第382話 東方「最深部の休息」
0382_26-14_東方「最深部の休息」
広場は散々な状態になっている。
残念だけど、数名が当たり所が悪く亡くなってしまった。
また、腹部など直ぐに治療をしないと助からない怪我をしている人も多い。
大急ぎで、応急処置を開始する。
私達に付いてきた後衛部隊がすぐさま行動を開始する。
ハリスさんを中心とした医者と聖属性の魔法使いが重傷者を中心に優先順位を付けて効率よく治療を行っている。
同行していた後衛だけでなく、親衛隊の人達も医療知識と技術を持っていた為、全員の応急処置は直ぐに済んだ。
親衛隊はオーエングラム卿の護衛だけでなく、病気や怪我の対応も要求されているのか。
因みに、ハリスさん達は、当初、私の収納空間に退避する予定だったけど、ハリスさん以外は未経験で不安の方が多かった。
人を収納するのには、その人の同意というか拒否しない事が、最低限必要になる。
だから、オーエングラム卿と親衛隊、それと私と守衛の中間辺りに作った塹壕のような物の中に隠れていた。
土属性の魔術で見た目で判らなくして置いたんだね。
戦闘中ならこれで十分だという判断だ。
運び出すために担架を用意する、これも親衛隊や領軍の中に時空魔法が使える魔法使いが居て、収納から資材を出して組み立てている。
私の収納にも薬も担架も入っている、が、これを利用するのは他が足りなくなってからと言われている。
負傷者の搬送が第一優先だ、だけどオーエングラム卿や私の守りを薄くすることは出来ない。
人の振り分けについて、少し言い争いをしている。
親衛隊はオーエングラム卿から離れない、守衛も後衛と私達を護るための人員を減らしたくない。
そして、襲撃者の矢面に立った領軍の兵士の大部分が負傷している。
親衛隊と領軍と守衛が、少し険悪気味に話しているところへ、応援の部隊がやって来た。
見た顔だ、ブラウンさんが先頭に守衛と冒険者の一団が駆け込んでくる。
既に戦闘が終わっている状況と、私やオーエングラム卿が無事な事に、ホッとしたのか、私に向かって笑いかける。
私が軽く会釈をして、シーテさんが手を上げて応える。
探索者の移動速度やタイミングを考えても、襲撃が起きたとほぼ同時に追撃部隊を編成して入ってきたんだろうね。
「良く来てくれた!
負傷者が多数出ている、搬送をして貰いたい」
入ってきた人達は皆、肩で息をしているが、オーエングラム卿のその言葉に一斉に頷く。
「よし、体力に余裕のある奴から搬送を開始しろ。
重傷者を優先だ、丁寧にな。
他は小休止、負傷者全員を運ぶぞ」
ブラウンさんがテキパキと指示を出していく。
その姿は副隊長というよりも立派な指揮官だ。
元・遺跡探索の責任者だから適任者だね。
今は領軍が管理している、責任者は挨拶したけど覚えてない。
「コウの町、守衛の遺跡探索の前責任者をしていたブラウンです。
オーエングラム卿におかれましては、ご無事で安心しました。
出来ましたら、直ぐに遺跡を出られることを進言します」
「うむ、そうじゃな。
しかし、少し時間を掛けよう。
今回の探索者の襲撃、目的に不審な点がある。
ならば、遺跡を出る時を狙われる棄権を考慮する、外に待機している親衛隊とも連携を取る」
「はっ。
手配を進めます、まずは、中継地まで移動して下さい。
そこならば、遺跡の出入口と広場の森の方の両方へ移動できます」
オーエングラム卿が考え込んでいる。
2方向への脱出路が有ると言うことは、両方から攻められたとき今日関を受ける事になる。
しかも、最深部と違い中継地がある辺りの通路は普通の遺跡?の広さというか大人数が戦うには向いていない。
襲うにしても少人数の部隊で可能になる。
それは逆に護るのに大人数が不要ということにもなる。
死傷者を多数出してしまっている今、出来るだけ少ない人員で対応したいブラウンさんの思惑は此方だろう。
オーエングラム卿は襲われたときの危険を考えている。
正直、どちらも正しい。
対応できるように準備するしかないだろうね。
「ハリス、お疲れ様。
お茶でもどう?」
シーテさんがハリスさんに声を掛けて、治療が一段落し休憩しているハリスさんを呼ぶ。
クェスさんがお茶を入れてくれる。
料理の楽しさに目覚めた彼女は、お茶を入れる腕も上がっている。
研究所では私とシーテさんよりも上、という程度だけど。
ただ、貴族の出身だけあって、こんな遺跡の最深部で簡易的な茶器であっても優雅にお茶を入れる。
それだけで、気分が落ち着くのが判る。
思い起こす。
オーエングラム卿の魔術の凄まじさは驚嘆に値する。
地下閉鎖空間で使える魔術という制限でこれだ、もし地上で制限無く使ったら?
