第380話 東方「防衛」
0380_26-12_東方「防衛」
「それは本当なんですか!」
フォスさんの悲鳴に近い叫び声が響く。
探索者が侵入したときの爆発音は遺跡入口にまで響いた。
直ぐに確認のための守衛が入ったが、報告に戻ってきた守衛の方が早かった。
ギム隊長を初めとした主要な人員が遺跡に入ろうとしていたところで報告を受ける。
探索者の襲撃を受けて、領軍は半壊し突破された。
報告を受けたギムが直ぐに指示を出す。
「うむ!
直ぐに治療班は護衛と共に広場へ、応急処置が終わったら順次運ぶ、人員は冒険者から選抜する。
広場は放棄する! 爆弾を利用して完全封鎖を行う。
唯一の出入口である此処が最終防衛で探索者を迎え撃つぞ。
準備を怠るな!
敵は領軍に奇襲とは言え圧倒して見せた、全力で立ち向かう。
ブラウン! 突入部隊の編成を出来次第 最深部へ応援に向かえ」
「準備済みですよ、ギム隊長。
突入部隊、出発します」
ブラウン副隊長を先頭に、31人の部隊がすぐさま遺跡に入る。
いつの間に準備を済ませていたのか?
ギムは呆れつつも頼もしい部下を見送る。
「遺跡から町への搬送用 馬車の準備、それと教会へ負傷者の受け入れ準備を要請。
先触れを出せ」
「ギム隊長。
マイ様は大丈夫なのでしょうか?」
慌ただしい喧噪の中、怖ず怖ずと、ギムの側にフォスが近寄る。
時空魔術研究所の文官であるフォスが心配そうに訪ねてくる。
最初に面通ししたときの感情の抜けた女性とは同一人物に見えないほど、心配そうな感情を前面に出している。
これもマイの影響なのだろうか?
「全力を尽くします。
それにマイ様の側には、オーエングラム卿とお弟子もおられます。
少なくてもこの3人は無事に戻して見せましょう」
ギムが、片膝をついてその大柄な体でフォスを見る。
マイの力なら大丈夫だ、ただし、もう自分を犠牲にするような選択は取らなければ。
無骨な守衛が衛兵のような礼節を取ることに驚くフォスがコクコクと頷く。
マイは護るべき者が居るときには、自分を軽んじてしまう傾向がある。
いや、これは誰でもそうだろう。
今は直ぐに駆けつけて、探索者を挟撃することが必要だ。
「では。
我々も、遺跡入口の守りを固めます。
探索者が外部から更に攻撃してくる可能性も否定できません。
非戦闘職の人達は安全な場所に移動して下さい」
安全な場所、この場合は遺跡の、コウの町へ向かう道の途中に用意した後方支援用の施設になる。
簡易的な柵で固めてある程度だけど、背後は岩山と道の方向以外は遊水池が広がっていて、護るのも散開して逃げるのにも向いている。
「判りました、お願いします」
フォスが深く頭を下げると、後方支援用の施設、町の職員や教会から来た医師・聖属性の魔法使いの元へと小走りで移動していく。
それをギムは見送ると、守衛や冒険者へ遺跡の浅い階層で構築する防衛について指示を出すために行動を開始した。
■■■■
遺跡の最深部、その広場は多くの人が居るのにかかわらず、作業の音だけが響く。
誰も喋らない。
連絡をしている守衛が来なくなった。
詰まるところ、守衛が居た中継地に探索者が来たんだ。
その性で、連絡要員を出すだけの余裕が無くなった、もしくは、探索者が中継地を突破してしまったか。
オーエングラム卿は中継地の拠点にいる守衛に対して、防衛に徹して損耗を少なくすることを重視するように指示している。
探索者が通り抜けることも容認すると。
不可解だ。
今居る遺跡の最深部は通路がかなり広い、広場なら防御陣地を構築しても隙間は多いだろう。
隙を突かれてしまえば、突破される可能性は高い。
だけど、そこまで来る途中、遺跡の中部なら通路はもっと狭い。
通路も人が3人並ぶのが難しい幅だ。
人を配置するだけで十分に封鎖できる。
死傷者を出さないようにするために何かしているのかな?
この広場も一辺が300m以上あり、天井も10mを超える高さがある。
その陣地の構築の仕方も、崩落してきた岩、いや、天井の構造物の塊を使って最後の扉を囲おうように配置している。
迎え撃つ態勢と言うより、守ることを優先している。
その為、陣地から、広場の入口となる扉までの空間が広い。
……。
オーエングラム卿が何かするつもりで居る、という事かな?
