の上に顎を乗せ、全員を見つめる。
「さて、これからの方針を話し合いましょう」
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