なにより、魔力量とそれを制御する能力が桁外れだ、単純な魔力だけで空間が歪んで見えるなんて現実には有り得ないと思っていた。
親衛隊の連係攻撃も凄かった、オーエングラム卿の魔術の行使をするために必要な間を作り出していた。
そう、凄まじい力は使い始めと終わりに、少しだけど動けない時間が有った、たぶん1~2数という僅かな隙。
その欠点を親衛隊は気が付かせないように立ち回っていたよ。
探索者。
本当に探索者なのかは兎も角、あの銃という武器の有用性は十分に示すことが出来たはずだ。
沢山の領軍と守衛の人達を、多数傷つけて。
今も自力で動ける、応急処置をした領軍の兵士が痛みを堪えながら歩いているのが見える。
親衛隊や守衛の人達にも、流れ弾が当たって軽症を負っている。
怪我人を大量に作ることに長けている、もし戦場で使われたら負傷者の救護に大量の人員を割くことになる。
目的はこれで良かったのだろうか?
探索者の目的。
上官、オッペンハイマー大尉の言葉が確かなら、危機意識を持たせる事にある。
遺跡の中という閉鎖空間のおかげで、一般の人達には気が付かれないように。
本当に?
なぜ、最後に襲撃者は奥の扉の破壊を行おうとせず、私を狙ったんだ?
そもそも、扉の破壊を行うだけの装備があったかも怪しい。
そして私を殺そうとする意思も感じられなかった、殺すつもりなら火薬や銃を私へ使えば良かったはずだ。
人質?
遺跡の最深部から逃げるには有効かもしれない。
だけど、それならばだ、そもそも こんな無茶な襲撃を行う必要が有るのかというとことになる。
計画として。
襲撃により高性能な武器と装備がある事を、関係者だけに知らしめる。
その為に、乖離された空間である遺跡の中を利用した。
遺跡の最深部の奥にある物には関心が無い。
最深部に到達して、死傷者を大量に出すことだけが目的だった。
魔導師で戦闘能力が低い私を人質にして、脱出の手段に使う。
推測してみたけど、かなり間抜けな作戦だ、他にもやりようは幾らでもあるはずだ。
考え込んでいる私を、ジッとシーテさんとハリスさん、それにクェスさんが見つめている。
切り替えよう。
今考える必要が有るのは、安全に脱出することだ。
遺跡の最深部、その扉の安全は取り敢えず守られた。
後始末が終われば、元々、最深部で作業している人達に任せてしまって良いだろう。
中継地までの移動もそんなに難しくない。
途中までは通路も広くて部隊の展開しやすい。
問題は、中継地からだね。
遺跡に偽装した施設、通路幅もそんなに広くない。
爆弾や爆発系の魔法を使われたら、防ぐのはかなり難しい。
負傷者の搬出も済んで、私達が移動する番になったが、疲労も考慮してここで休息を取ることになった。
懐中時計をオーエングラム卿が持っていたので、今が夜中であることを教えて貰った。
さすが高位貴族、時計なんて高級品を個人で所有しているのか。
辺境師団に居た頃にも時計は使用されていた、当然だけど士官か指揮官だけ。
その場所に居る最高指揮官の時計に全員が合わせて、その時刻を元に作戦行動を取る。
上官に聞いた話、時計の精度は悪くて、1日に数分単位でズレるそうだ。
タイミングを合わせて行動するということは、辺境師団に居た頃でも数回しか経験したことが無いので、有用性は実感としては余り湧かない。
あと、貴族は都市の中心にある標準時刻を刻む魔道具を基準として行動しているそうだ。
あれ? 宰相様から送られてきた物の中に時計が合ったかも知れない。
そこそこ大きな置時計だったはず、執務室に飾ってあったかな?
使ってない、コウの町では日が出たとき、日が直上に来たとき、日が沈み始めたとき、の3回に鐘の音がなるだけだ、時刻で活動するという習慣が無い。
研究所でも同じで、そもそも標準時刻が判らないので正しい時間が判らないから置物と化していたはず。
そうこうしているうちに、野営の準備が終わって簡単な食事をとって交代で休んでいく。
広場というか広い空間だけど、音は響くので静かになると人の動く気配がよく判る。
くぇすさんをオーエングラム卿の元に戻して、私とシーテさん、ハリスさんの3人になったところで合図をして、2人を収納する。
簡易的なテントの中に入ることを守衛に告げて、テントの中で私も収納空間には居る。
これで、内密な話が出来るね。
「まずは、マイさんが無事で良かったです」
収納空間に入って最初にハリスさんの優しい声で迎えられる。
シーテさんも収納空間の中になれたのか、手慣れた感じでお茶と軽食を用意しているね。
「ハリスさんも無事でなによりです。
探索者の目的は判りませんが、少なくてもオーエングラム卿と私は殺すつもりは無かったようですから」
「それは、何故?」
「ここから脱出するための人質にしたかったのかもしれませんね。
計画が
戦力が集中している時を狙って襲撃するのもおかしいです。
時空魔法が使える魔法使いが居ましたが、本気で遺跡の最深部の奥へ向かうという意思が感じ取れませんでした」
「そうね、持っていた装備を見ても、壁を破壊できる物は無かったわ。
魔法使いも居たけど、破壊できるほどの魔法が使えるかは何とも」
シーテさんが机にお茶と軽食を並べ終わって、私達に向きながら考え込むような仕草をする。
「シーテさん、ハリスさんには?」
「まだよ、話す機会が無かったから」
「なんですか?」
私は、不思議そうなハリスさんに、オーエングラム卿とオッペンハイマー大尉の話を省略して伝えた。
温厚な表情なのに、怒っていることが伝わってくる。
ハリスさんが私に向かって言う。
「他に方法は無かったんですか?」
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