第384話 東方「再結集」
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元上司であるオッペンハイマー大尉。
現・東方辺境師団の輸送部隊、輜重部隊の総指揮官。
その権限は、役職としては辺境師団の師団長に次ぐ立場になる。
王都の上位貴族の子息であるそうなので、本来は、こんな辺鄙な町に居て良い人物では無い。
居る理由は、王族の血族であり公爵家の人物である、オーエングラム卿が居るからだろう。
オーエングラム卿は現在、筆頭魔導師の格を返上し爵位だけ持つが、その影響力は莫大だ。
現に、コウシャン領へ来た視察の責任者でもある。
東方辺境師団としては、副師団長 級の人物を派遣する必要が有る、輸送部隊という自由に動き回れる立場である、オッペンハイマー大尉に指示が来たのは当然とも言えるね。
その人物から、1対1で内密に会うことを提案された。
さっそく、シーテさんと相談する。
私の独断で動けない、そんな迷惑なことは出来ないよ。
「マイちゃん、これが罠である可能性は?」
「あるでしょうね。
私を攫うにしろ、懐柔するにしろ、私を1人にするのは常套手段です。
ですが、罠では無い可能性の方が高いとも思います」
「なんで?」
「東方辺境師団は権限として、コウシャン領に私の派遣を要求できるはずだからです。
ですから、何かあるとしても、内諾を得るのが目的かもしれません」
「読めないわね。
正規の手段でも会うことは出来るのに、内密に会いたいと、目的も不明で」
「行かない、という選択肢はありません。
オッペンハイマー大尉は、おそらく私の正体に気が付いて居ます。
そのうえで、それを口外た様子は見られません。
別の目的が有ると思って良いでしょう」
「了解、では当日は私と2人で森に採取に入ると言うことで。
気分転換とか実戦の勘を取り戻すとか、理由は後付で。
条件は、私を収納して連れて行くこと。
収納空間から外の様子は映像でしか判らないけど、何かあったときに私が側に居た方が良いでしょう」
収納空間に入って問題になるのが、現実空間の様子を確認する方法が限られる事だ。
私が外に出て居る状態なら、光属性の魔術で映像を映すことが出来る。
だけど、動的に表示することは出来ないし、音も伝えられない。
私が収納空間に入っても、外の様子を伺えるのは自分で映像だけだ。
シーテさんを収納していくのは心強い。
と、同時にもしも罠だったときに、シーテさんも巻き込むことになる。
シーテさんの私を見る目は、揺るぎない。
断ることは出てきないね。
「判りました。
頼りにしています」
私は頭を下げるしか無かった。
シーテさんは、なんでここまで私のためにしてくれるのだろう?
私はシーテさんのために何が出来るのだろう?
私は、やる気になってガッツポーズを作っているシーテさんを頼もしく見ながら考えてしまう。
森へ採取に入ることは、多大な難色を示された。
コウの町の町長やギルドマスターからも。
当然だけど、フォスさんやナカオさんからもだ、2人が泣きそうになってしまったのは、当惑してしまう。
親衛隊、領軍と守衛からは反対意見は出てこなかった。
結局、私とシーテさんに加えて、ギムさんとブラウンさん、ハリスさん、それにジョムさんも何処からか聞き出して参加してきた。
昔の視察団チームによる護衛となった。
何でこうなった?
私は、その人員配置になったことに、何処か思惑がある事を感じているけど、それ以上にこの人達と一緒に出かけられるのが嬉しくてたまらない。
更に、私が採取に入る森、コウの町の東の森だ。
これは、コウの町の東の門に、東方辺境師団の輸送部隊が駐留しているのと、時空魔術研究所があるので警護するのに向いているから。
当日は、冒険者や狩人が”他の依頼”で入る名目で私の護衛を遠巻きに行う手筈になっている。
過剰対応に成っているのは、これ以上、重要人物が襲われるような事態を避けたいからなんだろう。
結果として、ギムさん達にも話すことになってしまった。
「そうなると、ギム。
私達は、マイさんと採取していることにして、そこに居たことにするのが役目ですね。
此方を監視は誤魔化せるでしょう。
問題は、マイさんの移動方法ですね」
そう、長距離転移を使うときには、長い集中と転移先の遠隔視覚による確認が必要になる。
そして、転移の時に光るそうだ、私には判らないけど、それはもう派手に。
そして誰かを収納した状態での長距離転移も未検証で安易に試せない。
だから、行うのは時空転移になる、時空転移は誰かを収納した状態で試したことがあるので問題無い。
そもそもが、収納と遠距離取出を行うだけなので、安定性も高い。
問題は、その距離だ。
短距離での時空転移は今の所、約30mが安定して使うことが出来る限界だ。
たぶん、もっと長距離が出来る気配があるのだけど、検証できていない。
移動する場所を慎重に考える必要が有る。
行く時も戻る時も。
ギムさんが入手してくれた、東の森の詳細地図を確認して場所を検討する。
オッペンハイマー大尉と会う場所は、東方辺境師団が駐留しているコウの町の東の門、そこから北方向に向かって移動した森の中だ。
場所としては、湿地帯の有る辺りになる。
その当日は、東方辺境師団が演習を行うために北方向の森も含む一帯を立ち入り禁止にしたのも、偶然では無いだろうね。
位置的に言えば、東の森の北側は深い森と山々があり人が立ち入るのが難しい。
西側は湿地帯と東方辺境師団が居て、さらに西側に遺跡がある。
なので、私を遠巻きに護衛する人達は、東の森の東側、時空魔術研究所付近と街道を中心に護れば良い。
その配置に抜け道がある。
私を護るのに集中しているから、私が抜け出すことを想定していない。
山の方へは、ごく少数の深い森へ入ることが出来る能力がある人が担当している。
だから、監視が殆ど無い東の森の北西方向へ行くことになる。
東の森に入って予定の場所で、時空転移を行って北西方向から目的地へ移動すればよい。
気になるのは、オッペンハイマー大尉は私が時空転移を使える事まで知っている、ということだ。
でなければ、私と1対1で密会をするという選択肢を選べない。
領主様経由で王都へ伝えられたことは、全部知っていると思って行動しよう。
少なくても、私に関わる士官級は情報が回っている、のか。
「警護予定の配置も事前にわかっているのは有り難いですね。
オッペンハイマー大尉と会うのは夕方ですから、野営の準備をした時に移動をすれば良いですね。
テントに入って時空転移すれば良いかと」
「それでいいでしょう。
マイさんの、人を収納できることは、まだ公にしていないのですから、警護している人達に知られないように気を付ける必要が有ります。
私達を収納して野営する事が出来れば、私達毎移動できたんですが」
廃棄都市から戻るときは、全員を収納して収納空間内で野営したり移動中の休憩を取っていたりした。
今回はそれを使うことが出来ないので、普通にテントを使って休む。
ブラウンさんも含めて、皆が一緒に行きたがっていたけど、流石に無理があるので、シーテさんだけにしてもらった。
なんか、いろんな装備をシーテさんに渡しているけど、困っているよ。
そうこうしているうちに、東の森へ採取しに入る日が来た。
■■■■
私達は、マントを羽織って一見 冒険者のように見える格好でコウの町を東の門から出る。
既に先触れが出て居て事前調整済みなので、門でのやり取りも芝居掛かっている。
「ギルドの依頼ですか?」
「はい、2泊3日で薬草の採取を行いに行きます」
「そろそろ寒くなるので、夜は注意して下さい」
「はい、ありがとうございます」
守衛の人は見たことがある人だ。
そして、対応はブラウンさんが行っている、上司と部下だね。
やり取りも事前に決めてあったのか、ちょっと不自然な感じがあったけど定型の手続きをしてコウの町を出る。
朝早い時間、門を出て左側、北側の方に東方辺境師団の輸送部隊の駐留しているテントが見える。
朝食の準備だろうか、煙と水蒸気が上がるのが見えるね。
歩哨に立っている兵士も、此方に気が付いて居るが特に何の対応もしない。
緩い丘を越えて、森の入口が見えてきた。
周囲に人が居ない事は探索魔術で確認済みだ。
「ギムさん、今回の私が森に入ることですが、何ですんなり通ったんですか?
町としては、かなり強く止められたんですけど」
「うむ。
今回は、残りの襲撃者が居れば炙り出すのが目的という事になっている。
魔導師を囮に使うのは、問題となっていたが東方辺境師団が賛成したのでなし崩しで承認された。
辺境師団の部隊が全面的に護衛に参加する、演習という名目でな。
守衛も領軍も、懸念の種を取り除いておきたいというのは有ったからな。
あと、この人選は、マイへ配慮という理由で俺が無理を通した」
また東方辺境師団か。
今回の探索者が襲撃してきた事を画策したのなら。
この襲撃事件を計画通りに完了させることが出来た以上、もうどうでも良い事なのだろう。
「今回の襲撃が、東方辺境師団による自演であるのなら、もう危険は無いでしょう。
此方が確認している限り、すでに移動準備に入っているようですし。
東方辺境師団が演習計画を出してきましたが、殆どが装備の動作確認とか基礎訓練でした。
移動前の準備運動という事でしょうか?」
ブラウンさんが振り返り、殆ど見えなくなった東方辺境師団のテントを見ながら呟く。
その目には何とも言えない冷たい怒りが滲んでいる。
「マイちゃん、輸送部隊って移動前に演習なんてするの?」
気を使ったのか、シーテさんが話を変えてきた。
「そうですね、状況によりけりです。
輸送部隊というよりは、護衛の部隊ですね。
細かい人員の配置変更はあるので、役割の確認を含めて行う事は有ります。
襲撃を想定した演習とか、馬車が壊れたときの修理対応とか。
演習をするのは、基本的に平時で特別な任務が無い場合が普通です」
部隊が大きくなるほど、移動や作戦前に準備が必要になる。
装備の動作確認とか、各小隊の役割や連携の確認、それを実際にやってみる実動確認も当然行う。
緊急時に備えて即時動けるようにするためだ。
だから、今回の東方辺境師団が演習を行うというのも、特に不自然なところは無い。
そして、輸送部隊であるオッペンハイマー大尉は、立場上詳細な行動計画を知っているのは当然だね。
今回の密談も、その計画を知った上で提案してきたんだろう。
「ふーん、大規模な部隊は面倒なのね。
思惑はどうであれ、久し振りに羽を伸ばしましょう!
気楽な薬草採取!」
「そうですね、こういうのも良いものです」
ワザとはしゃぐシーテさんに、ハリスさんがにこやかに応じる。
立場上、自由に出歩けなくなってしまった2人だからこそかな。
目的の野営地に到着する。
薬草の採取は明日行う予定だ。
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