考え込んでいる私の側にシーテさんが来る。
肩が密着するほど近づいて、小声で聞いてきた。
「マイちゃん、この後どうなると思う?」
「そうですね、探索者が来るのは間違いないです。
オーエングラム卿が、なにかしようと考えているようです。
詳しくは知らないですが、オーエングラム卿は戦果を上げて魔導師に成ったそうですから、何かしらの攻撃魔術を行使するつもりなのでしょう。
多分、それで決まると思います」
「オーエングラム卿の魔導師としての逸話は、荒唐無稽なのが多くて信憑性が薄いのよ。
一撃で砦を破壊したとか、数千の兵士を倒したとか、山を削り取ったとか。
そういう噂を流したんでしょうけど。
どんな魔術を行使するのか、じっくり観察させて貰おうかな」
程なくして、作業が終わったのか、中断して待機することにしたのか、作業する音も消えた。
交代で簡易食を食べたり休息を取ったりしている。
戦闘が近いと判断しているのだろう。
その表情は緊張でこわばっているように見える。
「シーテさん、魔術は控えて下さい。
相手が現れるまで、此方の魔術の行使は控えましょう。
オーエングラム卿も、大分前から探索魔術の行使を止めています」
「ええ、気が付いて居るわ。
人が多いから、気配を読むのも難しい、探索魔術を使いたくなるけどね」
オーエングラム卿から、私達に出されている指示は、最後の扉を護る事だけだ。
それも危険な場合は逃げて構わないとも言われている。
それだけ探索者を討伐する自信があるのか、それとも扉の奥にある物が重要では無いと考えているのか。
判断しきれない、奥に何が有るのか知っているだけに歯痒い。
灯の向きが変えられた。
油を使うランプが殆どで、その明かりが傘の向きを変えて、地面方向だけに向かうようにした。
いま広場を照らしているのは、松明を燃やしたかがり火だけだ。
火を使えるのは、空気が十分循環しているからだね。
オーエングラム卿と親衛隊は灯の魔道具を使っていが、その明かりは落とされている。
魔道具の灯は独特らしい、使って居るということは重要人物が居ることを知らせるような物だ。
簡易陣地の壁を見る。
裏側からの簡単な操作で崩れる仕組みを入れて貰った。
相手が飛道具を使うのなら、壁を盾にしてくるはずだ、その瞬間を狙って崩して貰うように お願いしておいた。
指揮権は私に無いので、お願い程度だけどね。
目を閉じて、回りの気配を探る。
時空魔術も使わない、自分自身の感覚を研ぎ澄ます、いや、随分さび付いてしまっている。
昔なら、大体何処に人が居るのか位は感覚で判ったと思う、今は、ただ息を潜めている人達が居るのが判る程度だ。
今回が終わったら、鍛え直さないとね。
何日か森には行って、薬草の収集をしながら感覚を研ぐ、うん、許可してくれるかなぁ。
出来れば、近くで良いから旅もしたい。
北方辺境師団に居た頃は、年の半分以上は移動だったから、同じ所に居るというのは少しだけ違和感がある。
ツンツン。
シーテさんが私の腕を突いてきた。
なんだろ?
目を開けて見ると、ホッとしたような顔をした。
寝ていると思われたのかな?
目を閉じて動かなかったから、気になったのだろう。
クェスさんも、私を見つめている。
気になっていたけど、手を出せなかったのかな。
笑いかけて、心配ないことを伝える。
ジッ
かがり火の炎が、一斉に揺れた。
出入口の方から風がまとまって流れてきたんだ。
広場の中に緊張感が広がる。
探索者の動きが速すぎる。
地形を理解して、風か何か移動の補助をする魔法を使って移動速度を上げているのかもしれない。
全員が顔を伏せる。
探索者が突入したと同時に、オーエングラム卿を初めとする親衛隊の魔術師が大光量の光を瞬間的に照らして、目をくらませる手筈になっている。
強い光を見た後に暗い広場では暫く殆ど目が見えなくなる、成功すれば一方的に蹂躙できる。
それに、光らせる場所を事前に決めているので、陰になる場所を使って移動して死角からの攻撃が可能だ。
私とシーテさんも守衛の人達に守られて物陰に身を隠す。
シーテさんが私を抱きかかえるように守りの態勢を取る。
クェスさんも、腰の細い長剣の柄に手を掛けている。
喉が渇く。
どれだけ待てば良いのかな。
と、地面を見ていた私にも判るほどの強力な光が照らされる。
侵入は確認できなかったけど、前の方では突入するのを確認したのだろう。
光が消えようとした、その時、再び強力な光が光る。
突入時に強力な光で戦力を足止めする。
襲撃者も同じ事を考えていたんだ、発光する火薬か何かが同時に放たれて時間差で度を指したのかな。
何方が、どっちの光を灯したのか判らない。
ただハッキリしている事がある、戦闘が始まった。
ーー
2024年10月02日(水)修正。
遺跡の入口に待機しているはずのフォスが、遺跡の最深部にも居る表記になっていました。
クェスが控えているのが正しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます